リモートワークや業務の効率化が進むIT業界で、あえて「人と人とのリアルなつながり」を重視しようという企業が少しずつ増えている気がしています。

なかでも、札幌に本社がある総合ITソリューション企業「HBA」では、「働きたい・働き続けたい」と社員が感じる環境づくりに力を入れていると話題だとか。

同社は、道内外にオフィスや営業所を開設。2023年から始まった各オフィスのリニューアルに社員の自由なアイデアを反映しています。

今回取材したのは、社内の技術共有を目的としたイベント「DX-Labo.」の一環として行われた、新入社員による研修成果発表です。

IT企業ではリモートワークや業務の効率化が進む一方で、部署や世代を超えたコミュニケーション機会の創出が課題になることもあります。同社では、この発表会を単なる研修の集大成ではなく、社員同士の新たなつながりを生み出す場として位置付けています。

  • HBA創成イノベイティブオフィス内のABW(Activity Based Working)エリアと呼ばれる柔軟な働き方を可能にする多目的スペース 提供:HBA

    HBA創成イノベイティブオフィス内のABW(Activity Based Working)エリアと呼ばれる柔軟な働き方を可能にする多目的スペース 提供:HBA

新人と先輩の「はじめまして」の場を創出

HBAの新入社員研修は、毎年入社時から2カ月間行われます。ビジネスマナーなどを身に付ける「社会人研修」のほか、実際の開発現場を想定してプログラミングやチーム開発を学ぶ「技術研修」に取り組みます。

そして、研修の総仕上げとして新入社員全員によるコンペ形式のプレゼンテーションを実施しているそうです。

「以前は、講師と人事内に向けて研修成果を発表していました」と、話してくれたのは経営企画本部 経営企画室 経営企画グループ野田さん。

「昨年から新入社員の発表内容も全社的に情報共有しようと、以前からの社内技術発表イベントに組み入れ『DX-Labo.-Fresh Steps Forward-』としました」

  • HBA 経営企画本部 経営企画室 経営企画グループ 野田さん

    HBA 経営企画本部 経営企画室 経営企画グループ 野田さん

この新スタイルの背景になっているのは「イノベーションが起こせる組織と風土づくり」と説明します。

1964年創立のHBAは、すでに60年以上にわたり事業を継続しています。

「AIに象徴されるようにIT業界の技術の進化、市場の変化はめまぐるしく、スピーディな適応が求められます。社内のイノベーションを進めて新しい価値を打ち出していくためにも、新入社員のプレゼンテーションの場は、もっと気軽に全社員が参加できるといいよねと考えました」

発表会を全社イベント化したことで、新たな効果も見えてきたといいます。野田さんは「新人は配属前の不安を解消でき、先輩社員は今年入社したメンバーを知ることができます。部署や勤務地を超えて交流できる場として定着しつつあります」と話します。

発表会はオンライン配信も行われており、札幌だけでなく東京など他拠点の社員も参加できる仕組みになっています。

新人の配属後は、日常的な関わりは主に所属部署内になってしまうため、「できるだけ部署の垣根を越えた交流の機会をつくり、社内の横断的なコミュニケーション促進に貢献したい」と、野田さんのおだやかな口調の底には社員を思うあたたかな気持ちが宿っているように感じました。

実際にイベントに参加している先輩社員、プレゼンに臨む新入社員はどのような気持ちなのか。さらに聞いてみました。

「発信したくなる」オープンで刺激的な社風

先輩社員代表として話を聞かせてくれたのは、経営企画本部 経営企画室 広報グループ入社11年目の平田さん。

「私の時代は、このような社員全員が参加できる新人研修はありませんでした。先輩たちとのつながりができる貴重な場になっていて、正直うらやましいです(笑)」

  • HBA 経営企画本部 経営企画室 広報グループ 平田さん

    HBA 経営企画本部 経営企画室 広報グループ 平田さん

文系の大学出身ながらIT業界に興味を持ち、SEとして入社した平田さんは「新しい発想やアイデアで新事業を提案する人などが増え、社内イノベーションにつながるような風土づくりが進んでいますね」と社内の変化を明かします。

「DX-Labo.」は年に数回開催され、プレゼンターを志望する社員は年次を問わず誰でも参加できるそうです。

平田さんもこれまでに2回のプレゼン経験があります。

「発表後には他部署の社員から声をかけてもらう機会も増えました。普段接点のない人と話すきっかけになり、社内ネットワークが広がった実感があります」

あまり関わりがなかった人からのリアクションもあり、いろいろな社員と交流したいという望みが叶ったと平田さんは話します。

新入社員と2年目社員との交流会が研修に組み込まれるなど、あらゆる場面で社内コミュニケーションの機会を創出しようという試みがHBAでは始まっているようです。

新人研修が終わり、達成感と寂しさが交差

この日プレゼンテーションに挑む新入社員の1人、子安さんにイベント直前にもかかわらず話を聞けました。

文系大学出身でITに関しては全く未経験ながらSEとして入社した子安さんは「同期の仲間や講師の方たちに支えてもらいながら、技術を身に付けられたかな」と約2カ月間の研修を振り返ります。

  • 全社員向けプレゼンテーションに挑んだ今年の新入社員・子安さん

    全社員向けプレゼンテーションに挑んだ今年の新入社員・子安さん

約2カ月の研修を通じて同期との結び付きも深まり、配属を前に新たなスタートへの期待を膨らませていました。

「研修がほぼ終わり、達成感と同時にみんなと離れる寂しさも感じています。周りはすごく優しい人ばかりです。配属後も社会人としてたくさんのことを吸収しながら頑張りたいですね」

少しの寂しさとこれからへの期待が交差しているようでした。

2カ月間の研修成果を凝縮した20分間のプレゼン

いよいよ、プレゼンイベント「DX-Labo.-Fresh Steps Forward-」がスタート!

HBAの創成イノベイティブオフィス内のABW(Activity Based Working)エリアと呼ばれている、緑と木のぬくもりがあふれる多目的スペースに全新入社員をはじめ先輩社員がぞくぞくと集まってきます。

研修の総仕上げとして与えられた課題は「北海道物産をPRするECサイトの企画・開発」。 35名の新人が、いくつかのチームに分かれて意見を出し合い、独創的なオリジナル機能を付加したECサイトづくりに取り組みました。

子安さんのチームメンバーは5名。約2週間、話し合いを重ねながらユーザーはもちろん生産者にも使いやすいECサイト構築を心がけたそうです。その方向性が評価され、新入社員を代表してプレゼンすることになりました。

  • 新入社員を代表してプレゼンに臨んだ5名

    新入社員を代表してプレゼンに臨んだ5名

登壇したメンバーは、初めて会うたくさんの先輩たちを前に最初こそ少し緊張の面持ちでしたが、自己紹介で「みなさん、飲み会にはいつでもお声がけください」とアピールするなど余裕も感じられました。

発表が始まると、それぞれの担当パートをスライドで示しながら説明。マイクのバトンリレーがスムーズで、きっと何度も練習を繰り返したのだろうという足跡がうかがえます。 発表では、北海道物産をPRするECサイトの企画・開発成果を披露。チームごとに課題分析やコンセプト設計、機能開発の内容を紹介しました。

プレゼン終了後には、先輩社員から多くの質問やアドバイスが寄せられました。「これだけのきれいな画面を短期間で制作して驚きました」「分析結果とコンセプトの結びつきはもう少し改善できそうだね」「大変良くできているので、大手ECサイトともっと差別化するポイントがあってもいいかな」など会場には自然と会話が生まれていました。

研修成果の共有だけでなく、新人と先輩社員をつなぐコミュニケーションの場として機能していることが伝わってきます。

きっと、この後の懇親会でも先輩たちからさまざまなアドバイスがあったことでしょう。 ここからは、配属先の現場でリアルな課題に向き合っていく新入社員のみなさん。所属部署の先輩、上司はもちろん全社的なサポートを大切にしているHBAで、どのような日々が育まれていくのか。

新しい仲間をあたたかく迎えようとするこの環境から、未来のイノベーションを担う頼もしい姿が見られる日も、そう遠くないはずです。