北海道電力の水力発電部門で、2026年度の新入社員を対象とした導入教育が行われている。座学に加え、実際の発電所での実機研修を通じて、技術者としての基礎と安全への意識を身につける取り組みだ。

今回、芦別市にある野花南発電所で実施された研修の様子を取材した。

  • 水力発電所で行われた実機研修の様子

    水力発電所で行われた実機研修の様子

「理論」と「実機」をつなぐ、現場での学び

水力発電部門に配属された新入社員は、札幌市にある総合研修センターでビジネスマナーや報連相など社会人としての基礎を学んだ後、約1週間の部門別導入教育を受ける。電力の基礎や関連法令といった座学に加え、フルハーネス型墜落静止用器具の使用方法など、安全に関わる実践的な内容も含まれる。

その後、研修の場は滝川市の滝川テクニカルセンターへと移る。テクニカルセンターでは座学を行いながら、芦別市にある野花南発電所で、実際に稼働している発電設備を用いた実機研修を実施する。

設備を前にしながら、構造や運用方法を確認することで、水力発電所ならではの現場感覚を学ぶ。また座学で得た知識を現場でどう活かすのか、そのつながりを体感していく。

  • 研修が行われた、野花南発電所

    研修が行われた、野花南発電所

札幌水力センター発電課に配属された吉川侑寿さんは、「発電所の中に入って、想像していた以上のスケールに圧倒されました。特に鉄管の太さは、写真や図面で見るのとは全く違いました」と語る。

高校時代は電気分野も学び、学生時代には電気回路の製作や測定などにも取り組んできた吉川さんだが、「学校で学んできた理論が、実際の設備と結びついていく感覚があります」と話す。実機を前にすることで、座学で得た知識が具体的なイメージとして整理され、現場で求められる理解につながっているようだ。

  • 「生で見る実機と現場の話は、すごく楽しいです」と語る吉川侑寿さん

    「生で見る実機と現場の話は、すごく楽しいです」と語る吉川侑寿さん

一方、水力発電部門の新入社員は、必ずしも電気・機械・制御分野の出身者だけではない。水産や生物など、異なる分野を専攻してきた社員が配属されることもある。そのため、発電の原理など基礎的な内容をより丁寧に学べるよう、研修カリキュラムが構成されている。

また、水力発電所は立地や水量、設備構成がそれぞれ異なるという特徴がある。実際の運用現場では、設備ごとの特徴を踏まえながら、運用方法や保守の考え方を試行錯誤していく必要がある。その意味でも、現場で設備に触れながら学ぶ研修には大きな意味がある。

「安全」を軸に据えた育成、5年で“一人前"へ

研修を通じて繰り返し指導されているのが「安全」の重要性だ。

水力発電所内は場所によって騒音が大きく、高電圧設備も扱う。こうした環境では、基本動作の徹底が事故防止に直結するため、現場では指差し呼称や声出しを大きく行うよう指導が行われている。

  • 研修では、指差し呼称など安全確認の基本動作を徹底している

    研修では、指差し呼称など安全確認の基本動作を徹底している

指導員を務める水力部発電グループの片岡快斗氏は、「発電所内は騒音が大きい場所も多い。だからこそ、腹から声を出すことが命を守ることにつながる」と説明する。

「間違ってもいいので大きな声で指差し呼称を行ってほしい。周囲が気づき、すぐにフォローできる環境を作ることが重要」とし、安全文化の定着の重要性を強調した。

4月に行われる導入教育では、「ケガをしないこと」「安全文化」「指揮命令系統」を徹底的に教え込むという。

現場では厳しい指導が行われる場面もあるが、それも全て事故を防ぐためだ。片岡氏は、「安全に関する部分だけは、絶対に曖昧にしてはいけない」と説明した。

  • 新入社員に対し、安全確認の重要性について説明する片岡快斗氏

    新入社員に対し、安全確認の重要性について説明する片岡快斗氏

また、6月には再び新入社員を集め、フォローアップ研修も実施する予定だという。現場に出た後も継続的に振り返りや確認を行いながら、段階的に育成していく考えだ。

水力発電部門では、設備の運用や保全を理解し、自ら計画・判断できる技術者を育てるまでに約5年を想定している。単に設備を扱う技術だけではなく、法律や契約、経理、工程調整、さらには協力会社との交渉なども含めた「総合力」が求められる。

背景にあるのが、水力発電所の工事や設備更新の進め方だ。直営対応を行うケースもある一方、大規模修繕や設備更新では工事計画の立案や発注、関係各所との調整も必要となる。そのため、技術だけでなく、多様な立場の人と連携しながら仕事を進める力も重要になる。

また、新入社員教育は、教える側にとっても成長の機会になっているという。片岡氏は、研修中に新入社員から出る質問について、「自分にはなかった視点や、理解のプロセスに気づかされることも多い」と話す。

  • 実際の発電設備を前に、講師の説明を受ける新入社員の様子

    実際の発電設備を前に、講師の説明を受ける新入社員の様子

新入社員の目標は「いつか自分も教える立場の技術者に」

研修期間中、新入社員は滝川市内のホテルに滞在しながら研修を受けている。水力発電部門の同期は10人。総合研修センターでの研修から生活をともにする中で関係性も深まっているという。

吉川さんは今後について、「即戦力になれるとは思っていないが、まずは研修で学んだことを身につけ、先輩に迷惑をかけないレベルまで成長したい」と語り、その上で、「将来的には、片岡さんのように教える立場としても現場を支えられる技術者になりたい」と述べた。

実機を用いた現場研修と段階的な育成を組み合わせた今回の取り組み。北海道の電力インフラを支える技術者育成の現場では、“安全"を軸にしながら、次世代への技術継承が進められている。