政界を追い出された星野茉莉(黒木華)が、市井に生きる政治素人のスナックのママ・月岡あかり(野呂佳代)をスカウトし、東京都知事選に挑む姿を描く、カンテレ・フジテレビ系ドラマ『銀河の一票』(毎週月曜22:00~ ※FOD・TVerなどで配信)の第8話が、8日に放送された。

この話では、なんとあのレジェンド声優・日高のり子が出演した。彼女が起用されたことで生じる作品への重みと、物語との関連性について述べてみたい。

  • 日高のり子 (C)カンテレ

    日高のり子 (C)カンテレ

【第8話あらすじ】人気声優が「チームあかり」に

あかりが、茉莉、五十嵐(岩谷健司)、蛍(シシド・カフカ)を副知事に指名すると宣言した異例の出馬表明会見は、大きな驚きをもって受け止められた。さらに、3人は鷹臣(坂東彌十郎)から切り捨てられ、政界を追われていたことを、YouTuberの透(渡邊圭祐)が暴露。この作戦が功を奏し、「チームあかり」は有権者の心を捉え始める。

同じ頃、民政党では鷹臣に不満を抱く議員たちが一斉に離党届を提出し、AI企業社長・風間(梶裕貴)を擁立する元都連会長らに合流。民政党内に動揺が広がる。

「チームあかり」は選挙の準備に追われていた。その時、蛍があかりの選挙ポスターが、子ども向けアニメ「ふるるんくっか!」のヒロイン・フルルンに似ていると言い始める。すると、あかりがママを務めていた「スナックとし子」の常連だった樫田(岩松了)が、フルルンの声優・白鳥光留(日高のり子)がポスター貼りのボランティアに名を連ねていることを告げる。白鳥は、あかりの政策に感銘を受けた一人だった。

まもなく茉莉は、新聞記者の雨宮(三浦透子)から“告発の手紙”について、新たな疑惑が浮上したことを聞かされる。茉莉の母が、とある治験を受けた。その治験を実施した医師は出世した。そして当時の厚生労働大臣こそが、茉莉の父・鷹臣だった。その治験は、正しいものだったのか…?

そんな中、あかりの公約に共感したという謎の女性が選挙事務所に現れ、選挙ボランティアに参加したいと申し出る。その女性こそが、フルルンの声優・白鳥だった。だが彼女は精神的ショックで声帯に異変が起きていることを明かす。生成AIによる白鳥の声が、多くの場所でネットで使われており、AIにもかかわらず、そこに「生命が宿っている」ことを感じ、そのショックが原因だとも。

茉莉は提案する。声には著作権がないが、そういった人々を守る施策を行うことを。白鳥は驚く「私、1人のために?」と。だが、都民一人ひとりと世界の幸せを追求する。それが、茉莉とあかりが目指す政治そのものだった。

そして後日、白鳥はある少年を目にする。それはフルルンのファンである蛍の息子・ひなた(山本弓月)だった。ひなたがフルルンの決めゼリフを言う姿を見て感極まった白鳥は、ひなたと一緒にその決めゼリフを言う。その声は、まぎれもなくフルルンそのものの声だった。

  • (C)カンテレ

    (C)カンテレ

宮沢賢治『グスコーブドリの伝記』が登場した理由

今回の第8話で興味深かったのは、生成AIという現代的なテーマを扱いながら、その本質が技術論ではなかったことだ。フルルン役で知られる人気声優・白鳥光留は、自らの声を学習した生成AIによって精神的なショックを受け、声が思うように出せなくなっていた。

だが、本作はAIを悪者にはしない。むしろ白鳥は、自分の声によるAI朗読に「生命が宿っているように感じた」と語る。その作品こそが、宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』だった。ここが非常に興味深い。

『グスコーブドリの伝記』は、冷害によって人々が苦しむ世界を救うため、主人公ブドリが自らの命を犠牲にする物語である。そこには宮沢賢治が生涯追い求めた、「世界全体の幸福」という理想が色濃く刻まれている。

だが賢治作品を読み続けると分かる。彼は決して「多数のためなら少数は犠牲になってよい」とは考えていない。賢治が描く「世界全体の幸福」は、常に目の前の一人から始まる。『銀河鉄道の夜』のジョバンニがカムパネルラを思うこと。ブドリが飢えに苦しむ農民を思うこと。そして『永訣の朝』で妹トシを思うこと。

賢治の思想は、抽象的な人類愛ではなく、極めて具体的な誰かへの愛情によって支えられている。

だから今回のエピソードは、単なるAI問題には見えなかった。AIによる音声生成は、多くの人々に利益をもたらすかもしれない。より多くの人が作品へ触れられるようになるかもしれない。それはある意味で「世界全体の幸福」に近い発想だ。