Death Cab For Cutieが語る、過去と向き合い「バンドの核心」と「インディーロックの良心」を取り戻すまで

デス・キャブ・フォー・キューティー(Death Cab For Cutie)が待望のニューアルバム『I Built You A Tower』を発表した。11月には東京・大阪で来日公演を開催。ベン・ギバードとデイヴ・デッパーが、バンドのアニバーサリー・ツアーとインディー・レーベル復帰が新作にどのような影響を与えたのかを語る。

ベン・ギバードは、自らの記憶に圧倒されていた。

その始まりは数年前。ザ・ポスタル・サーヴィスとデス・キャブ・フォー・キューティーが、『Give Up』と『Transatlanticism』のリリース20周年を記念して行った合同アニバーサリー・ツアーでのことだ。毎晩、ギバードは時間をさかのぼり、26歳だった頃の自分と向き合いながら、説得力に満ちた、むき出しの感情を伴うパフォーマンスを披露していた。しかしステージを降りると、過去と現在を行き来することが難しくなっていた。ちょうどその頃、私生活が大きく揺らいでいたからだ。ギバードは2016年に結婚した写真家レイチェル・デミーとの別居を経験しており、2024年に2人は離婚を申請した。

合同アニバーサリー・ツアーの様子

「頭の中でいろいろなことを切り分けて整理しなきゃならなかったんだ」と現在49歳のギバードは語る。取材はニューヨークのボワリー・ホテルのロビーで行われ、その隣にはデスキャブのギタリスト、デイヴ・デッパーが座っている。熱いアメリカーノをすすりながら、ギバードはここ数年を乗り越える助けになったという比喩を語り始めた。

「人生をスカイラインとして眺めるようなイメージが浮かぶようになったんだ。上空から見下ろしている感じでね。大きさの異なるたくさんのビルが見えて、それぞれの中に異なる記憶が収められている」と彼は言う。「そこにはさまざまな人との思い出や、その時代の記憶が存在していて、訪ねることもできる。ドアを開けて『やあ』と声をかけることだってできるんだ」

デスキャブの11作目となるスタジオ・アルバム『I Built You A Tower』のアイデアは、その比喩から生まれた。「素晴らしい思い出も、ひどくつらい思い出も、その建造物の中に収めて、外側からドアに鍵をかけようとすることなんだ」とギバードは説明する。「『君たちはそこにいてくれ。その建物の外には出てきてほしくない』という感じだよ。でも、そういう記憶は必ず抜け出してくる瞬間がある……。その時期や出来事と感情的には決別できたと思っていても、結局はすべてが一気によみがえってくるんだ」

控えめで物悲しいメロディと胸をえぐるような歌詞によって、『I Built You A Tower』は過去と真正面から向き合うという壊滅的な体験、そしてそれに伴う喪失感を描き出している。全11曲を通して、ギバードらは打ちのめされるような失恋から、苦しみの末にたどり着いた受容までを描き、それぞれの記憶を人生の道しるべとして用いている。その軌跡がはっきりと表れるのが、アルバムの転換点となる楽曲「Stone Over Water」だ。デスキャブらしいドラム・ビートの上で、ギバードは「なんとか踏ん張ろうとしている」と認める。しかしその後、「叫んでわめくこともできる/あるいは、それなしで生きることを学ぶこともできる」と歌い、自らの心境の変化にたどり着く。

過去と向き合い、バンドの本質を見つめ直す

『I Built You A Tower』は、2022年の『Asphalt Meadows』以来となる新作だ。その間、バンドは過去と現在が交差するような重要な出来事を経験してきた。時の振り子に押し戻されるように過去と向き合いながら、それが同時に未来への指針にもなっていった。2023年には前述のアニバーサリー・ツアーを行い、ミレニアル世代にとって夢のようなノスタルジアを体現した。その人気は予想を上回り、デスキャブは追加公演を重ねてツアーを延長することになった。そして翌年には、過去20年間所属していたメジャー・レーベルの〈Atlantic Records〉を離れることになった。

そう考えると、新作が彼らの初期作にあった魔法を再び呼び覚ました作品になったことも不思議ではない。『The Photo Album』や『Transatlanticism』といった2000年代初頭の作品は、彼らをインディー界の寵児からロック界の象徴的存在へと押し上げた。その頃の感覚に、彼らは久しぶりに手を伸ばすことができたのだ。

「初期の曲を書いていた頃のプロセスを再現したかったんだ」とギバードは語る。「もちろん、50歳近くになった今の自分がソングライターとして身につけた感情面での成熟や技術はそのままにね」

『Asphalt Meadows』の制作中、ギバードはデスキャブ初期の4トラック・デモテープをデジタル化し始めた。その作業の中で、バンド結成当初のインストゥルメンタル音源が見つかり、かつて自分がどのように曲を書いていたのかを思い出したという。

「長年にわたって最も強く響いてきた曲というのは、すごく率直で、感情に正直で、飾り気のないものなんだ。そこから離れてしまった時期の曲は、やっぱり同じようには届かなかった」とギバードは語り、とりわけ2011年の『Codes and Keys』を例に挙げる。当時の彼は LAに住み、女優の ズーイー・デシャネルと結婚していた。「自分を守るために、あそこまで率直で正直にはなりたくなかったんだ」と彼は認める。「あの作品は、僕らがこれまで作った中で間違いなく最も率直さに欠け、感情的な響きも最も弱いアルバムだったと思う」

しかし、『Transatlanticism』のような心を開いた作品を毎晩観客の前で演奏することで、ギバードはデスキャブにとっての”弱さをさらけ出すこと”こそが最大の武器だったと再認識した。「改めて気づかされたんだ。これこそがこのバンドの核心であり、人々の心に響く要素なんだって。だからこそ、マディソン・スクエア・ガーデンに1万8000人もの観客が集まるんだ」と彼は言う。

デスキャブが過去の作品から着想を得ているとはいえ、それは単なるノスタルジー商法ではない。むしろ初期作品に宿っていたエネルギーを取り戻し、バンドを再活性化させようという試みだ。2015年に加入したデイヴ・デッパーは、「あのアニバーサリー・ツアーによって、自分の中では一度すべてがリセットされた感じがした」と語る。「過去に対してきちんと敬意を払うことはできた。でも今度は、その時の感覚や感情を、今やっていることの中にも吹き込みたいと思っている」

インディー・レーベル復帰がもたらしたもの

そして彼らが過去への敬意を示す方法のひとつが、20年以上ぶりとなるインディペンデント・レーベルへの復帰だ。「もともとは、〈Atlantic〉でもう1枚アルバムを作る予定だった」とギバードは振り返る。しかしレーベル内の大規模な組織再編によって、長年会長兼COOを務めてきたジュリー・グリーンウォルドが退任を余儀なくされたことで状況は一変した。「その時、僕らは『ここから出なきゃ駄目だ』と思ったんだ」とギバードは語る。

さらにグリーンウォルドは退任前、新たに締結されたばかりの契約からデスキャブが離脱できるよう手助けまでしてくれたという。ギバードはその行動について、「彼女と、このバンドに対する献身を何よりも物語っている出来事だった」と語る。「自分自身が職を失おうとしている最中だったにもかかわらず、彼女はこのバンドのために必要なことをやってくれた。その姿勢には本当に頭が下がるよ」

『I Built You A Tower』は、〈Epitaph Records〉傘下の姉妹レーベルである〈ANTI-〉からリリースされる。デスキャブにとって、インディー・レーベルへの復帰はある種の”帰郷”でもあった。「自分たちと同じ文化圏の人たちと、また同じ部屋で話せるようになったのは本当に新鮮だった」とギバードは語る。彼が振り返るのは、エピタフのオーナーであるBrett Gurewitzや、元A&R責任者のAlison Crutchfieldと初めて会った時のことだ。

「アトランティックで過ごした20年間を振り返ってみても、本当の意味で同じ音楽的言語を共有していると感じられた人は片手で数えられるくらいしかいなかった」と彼は続ける。「今は、自分たちが本当に居心地のいい場所へ戻ってきたような感覚があるんだ」

デッパーもその意見に同意する。「僕らにとっては最高のタイミングだったと思う。あのアニバーサリー・ツアーを終えて、まっさらな状態から再出発するような瞬間だったからね」と彼は言う。「もちろん、アトランティックでも素晴らしいアルバムは作れたと思う。でも、この作品を世に送り出すにあたって、今のレーベルというフィルターを通してエネルギーを注ぎ込めることが、ものすごくしっくりくるんだ」

「中途半端な気持ちでやっているわけじゃない」

結成から30年近くが経った今、デスキャブが新たな充実期を迎えていることは明らかだ。彼らは何度も、その心に響くインディー・ロックの力を証明してきた。しかし、こうした未来はかつての彼ら自身ですら予想していなかった。

2005年、メジャーな成功を収めた後に発表したアルバム『Plans』の取材で、ギバードはRolling Stone誌にこう語っている。「このバンドが永遠に続くわけではないし、20年後の自分が今と同じように音楽で成功していることもないだろうと確信している。そう言うからといって、自分を悲観主義者だとは思わない。それが現実なんだ。恐れるよりも、受け入れておきたいだけなんだよ」

その言葉を聞かされても、ギバード自身は驚かない。彼が「宿命論的な性格」と呼ぶ考え方は、何十年も前から変わっていないからだ。「最悪の事態に備えていたいんだよ……。たぶん今同じ質問をされても、かなり似たような答えをすると思うね」と彼は笑いながら話す。

デスキャブのベーシスト、ニック・ハーマーは、そんなフロントマンの考え方を「ギバードの賭け(Gibbard's wager)」と呼んでいる。ギバードはその意味をこう説明する。

「たとえばシアトル・マリナーズがプレーオフに出た時、僕は彼らが負ける方に賭けるんだ。もし勝てば、僕はお金を失う。でも嬉しいだろ? 一方で、僕の予想通り負ければ、お金は手に入る。つまり、どっちに転んでも何かしら得るものがあるってわけさ」

「僕としては、君の予想が外れて本当にうれしいけどね」デッパーがそう口を挟み、眉を上げる。

気がつけば、カップに残ったコーヒーはすっかり冷めていた。取材の時間も終わりに近づいている。するとギバードは、ついに胸の内を明かした。

「こんな未来はまったく想像していなかったよ。こんな人生になるなんて、本当にこれっぽっちも思っていなかった」と彼は言う。

「こうして長く続けられれば続けられるほど、感謝の気持ちは大きくなる。そして同時に、自分はますますこのバンドに深く向き合うようになり、集中するようになった。これまでの人生のどの時期よりも、自分たちが残してきた作品群に対しても、ファンに対しても、大きな責任を感じているんだ。だからこそ、僕たちはもう中途半端な気持ちでやっているわけじゃない。決してふざけてなんかいないんだ」

From Rolling Stone US.

デス・キャブ・フォー・キューティー

『I Built You A Tower』

発売中

国内盤CDも同時リリース

再生・購入:https://deathcabforcutie.ffm.to/ibyat

画像

I Built You A Tower Tour

2026年11月8日(日)大阪 松下IMPホール

2026年11月9日(月)東京 豊洲PIT

公演詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/death-cab-for-cutie_2026/

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