• (左から)GACKT、伊藤健太郎

    (左から)GACKT、伊藤健太郎

物語の鍵を握る黒川を演じるのはGACKT。伊藤は「本当にピッタリだった」と語る。

「黒川って、人間っぽくないんですよね。つかみどころがなくて、ミステリアスで。だからこそ、この役を誰が演じるかって作品にとってすごく大事だと思っていたので、GACKTさんに演じていただけたのはありがたかったです」

もっとも、撮影前は“壁のある人なのでは”というイメージもあったという。

「だから逆に、俺からいっぱい話しかけようと思って現場に行ったんですよ。でも実際は、本当にフランクな方でした。趣味の話とか、筋トレとか、食事とか、いろんなことを聞かせてもらって、すごく楽しかったですね」

現場では「書けないことばっかりですよ」と、下ネタを交えた軽快なやり取りも多かったそうで、「GACKTさんの生態について、かなり詳しくなりました」と笑う。

中田秀夫監督については、「すごくクレバーで、理論的な方」と表現した。

「僕はどちらかというと感覚派なんですけど、監督は全部を論理的に説明してくださるんです。だから逆に分かりやすい部分も多かったですし、一緒に作っていく感覚がすごくありました」

その一方で、監督が没頭するあまり、GACKTに演出をつけながら彼を置いて一人で歩いていってしまった一幕もあったという。

「監督だけ角を曲がって行っちゃって(笑)。GACKTさんはまだ後ろにいるのに、“ここはこうで…”ってずっと説明してるんですよ。途中で“あれ? いない!”と気づいて、監督がひょっこり顔を出して戻ってきてました。とても真面目で素敵な方だなと思いました(笑)」

「まずは、つべこべ言わずとにかくやってみよう」

伊崎が抱える葛藤のひとつに、「好きで始めたはずのことが、いつしか違うものになっていく」という感覚がある。自身も、その感覚には強く共感したという。

「20代前半の頃は、同時に3~4作品を掛け持ちしていた時期もあったんです。今思えば、とてもありがたいことなんですけど、何をやってるのか分からなくなる瞬間があったんです。“好きで始めたはずなのに、なんでこんな感情になってるんだろう…”って」

その後、活動休止期間を経て、自身の仕事との向き合い方にも変化があった。

「1年空けたのは大きかったですね。そこで一回リセットされた感覚もありましたし、年齢を重ねて、少し俯瞰(ふかん)して物事を見られるようになった部分もあると思います。感謝の気持ちも、年々すごく大きくなっています」

現在所属する事務所の社長であり、俳優の先輩でもある小栗旬に相談することはあるのか――。そんな質問には、「いや、本当は相談した方がいいのかもしれないですが、僕、あんまり人に相談しないんですよね…」と率直に答えた。

「もちろん、意見をもらうのはありがたいんです。でも、最終的には自分自身で決めて、自分でやるしかないと思ってるので。“まずは、つべこべ言わずとにかくやってみよう”っていうタイプなんですよね。悩むより、動いて解決するほうかもしれないです」

放送・配信中の6月30日、伊藤は29歳になる。かつて、「30歳までの3年間が正念場」と語っていた伊藤にとって、本作との出会いはどんな意味を持つのか。

「この数年で、今まで求められていなかった役をやらせてもらうことも増えてきました。これから迎える30代に向けて、役者としての深み…みたいな言葉は、僕自身はあんまり好きじゃないのですが、きっと自分なりの武器を作っている途中なんだと思います。“これだけは、他の誰にも負けない!” なんて、まだ全然言えないですけどね」

そう語る表情には、肩の力の抜けた穏やかさと、その奥で絶えず燃え続けるような熱が同居していた。

ヘアメイク:西岡達也(ラインヴァント)
スタイリスト:佐々木悠介