カーディナルズ、コークが生んだ文学的ロックの新鋭──サマソニを前にブルックリン公演を目撃

アイルランド・コーク発の新鋭ロックバンド、カーディナルズ(Cardinals)がSUMMER SONIC 2026に出演する。2月にデビューアルバム『Masquerade』をリリースした彼らは、8月14日(金)東京、8月15日(土)大阪のMOUNTAIN STAGEに登場予定だ。来日を前に、不穏で文学的なロックが鳴り響いた米ブルックリン公演の模様を届ける。

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アイルランドの新鋭ロックバンド、カーディナルズが5月8日、ニューヨークに降り立った。会場は、ブルックリン・ウィリアムズバーグの裏通りに佇む楽器店Main Dragの地下スペース。約200人のファンが詰めかけ、2月のリリース以来大きな話題を呼んでいるフルアルバム・デビュー作『Masquerade』の楽曲を、このコーク出身のバンドが披露する瞬間を見届けた。Lip CriticやYoubetといった印象的な公演をニューヨークで仕掛けてきたDIYブッキング・コレクティブ、3rd Spaceが用意したこの異色の空間は、カーディナルズが描く不穏で濃密な感情の世界へ分け入るには、これ以上ない環境だった。

開演前、本誌はシンガー/ギタリストのEuan Manning(ユアン・マニング)(23)、アコーディオン奏者のFinn Manning(フィン・マニング)(25)、ギタリストのOskar Gudinovic(オスカー・グディノヴィック)(23)、ベーシストのAaron Hurley(アーロン・ハーレー)(23)に話を聞いた。ソングライティング、レコーディング、そしてライブへの向き合い方について語ってもらうためだ。ドラマーのDarragh Manning(ダラー・マニング)(23)は、負傷からの回復のためアイルランドに残っていた。

最も饒舌だったのはFinnで、ウィットに富んだ言葉を次々に繰り出す。一方、兄弟であるEuanは寡黙な佇まいを崩さなかった。あるいはそれは、フロントマンとしてまもなく見せる激しいパフォーマンスに向けて、静かにエネルギーを蓄えていたからなのかもしれない。4人の間にある親密な結束は、彼らがステージに立った瞬間、いっそう鮮明なものとなった。

Photographs by Sacha Lecca

ビール2杯と、強めの一杯(Light Up)

Hurley、Gudinovic、Finn Manningは、開演前に一服。ステージに上がる前、メンバーはたいてい「ビール2杯と強めの酒1杯」という定番の一杯を入れるという。銘柄にこだわりはない。「アルコールが入ってさえいればいい」とFinn。「そう、そこが肝心なんだ」とGudinovicもうなずく。

笑顔はグリーンルームに置いてくる(Check One)

夕方遅くのサウンドチェックで、バンドはセットを通しで確認していく。いざステージに上がれば、ムードは「かなりシリアス」になるとFinnは言う。「笑顔はグリーンルームで全部出し切っておくのさ」

灼熱のロンドンで生まれた『Masquerade』

熱波、そして悪夢を見た夏(Hot Nights)

カーディナルズは昨年6月、ロンドンのRAK Studiosで約2週間をかけて『Masquerade』を録音した。プロデューサーはShrinkの名でも知られるSam Breathwick。うだるような夏の暑さは、セッションのムードにも影を落とした。世界各地で起きていた政治的な出来事も同じだった。「ロンドンは信じられないほどの熱波でね」とEuanは振り返る。「イラン戦争がちょうど始まったところで、新聞を読んでいたのを覚えている。そのせいで悪夢を見たんだ」

磨きすぎない、人間味のある音(Human Touch)

スタジオで彼らが目指したのは、「かなり生々しい」、ほとんどライブに近いサウンドだった。当時頭にあったものを、メンバーは「切迫感」「雑さ」、さらには「ある種の怠惰さ」といった言葉で表現する。「要は人間味だよ」とFinn。「磨き上げすぎた音にはしたくなかった。あの音には人間的なミスがたくさん入っている。それこそが、レコードとしての『Masquerade』の核なんだ」

暑くて眠れない、午前3時のスタジオ(Up Late)

とはいえ、その音にたどり着くまでには長い時間を要した。「スタジオでは、本当に長い一日を過ごしていた」とFinnは言う。「かなり遅くに戻って、たいていの夜は映画を観て、夕食を作って、寝る。でも暑すぎて眠れない。だから午前3時くらいまでベッドに横たわっている。少し涼しくなってようやく眠れて、7時か8時には起きる。そしてそのままスタジオへ向かうんだ」

写真:サウンドチェック中のGudinovicとEuan Manning。右に座っているのはFinn。

スミスもポーグスも録音した場所で(Studio Legends)

ザ・スミスからポーグスまで、自分たち以前にRAKで録音してきた偉大なアーティストたちの存在も、カーディナルズに強い印象を残した。「『天国への階段』の録音に使われたとされるアコースティックギターを、貸してくれたんだ」とFinnは言う。「真偽のほどはわからない。たぶん作り話だろうけどね。でも、レディオヘッドの『Just』があのギターで録られたのは間違いない。それはちょっとクールだよ」

アコーディオンは、肺みたいな楽器(Accordion Time)

Finnの主要楽器であるアコーディオンは、カーディナルズの音楽に独特の空気感を添えている。「すごくいい質感が出せるんだ」と彼は言う。「メランコリーを少し足せる。とても人間的な楽器でね。肺みたいなものでもある。チューニングの面ではかなり制約もあるけれど、それがかえって曲作りを面白くしてくれることもある」

ただし、ひとつだけはっきりさせておきたいことがあるという。カーディナルズの音楽は、ケルト・ロックではない。「あのラベルは本当に好きじゃない」と彼は言う。「距離を置いてリスペクトすることはできる。でも、僕らはそれじゃないんだ」

バンドの素顔──歌詞、映画、シラフの夏

歌詞は、いつも最後にやってくる(Songwriter)

バンドの歌詞は、すべてEuan Manningが書いている。その言葉はしばしば文学的だ。「たいていはコード進行を書いて、それからメロディを作る。歌詞はそのあとに来る」と彼は説明する。「映画や本、音楽、あるいは僕らの会話──いろいろな場所から生まれてくるんだ。そして、その多くは自分たちの故郷についてのものでもある。歌詞を書くのは難しくて、かなり時間がかかるんだ」

犯罪映画と、絶望の『エレファント』(Movie Night)

カーディナルズのメンバーは全員、犯罪映画が好きだ。なかでもお気に入りは、デンマークの映画監督ニコラス・ウィンディング・レフンがコペンハーゲンの「暗い裏社会」を描いた『プッシャー』三部作。『Masquerade』の制作中には、ガス・ヴァン・サントが2003年に発表した学校銃乱射事件を題材とするドラマ『エレファント』も観たという。「観終わったあと、ひどく悲しくて、絶望的な気持ちになったのを覚えている」とFinn。一方で、『アメリカン・パイ』や『スパイナル・タップ』のような軽い作品も観ていたそうだ。

ひと夏、シラフで過ごした理由(Drying Out)

昨年夏のロンドン滞在には、もうひとつ重要な事実がある。彼らはその間、ずっとシラフだった。「より生産的でいるため、そしてより良い姿勢で臨むためだったと思う」とHurleyは言う。「おかげで、僕とOskarとDarraghは卓球がかなり上手くなった」

「それに、あのエリアのパブが本当にひどくてね」とFinnが付け加える。RAKのある高級住宅街、セント・ジョンズ・ウッドについての話だ。「近くにパブが2軒あったけど、どっちも最悪だった」

助っ人ドラマーと、いとこの骨折(Substitute)

6都市を回る今回のUSツアーで、バンドはDarragh Manningの代役として、あのLambrini Girlsなどで叩いてきたSamantha Collings(27)をドラマーに迎えた。彼女はすぐにバンドに溶け込み、勢いとパワーに満ちたプレイで、カーディナルズの楽曲にパンク的なエネルギーをひとさじ加えている。

EuanとFinnのいとこであるDarraghは、3月中旬、ロンドンでのライブ後に手首を負傷した。事故が起きたのは、イズリントンのRed Dogというパブの外。「ビリヤードをしていたんだ」とFinnは言う。「たぶんビリヤードで手首がかなり疲れて、負担がかかっていたんだろうね」(「パイントを持ち上げ続けていたのもある」とGudinovic)。「それで地面に座ったときに、自分の手首の上に座ってしまって、骨折した。手術が必要にならなければいいんだけど」

歌に流れる、文学とコーク

エリオット・スミスが落とす影(XO)

今回のツアーでのカーディナルズのセットは、ほぼ『Masquerade』の曲順に沿っている。痛切に懇願するような「She Makes Me Real」、激しく崩れ落ちていくような「St. Agnes」がハイライトだ。耳の鋭いリスナーなら、後者にエリオット・スミスが1998年に発表した名曲「Waltz #2 (XO)」への、歌詞的・リズム的な目配せを聞き取るかもしれない──「That's the man she's married to now…」。

故エリオット・スミスは、たとえ一聴してそうとはわからずとも、このバンドにとって大きな影響源だ。「スミスの音楽は、ぱっと聴いた印象以上に、僕らのレコードのソングライティングに深く影響していたのかもしれない」とEuanは語る。

ツアーに本を持っていく男たち(Literary Lads)

カーディナルズは、よく本を読むバンドでもある。「みんな、かなりの読書家なんだ」と、大学で英文学を学んだFinnは言う。「ツアーには、いつもいろいろな本を持っていくよ」

お気に入りの作家には、20世紀半ばのアイルランド・モダニズム作家、フラン・オブライエンも名を連ねる。「暗くて、おかしいんだ」とEuanはオブライエンの作品を評する。「アルバムにも、そういう要素があると思う。何もかもを真面目に受け取る必要はない。歌詞には多少の風刺も込めているからね」

写真左から:Euan Manning、Finn Manning、Aaron Hurley、Oskar Gudinovic。

2053年のアイルランドから着想を(Future Crimes)

現代アイルランド文学の作家、ケヴィン・バリーも、カーディナルズのお気に入りだ。とりわけ愛読するのは、2053年頃の架空の未来のアイルランドを舞台にギャング抗争を描いた、2011年の小説『シティ・オブ・ボヘイン』。

彼らは、退廃的でキャッチーな「Barbed Wire」といった楽曲に、バリーからの影響を見出す。「自分たちの街の南側を、何か新しくて新鮮な、よりおとぎ話的でゴシックなものとして描こうとしたんだ」とEuanは言う。「ケヴィン・バリーが何冊かの本でやってのけたことを、僕らもやりたかった。この街を、自分たちにとってもう少し面白く感じられるものにしたかったんだ」

焼かれた街、コークの記憶(Burning)

楽曲「The Burning of Cork」のタイトルは、1920年、アイルランド独立戦争中に起きた歴史的悲劇を指している。当時、イギリス軍と準軍事組織はコークの街を焼き払った。「コーク・シティを歩いていると、その爪痕を実際に目にすることができる」とEuanは言う。「植民地主義は、いまもなおアイルランドとアイルランド文化に影響を及ぼしている。言語にも、それは見て取れる。あるものは、本来あるべき形には戻らない。この曲は、僕らと自分たちの街との関係を歌ったものとして捉えることもできる」

「街全体が完全に焼き尽くされる様子を想像できる。しかも、守るはずの人間たちの手によって火を放たれたんだ」とFinnが続ける。「恐ろしくて、強烈な思考を呼び起こすよ」

そしてステージへ──4人が放つ轟音

開演前はウータン・クランで(Greenroom Tunes)

カーディナルズは、開演前にその土地ゆかりのアクトを集めたプレイリストでリラックスすることが多い。今回のニューヨーク公演の前には、サルサの伝説的存在ウィリー・コローンか、ウータン・クランの曲をかけようと考えていたという。

顔を隠す、強烈な逆光の理由(Bright Lights)

カーディナルズはライブで、ステージ上の自分たちをシルエットのように浮かび上がらせる、強烈な逆光を好む。「僕らが、自分の見た目にまったく自信がないからなんだ」とFinnは半ば冗談めかして言う。「照明を背後に置けば、顔が見えない。ヘッドライトみたいにね。それに、全員ひどいステージ恐怖症でもある。だからステージでは、いつもかなり不安なんだ」

高度な技術を要する楽器、タンバリン(Tambourine Man)

ニューヨークのシューゲイズ・アクト、Smushによるオープニングセットを経て、カーディナルズは2024年のセルフタイトルEP収録曲「Twist and Turn」のエネルギッシュな演奏で一気にライブへなだれ込む。この曲でFinnが手にするのはタンバリンだ。「とても高度な技術を要する楽器だよ」と彼は言う。

TikTokのひと言で、ちょっと台無しに(Anhedonia)

マーダー・バラッド「Anhedonia」は、Euanがライブで演奏するのを好む曲のひとつ。「でも、僕にとってはちょっと台無しになっちゃってね。TikTokで誰かが、『Anhedonia』はアルバムで唯一好きじゃない曲だって言っていたから」とFinnは明かす。

全部歌える観客と、ストイックな4人(Roseland)

メンバーはステージ上で多くを語らない。だが、それで十分だ。ストイックな佇まいと全身全霊のパフォーマンスで、観客の視線を否応なく引き寄せる。Main Dragに集まったのは、熱心なカーディナルズのファンばかりだった。『Masquerade』のタイトル曲や、かねてからのファン人気曲「Roseland」では、歌詞をすべて口ずさめる者も少なくなかった。

できる限り、大きな音で(Get Loud)

「僕らは、かなり大きな音で演奏するのが好きなんだ」とFinnは言う。 「できる限り大きくね」とHurleyが続ける。 ただし彼らによれば、ファンはたいていステージに集中しすぎていて、身体を動かすところまではなかなかいかないらしい。 「踊るタイプの観客は、まだあまり引き寄せられていないんだ。そこは改善中」とFinn。 「次のアルバムでね」とHurley。 「そうだな」とFinnもうなずく。「次はダンス・レコードを作るよ」

『Masquerade』

Cardinals(カーディナルズ)

So Young Records

配信中

配信リンク:https://cardinals.lnk.to/Masquerade

SUMMER SONIC 2026

8月14日(金)・15日(土)・16日(日)

東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ

大阪会場:万博記念公園

※カーディナルズは8月14日(金)東京会場、15日(土)大阪会場に出演

https://www.summersonic.com/

from Rolling Stone US