ホワイトソックスの村上宗隆(写真:Getty Images)


 



 低打率、大量三振。従来の日本球界では“欠点”とされてきた要素を抱えながら、村上宗隆はMLBで本塁打を量産している。だが、その異質さは本塁打数だけでは測れない。そこで今回は「本塁打、四球、三振」が打席結果の大半を占める打者像を示す“アダム・ダン率”に注目。歴代日本人メジャーリーガーたちの数値とも比較しながら、その特異性を探っていく。(文:ニコ・トスカーニ)

 
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三振か、本塁打か――極端な村上宗隆の打撃
[caption id="attachment_264376" align="aligncenter" width="1200"] ホワイトソックスの村上宗隆(写真:Reuters Connect)[/caption]
 
  NPBにおける日本人選手のシーズン最多本塁打記録保持者で最年少三冠王の村上宗隆が満を持して海を渡り、極端な活躍をしている。
 
 打率は.244と低水準ながらア・リーグトップの17本塁打、リーグ10位内に入るOPS.934で、四球が多く出塁率も20位以内に入る.382をマーク。
 
 本塁打王争いをする活躍で長打を量産しながら、本塁打以外の長打が二塁打2本のみで、三振はリーグワースト2位である。(日本時間5月21日時点)
 
 「三振、本塁打、四球」が主な打撃リザルトであり、スモールボールとは対極にある極端なビッグボール型の打者としての成績を残している。
 
 より詳細に打撃内容を見ると、空振り率と三振率がリーグ最下層レベルな一方、ボール球見逃し率、ハードヒット率、バレル率はリーグ最上位クラスである。
 
 「当たらないが当たると飛び、空振りも多いが選球眼もいいので簡単にアウトにならない」とこうして特徴を並べてみると極端なスタイルながらも貢献度の高い打者と言えるだろう。



 

 

 



本塁打、四球、三振ばかり? “アダム・ダン率”とは


 インターネット上の野球ファンの間で使われている指標に『アダム・ダン率』というものがある。
 
[caption id="attachment_265231" align="aligncenter" width="1200"] ホワイトソックスのアダム・ダン(写真:Getty Images)[/caption]
 
 2001~14年にMLBでプレーしたアダム・ダン氏は5年連続40本塁打を放ち長打力に定評があった一方、低打率で三振と四球が多い打者だった。
 
 2001~14年にMLBでプレーしたアダム・ダン氏は5年連続40本塁打を放ち長打力に定評があった一方、低打率で三振と四球が多い打者だった。
 
 アーロン・ジャッジ(ヤンキース)や大谷翔平(ドジャース)のようにある程度以上の打率も残せる完璧な打者とは違う、明確な穴がありながらも穴を認識したうえでも起用されるタイプの代表格として象徴的に語られる存在である。
 
 アダム・ダン率は下記計算式で算出される。
 
 (本塁打+四球+三振)/打席
 
(※100倍でパーセント表記する。四球に敬遠は含まない。セイバーメトリクスなどの真面目な指標では無くあくまでインターネット上の指標である)
 
 ダン氏本人がキャリアハイのアダム・ダン率を記録したのは2012年シーズンで、リーグワースト記録を危うく更新しかける222三振を喫したことからかなり高い数値となった。41本塁打、105四球、222三振でアダム・ダン率は56.7%である。
 
 現役のMLB選手で代表的なのが昨季の本塁打王、カイル・シュワーバー(フィリーズ)だ。2023年のシュワーバーは打率1割台で47本塁打を放つ、奇怪な記録を達成した。
 
 ここまで低打率だと当然、三振も多く、シーズン三振数は本家アダム・ダンのワーストに迫る215三振である。
 
 ただし126四球を選んだため、打率は1割台にも関わらず、出塁率は.343ありOPSもかなり高く.817だった。この年のシュワーバーのアダム・ダン率は53.9%である。
 
 日本人打者は傾向的に空振りを嫌う文化があるが、村上はそういった点で異質だ。
 
 日本時代から三振も空振りもとにかく多く、「空振りも三振も長打の必要コスト」と本人も割り切っているのだろう。
 
 東京ヤクルトスワローズ時代の村上も高いアダム・ダン率を記録しており、.244の低打率ながら本塁打王になった2024年シーズンのアダム・ダン率は52.1%だった。
 
 この年の村上は本塁打王・三振王・四球王・同時獲得する、実に「らしい」シーズンだった。
 
 今年はまだ開幕から2か月も経っておらずサンプル数の少ない状態だが、さらに極端である。なんとアダム・ダン率59.9%である。
 
 まだシーズン序盤とは言え、60%ラインにほぼ到達している。規定打席に到達してのシーズン60%以上のアダム・ダン率は、シュワーバーもミゲル・サノー(現・中日)も、ジョーイ・ギャロ氏も達成していない。
 
 このままシーズンを全うして60%以上を達成したら快挙(?)である。
 
 ちなみ昨季、キャリアハイの55本塁打を打った大谷はアダム・ダン率48.1%だった。昨年のア・リーグMVPのジャッジは46.9%である。
 
 この二人は三振も四球も多い方だが、そこまで極端でもない。この辺の数字(50%未満程度)が「極端な穴の無い優れたスラッガー」の数字なのだろう。




大谷翔平でも届かない?村上宗隆の“異質な数値”
[caption id="attachment_262842" align="aligncenter" width="1200"] シカゴ・ホワイトソックスの村上宗隆(写真:Getty Images)[/caption]
 
 日本は、野球文化的に三振を嫌う傾向にある。
 
 日本人メジャーリーガーで打者の草分け的存在と言えば、やはりイチロー氏だろう。高打率で四球をあまり選ばず、長打力は控えめで三振が極端に少ない。アダム・ダン率とは限りなく縁の遠いタイプである。
 
 262安打のシーズン新記録を樹立した2004年のイチロー氏は、アダム・ダン率15.7%に過ぎなかった。全く少しもアダム・ダンではない。
 
 同時期に活躍した松井秀喜氏は、どちらかというとアダム・ダンに近いタイプだがMLBでキャリアハイとなる31本塁打を記録したシーズンのアダム・ダン率は32.6%に過ぎない。この年の松井氏はキャリアワーストの103三振だったが、それでもこの程度である。
 
 他、2桁本塁打以上の日本人メジャーリーガーの例を見ると、18本塁打でキャリアハイだった井口資仁氏の2006年シーズンが29.8%、同じく18本塁打だった2006年シーズンの城島健司氏が15.4%、10本塁打だった2018年シーズンの青木宣親氏が17.9%、10本塁打だった2001年シーズンの新庄剛志氏(現・日本ハム監督)が23.9%、13本塁打だった2010年シーズンの福留孝介氏が33.5%である。
 
 現役選手だと、32本塁打を放った昨季の鈴木誠也(カブス)が41.0%で過去の例よりは近いものの、それでも村上には遠く及ばない。
 
 村上と同じく今年がMLBルーキーイヤーだが、すでに10本塁打している岡本和真(ブルージェイズ)も46.0%でこちらもやはり及ばない。
 
 だが、こうして過去の例を見ていくと、どうやら野球の質自体の変化もあるようだ。MLBでは年々打率の相対的価値が低下しており、ブルージェイズのアナリストを務める加藤豪将氏はMLBでは「打率は評価されない」と断言している。
 
 過去の日本人メジャーリーガーを見ると、タイプ的には村上に近い部類にはいる松井氏や福留氏ですらアダム・ダン率は30%台だった。
 
 それに対して現役日本人MLB選手は、大谷、鈴木、岡本、村上と軒並みアダム・ダン率が40%を超えている。
 
 その中で、吉田正尚(レッドソックス)のみ傾向が異なる。15本塁打を放った2023シーズンはアダム・ダン率22.4%だったが、低打率と三振を、四球による出塁と長打の必要コストとして割り切る傾向が顕著になっていると言えるのではないだろうか。
 
 今後も村上は、四球と本塁打の必要コストとして三振を量産するだろう。恐らくそれこそが、ホワイトソックス編成陣が村上に求めているものなのだろう。



 
【著者プロフィール】
ニコ・トスカーニ
大学卒業後、IT技術者をしながら「ニコ・トスカーニ」のペンネームでカルチャー系の兼業ライターとして活動。また共同制作者、脚本家として神谷正倫名義で『11月19日』(2019)、『階段下は××する場所である』(2021)、『正しいアイコラの作り方』(2024)の3本の劇場公開作がある。FanGraphsのデータを確認するのが趣味で、好きが高じて野球の原稿も時折手掛けている。


 



 
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【了】