リクルートは5月13日、「インバウンド市場の注力ターゲット調査2026」の結果を発表した。調査は2025年12月1日~2026年2月13日、DMO観光地域づくり法人、都道府県庁、観光協会など157団体を対象にインターネットで行われた。
注力市場は台湾・米国が上位、今後はシンガポールが浮上
自治体およびDMOが現在注力している市場では、台湾が最多となり、米国、香港が続いた。アジア市場を中心に、滞在日数や消費単価の高い欧米市場も引き続き重視されている。
一方、今後新たに狙いたい市場では「シンガポール」が最多となった。現在の主力市場を維持しつつ、高単価・長期滞在型市場へと戦略の軸足を広げる動きが見られる。
シンガポールは人口規模こそ限定的だが、消費単価が高く、地方体験への関心も高い市場だ。人数規模の拡大よりも、滞在中の消費の質や地域内での支出の広がりを重視する傾向が強まっていることがうかがえる。
2位「米国」、3位「フランス」と続く。
誘致最大の壁は「二次交通」
インバウンド誘致における課題では、「二次交通の整備」が最多となり、次いで「ガイド不足」「誘客/プロモーション戦略」が続いた。
訪日客数が高水準で推移するなか、地方部では目的地までの移動手段や体験を担う人材の不足が顕在化している。とりわけ、地方分散を掲げる地域にとっては、鉄道・バスなどの二次交通の確保や、地域の魅力を伝えるガイド人材の育成が急務となっている。
また、プロモーション戦略も依然として上位に挙がったが、単なる情報発信強化にとどまらず、ターゲット市場に合わせた戦略設計やデータ活用の高度化が求められているようだ。
今回の結果からは、市場選定は進んでいる一方で、受け入れ体制の強化が重要なテーマとなっている。
観光地域の取り組み事例
各地域ではインバウンド誘致の高度化に向けた取り組みが進みつつある。
東北観光推進機構:広域ガイド育成とネットワーク化
東北観光推進機構(広域DMO)では、広域連携によるガイド人材の育成とネットワーク化を進めている。2024年には、東北各地で活躍している地域ガイドが"広域で活躍できる体制"を構築することを目的に、東北全域でガイドの実態を把握。288名のガイドをリスト化し、可視化した。英語に堪能なガイド205名を中心に研修案内を展開。東北6県と新潟県で計82名のガイドを対象に、広域で活躍できるガイドの育成研修を座学と実践で開催し、ネットワーク化に努めている。基礎スキル向上に加え、英語ガイド実地研修や通訳アプリを活用した研修も行い、参加者の78%がアプリ導入を前向きに検討するなど、テクノロジー活用も進んでいる。
AdventureWeek2025TOHOKUの受け入れに向けた研修では、東北広域で119名が基礎研修に、39名が実務研修に参加した。併せて、2025年の東北観光推進機構の自主事業としてアドベンチャートラベル(AT)受け入れ整備のためのストーリーテリング、フィールドでの安全管理、緊急対応等全6回のより実務的なATガイド研修を実施。東北、沖縄、北海道のATに精通している講師を迎え、延べ96名が受講。うち10名は4回以上参加した。研修を通じてガイド同士のネットワーク形成も進み、相互送客やDMC(Destination Management Company)間での横連携など東北広域での受け入れ体制強化につながっている。
このように東北では、地域の歴史や文化に精通したガイドと、自然・伝統文化・地域体験などのコンテンツを組み合わせることで、高付加価値型の観光商品の造成にも取り組んでいる。
韓国市場:現地OTAとの連携による販路拡張の動き
韓国市場においては、現地OTA(Online Travel Agent)との連携を通じた販路拡張の取り組みが進んでいる。韓国最大級のOTAをはじめとする提携先において、日本の宿泊施設を特集する企画ページやバナー露出を実施し、現地ユーザーへの認知拡大を図っている。こうした取り組みでは、インバウンド向けに設計した専用プランを対象に露出を行うことで、海外ユーザーへの訴求力を高める仕組みが構築されている。
こうした海外販路との接続にあたっては、既存在庫を活用できる仕組みや、問い合わせ対応の一元化など、運用負荷を抑えながら展開できる体制づくりも進んでいる。「じゃらん」のグローバルエージェントサービス(GAS)では、提携先の海外OTAを活用し、国内で登録している宿泊在庫を活用しながら海外向け露出を拡大できる仕組みを提供している。活用施設からは、「新たな契約や精算対応の負担が少ない」「問い合わせ窓口が一本化され安心感がある」といった声も聞かれている。
熱海:"旅ナカ検索"を捉えた多言語コンテンツ強化
静岡県熱海市では、訪日客の"旅ナカ"行動に着目した情報発信の高度化に取り組んでいる。Google AnalyticsおよびGoogle Search Consoleの分析により、訪日客の多くが東京滞在中に周辺観光地を検索している実態が明らかになった。特に、英語(アメリカ・日本滞在中)および繁体字(台湾・日本滞在中)を中心に、「Onsen near Tokyo」「Day trip from Tokyo」「Tokyo to Atami shinkansen」「How to get from Tokyo to Atami」といった「東京起点」での移動・温泉関連キーワードの検索が多い傾向が確認されている。
こうした分析結果を踏まえ、インバウンド公式サイト「Visit Atami」では、検索ニーズに即した記事を新規作成・リライトし、多言語化を実施。単なる翻訳ではなく、検索意図に沿ったコンテンツ設計を行うことで、旅ナカでの情報接触機会を高めている。その結果、サイト閲覧数は約4.6倍、Google検索表示回数は15.3倍に増加。平均掲載順位も大きく向上した。旅ナカでの閲覧率も約3割を維持しており、現地滞在中の行動支援ツールとして機能している。
さらに、各記事をQRコード化し、観光案内所や宿泊施設で活用することで、オンラインとリアルの接点を接続。東京滞在中に情報収集を行う訪日客に対し、検索段階から熱海への来訪検討を促す仕組みを構築している。

