
UKラップ随一の実力者、ロイル・カーナー(Loyle Carner)のフジロック'26出演が決定。2017年のデビューアルバム『A Little Late』で注目を集め、内省的なリリックと越境的なサウンドで知られる彼の現在地とは。再来日を記念して、最新アルバム『Hopefully!』の制作背景を語った昨年実施のインタビューをお届けする。
もし、ロイル・カーナーをまだ知らないのなら、彼の内省的な作品群を少し聴くだけで、すぐに馴染めるはずだ。ロンドン生まれの彼は、演劇学校を中退してラップに打ち込み始めた2014年以来、10年以上にわたって音楽を作り続けてきた。2017年のデビューアルバム『Yesterdays Gone』は、マーキュリー賞と2つのブリット・アワードにノミネートされた。それから4枚のアルバムを経て、彼は実存主義的な表現で知られる、尊敬を集めるアーティストとなった。
(昨年)6月20日にリリースされた最新アルバム『hopefully !』は、相変わらず臆することのない自己探求を見せつつ、リードシングル「in my mind」で披露している歌唱など、クリエイティブ面で新たな試みに挑んでいる。彼はこのプロジェクトのために友人たちと5人編成のバンドを結成した。最初はジャムセッションから始まったが、やがてそれがアルバムの形を成していることに気づいたという。
30歳になった彼は、第二子の父親になったばかりだ(※取材時)。子供たちの存在は、このプロジェクトにおいて大きな役割を果たしたと彼は言う。子供たちへの子守唄を通じて、今作で歌うことに抵抗がなくなったのだ。レコーディングの合間には、息子を保育園に迎えに行くこともあった(アルバムのジャケットには息子の落書きも使われている)。カーナーのより暗く、冷笑的な視点から引き出された楽曲には、子供だけが呼び起こせるような、弾むような明るさが添えられることが多かった。「本質的に、『hopefully !』は子供の目を通した子供の一日なんだ。でも同時に、それは子供の視点ではなくて、僕の視点でもある」と彼は言う。「自分のインナーチャイルドに、少しだけ息をつくための場所と、ありのままの自分でいられる時間を与えようとすることなんだと思う」
子供たちに新しいアーティストを教えているうちにギターに恋をしたと彼は語り、その楽器はアルバムで大きな役割を果たすことになった。瞑想的なストリングスとグライムにインスパイアされたドラムが詰まった11曲を通して、カーナーは深く掘り下げていく。今作にはニック・ハキム(「dont fice it」)とネイヴィー・ブルーが参加しており、後者は「purpose」でヴァースを披露している。その結果、このアルバムは「Lyin」のように自分の欠点を見つめることを恐れないカーナーの姿勢を残しつつ、人生に対する新たな楽観主義も感じさせるものとなった。
カーナーは本誌に、新作、父親であることについて語ってくれた。
父親としての学び
ー2022年の『Hugo』以来のプロジェクトですね。それからどんな日々を過ごしてきたのでしょう?
カーナー:順調だよ。第二子となる娘が生まれたんだ。それが一番の印象深い出来事だった。子供たちと本当にたくさんの時間を過ごせているよ。世界中を旅しているけど、彼らも一緒だ。子供の目を通して世界を見ることで、世界をあるがままに見られるようになった。子供ができる前の、もっと冷笑的だった頃とは違って、世界の不思議や喜びを再び感じられるようになったんだ。だからタイトルを『hopefully !』にしたんだと思う。ようやく希望が見えてきたからね。
ー父親になったことで、他に学んだことは?
カーナー:自分に対して優しくある方法、自分に対して批判的である方法、そして自分が何者であるかに向き合う勇気。子供は自分の姿を完全に映し出す鏡のような存在で、そこには自分の好きな部分もあれば、嫌いな部分もある。自分でも気づかなかったような部分がね。父親になることは、本当の自分と格闘することを強いるんだと思う。それを学んだよ……それから、どんな状況でも「今」という瞬間に集中することや、眠ることが少し難しくなったね。
ーあなたの作品群で印象的なのは、その内省的な部分。書き手として、自分の脆さをさらけ出すことに抵抗がないのはどこから来るものなんでしょう? それが課題になったことはありますか?
カーナー:おそらく、僕の母からだと思う。母は読み書きや教育的支援が必要な子供たちを教える教師なんだ。母は僕によく読み聞かせをしてくれた。だから、曲を書き始めた頃の僕は、作曲という行為を「匿名」のものとして考えていたんだと思う。僕が知っていたのは、本や戯曲、脚本、映画の作者というのは、決して読み手の目の前には現れないということだった。書いている本人は見えないんだ。僕も自分の執筆に同じように取り組んでいた。でも音楽では、自分自身も最前線に立つことになる。だから、それはある種のアクシデントだったんだと思う。
ー初期の作品はどんなものでした?
カーナー:学生の頃、僕の見た目のせいで、周りの人たちは僕が書くことに興味があるなら詩(poetry)やラップをやるべきだと思い込んでいた。でも当時は、本当に……文学の世界に入り込めるように誰かが後押ししてくれるような雰囲気はあまり感じられなかった。それよりも音楽や詩を書くことばかりだった。そう、なりたい自分をお手本として見ることができなければ、それになるのは難しいんだと思う。僕がやりたかったことを体現している人は、あまり周りにいなかった。僕は詩の世界に入り込み、そこから詩を音楽に乗せるようになって、今の場所にたどり着いたんだ。
ーラングストン・ヒューズ(アメリカの作家)から影響を受けているそうですね。彼の作品のどこが特別で、それが自分の作品にどう反映されていると思いますか?
カーナー:彼の詩が僕にとってとても重要なのは、それが「読む」のではなく、人生で初めて「聴いた」詩のいくつかだったからだ。「黒人はおおくの河のことを語る(The Negro Speaks of Rivers)」や『おんぼろブルース(Weary Blues)』からのいくつかの作品。彼の声を聴いたんだ。詩というのは、ある意味で読まれるものではなく、聴かれるべきものだと思う。語られるのを聴くことで、それがどう消化されるべきなのか、脳内のロックが解除されたような気がしたし、その良さを理解する助けになった。彼は、僕がギル・スコット=ヘロンや他の誰よりもずっと前に、自分の詩を自ら語るのを聴いた最初の詩人なんだ。
ー自分は読書家だと言えそうですか?
カーナー:僕はオーディオブックの愛読家だね。それが読書に入るならだけど。僕はひどいディスレクシア(読字障害)で、読むのにすごく時間がかかるんだ。最近は、子供の頃に母さんが読み聞かせてくれた『パイの物語(Life of Pi)』を読み返している。本当に美しく書かれていて、僕の中では最高の一冊だ。本から溢れ出すアイデアがとても特別なんだ。主に運転している時に、できるだけ多くの言葉を吸収しようとしているよ。
ー好んで読む(聴く)ジャンルや本の種類はある?
カーナー:実は、フィクションはめったに読まないんだ。『パイの物語』を読んで、フィクションがいかに特別なものになり得るかを思い出したよ。よく読むのは、自己啓発本とは言いたくないけど、人間性について探求しているような本だ。最近『Humankind 希望の歴史』という本を読んだ。人間の本質や、人間は本来親切なのかどうかについて書かれた本なんだけど、これが本当に美しくて、希望に満ちていて、今回のアルバムの大きなインスピレーションになった。あとは食べ物に関するものや、大好きなバンドの本、自伝など、自分の興味があるものを読むようにしている。ノンフィクションが多いかな。そこが僕にとって落ち着く場所だし、理解しやすいんだ。
ー本のタイトルが『Humankind』?
カーナー:そう、ルトガー・ブレグマンというオランダ人の著者の本だ。基本的には「人間がそれほど素晴らしい存在なら、なぜひどい出来事が起こるのか?」ということを考察している。すごく興味深いよ。最初は僕たちのコミュニティの話から始まる。かつての僕たちは遊牧民で、あちこちを旅して多くの人に出会っていた。それに対して今は、周囲に人はたくさんいるけれど、移動しなくなったせいで、かつてのような切実な形で他者を必要としなくなっている。マンションの一角に住んでいても、周りはみんな他人だ。昔なら、近くに誰かがいれば「何を交換できる? 食べるものはある? これは安全? 試してみた?」という感じだったはずなのに。僕たちはかつてないほど近くにいるのに、かつてないほど遠くにいるんだと思う。
ーその本を読んだことが、曲作りにどう影響しました?
カーナー:その本を読み始めた時の僕は悲観的だった。ある意味、悲観的になったり冷笑的になったり、自分に厳しくなったりする方が簡単だからね。でもあの本は、人間の本質は根源的にはとても美しいもので、善人が善いことをし、悪人が悪いことをするのではなく、人はただ行動し、その行動は環境や育ってきた過程、経験の産物なのだと気づかせてくれた。共感と理解を持って接することが不可欠なんだ。自分は間違っていないし、正しい道を進んでいる、自分は悪い人間じゃないという希望を少し持てるようになったよ。子供を育てていると、世界中で起きている狂った出来事を目にして、どうして人があんな風になってしまうのかと考えてしまう。自分の子供たちにはそうなってほしくない。だから、その理由を理解しようとしているんだ。
バンドとしての制作、ギターに恋した理由
ー今作『hopefully !』を一緒に作り上げたバンドのメンバーは?
カーナー:ドラムのリチャード・スペイヴン、彼は信じられないほど素晴らしいドラマーだ。キーボードにフィン・カーター(finn carter)、ベースにイヴ・フェルナンデス(Yves Fernandez)、シンセサイザーにアビー・バラ(Abby Barath)、そしてギターにラクエル・マーティンズ(Raquel Martins)。友人たちと一緒にいることが重要だったんだ。音楽、特にラップにおいては、ビートを送ってもらって、そこに自分の言葉を乗せて完成させるというやり方がずっと続いてきた。でも、そのプレッシャーに時々、身がすくむような思いをすることがあった。僕にとっては、アイデアの核が形成される瞬間に同じ部屋に誰かと一緒にいることの方が、完成品を渡されるよりもずっと特別なんだ。ラップのプロデューサーともそういう関係を築けることはあるけど、それは稀だね。それに、バンドという「匿名性」も気に入っている。僕個人のことではなく、コレクティブとしての僕たちの音楽なんだ。物語の背景にそっと紛れ込めるのが、本当に楽しいんだよ。
上述のバンドメンバーが参加したライブ映像
ービートを送られてから完成までに時間がかかったこともある?
カーナー:ああ、マッドリブから大量のビートパックを送ってもらったことがあるんだ。彼は僕のヒーローで、現役で一番好きなプロデューサーだ。僕の人生の多くの場面でサウンドトラックになってきたし、僕が大好きな音楽にも多大な影響を与えている。その過程で、自分がいかに苦戦しているかに気づいたんだ。送られてきたビートは刺激的でエキサイティングだったけど、「くそ、彼と同じ部屋にいたい」と思う瞬間が何度もあった。彼がどんな意図で、どんな映画を観ながらそのビートを作ったのかも分からない。それはすごく孤独なプロセスなんだ。これまでのキャリアでたくさんの曲を作ってきた。彼のビートでレコーディングした曲も20〜30曲あって、そのまま眠っている。それらをどうするかは分からないけど、あれが僕にとって最後だったと思う。「最高に特別な経験だったし、楽しかった。でも、あのビートを超えるものなんて誰にも作れない」って確信したから。
ーそれらのビートで曲を書いていたのはいつ頃?
カーナー:前作(2022年作『hugo』)を作っている時で、一時期は「マッドリブとのコラボアルバムを一枚丸ごと作ろうか」と考えていたこともある。結局、そこで作った曲のうち2曲が前作に入った。残りは大事に取っておいて、どうするか考えようと思ったんだ。でも、あの頃の音楽はタフな時期のものだから。当時の感情を再訪するのは、必ずしも簡単なことじゃないね。
ー今回のアルバムでは、どんなサウンドをイメージしていました?
カーナー:実のところ、ここしばらくはラップをあまり聴いていなかった。今でも大好きだけど、それは僕が聴いて育ってきた音楽の一部に過ぎない。子供たちと一緒に、自分が昔から聴いてきたオルタナティブ・ミュージックを聴いていたんだ。彼らに、世の中には色々な種類の音楽があるんだという全体像を見せたかった。その中で、予想以上にたくさんのギターの音を耳にして、改めてギターに恋をしたんだ。僕の家族の多くがギターを弾くんだけど、若い頃の僕はどこかそれを拒絶していた。でも、またそこに戻ってきたんだ。だから今作のサウンドは、本質的にあらゆる形態のギターを中心に回っている。エリオット・スミスのような、ギター一本と自分だけのスタイルもあれば、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのような分かりやすいものもある。すべてがギターを中心に構成されているんだ。
「歌」を取り入れた経緯、リリックに込めた想い
ー今作では歌も披露していますが、以前から考えていたことなのでしょうか? なぜ今、挑戦しようと思ったんでしょう?
カーナー:一度も考えたことはなかった。もし去年の僕に同じ質問をしても──たとえ今作の楽曲をいくつか作り始めていた時期だったとしても──「みんなに聴かせる方法なんてないよ」と答えていたと思う。やっぱり、きっかけは子供たちと一緒に過ごしたことなんだ。ありきたりな言い方だけど、子供たちを寝かしつける時に歌ってあげたり、息子が車の中で歌っていたりするのを見てね。
それで気づいたんだ。歌えるかどうかではなく、歌おうとするかどうかが大事なんだって。別に自分の歌が上手いとは思わないし、テクニックがあるとも思っていない。それが目的じゃないんだ。正直に言えば、深く考えていたわけじゃなく、その瞬間に正しいと感じたことをやっただけ。でも、子供たちへの想いを表現するのに、言葉だけでは足りなかった。彼らへの愛について精巧なリリックを書こうと何度も試みたけど、結局どれも余計なものに思えてしまった。世界中のどんな言葉を尽くしても足りない。それは、言葉を超越した何かにならざるを得なかったんだ。
ー今後も、自分のスタイルに「歌」を取り入れていくと思う?
カーナー:その可能性はあるかな。やっていて気持ちがいいしね。みんながどう受け止めるか見てみるよ。もし全員に嫌われたとしても……たぶん、それでも僕は歌い続けると思う。
ー「lyin」の中で、こう言ってますよね。〈ただ殺すことばかり考えている男/君を愛するための技術なんて、僕にはなかった(Just a man trying to kill/To love you I never had the skill)〉。このラインにはどんな想いが込められている?
カーナー:世の中は「強くあること」を教えてくれるだろう? 僕が手本として見てきたような人たち──僕の人生には、愛し方を教えてくれる男がいなかったんだ。父や叔父たち、親戚の男たちは、誰一人としてパートナーと一緒に居続けていない。僕が目にしてきたのは、人間関係をどう築くべきではないか、あるいは、いかなる形であれ愛にどう向き合うべきではないかという(反面教師にすべき)例ばかりだった。
子供やパートナー、友人を愛するということは、実はとても難しいことで、絶え間ない努力が必要なんだ。でも、それをちゃんと説明してくれる人は誰もいなかった。僕はただ、戦うために作られた兵士のような気分だった。でも、それは僕が本当にやりたいことじゃないんだ。
ー「time to go」にも気になるラインがあります。〈脳にのしかかるプレッシャー/自分の名が作り上げた伝説を壊していく/前と同じように感じられる日が来るんだろうか(Pressure on my brain/Killing the legend of my name/Wondering if I'll ever feel the same)〉。自分の名の「伝説」を壊していくプロセスとは、どういうものなんでしょう?
カーナー:キャリアを重ねれば重ねるほど、自分が手にしたものを損なってしまう可能性も増えていくということだと思う。だからこそ、自分のやることに細心の注意を払わなきゃいけない。僕はこれまで、希望に満ちたポジティブな人間という「ペルソナ」を築き上げてきたように感じている。でも、時々そう思えない日は、まるで正反対の自分を生きているような感覚になるんだ。
みんなは僕のところに来て、「君は本当にポジティブで、楽観的で、他人に対しても誠実だ」なんて言ってくれる。でも、もし僕が最悪な一日を過ごしていたり、何かに苦しんでいたりすれば、人々が僕に対して抱いているイメージという幻想を粉々に砕いてしまうような気がするんだ。ある意味、僕自身も自分に対してその幻想を抱いているのかもしれない。僕はポジティブな人間だけど、そう感じられない日だってある。それが他人に、そして自分自身にどんな影響を与えるのか。そんなことを考えている。
ー今作から最初に公開された2曲は「all I need」と「in my mind」でしたね。なぜこの2曲を選んだのでしょうか?
カーナー:これまでの作品とは違っていたし、自分でもすごく誇りに思える曲だったから。メロディックな曲については、かなり不安もあったんだ。だからこそ、あえて一番ビクビクしている部分を真っ先に見せるのが理にかなっていると思った。言い訳をするんじゃなくて、自信を持って提示したかったんだ。
ーツアーに出ることについてはどう感じている?
カーナー:ワクワクしているよ。今は最高のタイミングだと感じている。前回のツアーの時は、個人的に辛い状況にいて、演奏していた音楽もかなり重くて攻撃的だった。それはそれで良かったけど、やり遂げるにはかなりのエネルギーが必要だったんだ。でも今回のアルバムは、すごく「軽やか」なんだ。アプローチそのものが軽快だった。かつて訪れた都市を、もっと穏やかな気持ちで再訪して、もっと優しい雰囲気の中で曲を奏でられるのは、すごく素敵なことだと思う。
From Rolling Stone US.
FUJI ROCK FESTIVAL '26
2026年7月24日(金)〜26日(日)新潟・苗場スキー場
※ロイル・カーナーは7月24日(金)出演