伊能忠敬に学ぶ「人生後半戦」の圧倒的向上心 50歳から天文学・測量を学び、56歳で日本一周へ
放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。4月19日(日)の放送は、伊能忠敬研究会 副代表理事の柏木隆雄さんをゲストに迎えて、お届けしました。


(左から)パーソナリティの小山薫堂、柏木隆雄さん、宇賀なつみ



◆商人から測量家へ転じた伊能忠敬の挑戦

4月19日(日)は「地図の日」、あるいは「最初の一歩の日」として知られています。これは1800年の旧暦4月19日、伊能忠敬が蝦夷地測量のために江戸を出発したことに由来しています。そんな記念日にちなみ、番組では伊能忠敬研究会の副代表理事であり、その子孫でもある柏木隆雄さんを迎え、知られざる人物像に光を当てました。

伊能忠敬といえば、日本地図を完成させた偉人という印象が強いものの、その前半生は商人としてのものでした。「千葉県・九十九里のほうから17歳のときに、(千葉県佐原の)伊能家に養子に入ったんです。伊能家は今でいう醸造業や金融業で幅広く商売をしていた大店(おおだな)でした。ミチさんという奥さんはバツイチで、ご主人と別れてから婿探しをしていて、伊能忠敬に白羽の矢が立って伊能家に養子に入ったんです。それから商売を一生懸命やっていたんですね」と柏木さんは説明します。忠敬はその後、酒や醤油、味噌といった醸造業を中心に、金融や土地貸しなど幅広い事業を手がける家業を支えていきます。

そんな忠敬に転機が訪れたのは49歳のときです。長年望んでいた隠居がようやく認められ、翌50歳で江戸へと移ります。そこで彼は、それまでの実務中心の生活から一転し、天文学や測量、力学といった学問に打ち込みました。千葉県佐原には現在も約5,000冊に及ぶ蔵書が残されており、柏木さんは「小さい頃から向上心があった」と、その学びへの姿勢を語ります。年齢を重ねてからなお、新たな分野に挑戦しようとする姿は、「出世したいという意気込み」の表れでもありました。

そして56歳、忠敬は全国測量という大事業に踏み出します。そこから17年にわたり日本各地を歩き続け、延べの移動距離は約3万8,000キロ。地球一周分に相当するといわれています。当時の平均寿命が40代とされるなかでの挑戦に、スタジオからも驚きの声が上がりました。小山は「なかなか50を過ぎて未知なる世界に飛び込む人はいない」と語り、その決断の大きさを改めて浮き彫りにします。誰も成し遂げたことのない精密な地図づくりに挑んだ姿は、まさに「最初の一歩」を体現したものといえるでしょう。


柏木隆雄さん著「伊能忠敬と柏木家の人々」(愛育出版)



◆精密地図と交流記録に見る探究心

完成した伊能図は極めて精度が高く、幕府にとって重要な情報資産であったため、柏木さんは「秘図という意味であまり一般には出なかった」と説明します。一説には、来日したイギリスの測量隊がその地図を見て完成度の高さに驚き、測量を断念して帰国したという逸話も残されています。現在もロンドンのグリニッジ天文台にはその控えが保管されており、国際的にも高く評価されていたことがうかがえます。

また、忠敬の旅は単なる測量にとどまらず、文化的・宗教的な関心にも支えられていました。各地の神社仏閣を訪ね、記録を残していたことも特徴の1つです。柏木家には法隆寺訪問時の図録や資料が伝わっており、それをもとに現在も法隆寺との交流が続いています。特に印象的なのは、当初は簡素に見えた日記の記述の裏に、より詳細な記録が存在していたことです。

柏木さんは資料の検証を進めるなかで、新たに見つかった記録によって、忠敬が聖徳太子像を特別に見せてもらっていた事実などが明らかになりました。「法隆寺とやり取りをしているあいだに『年会日次記』という日記が出てきました。そういう事実と訪問図録を渡した記録が出てきたので実証されたんですね」という柏木さんの言葉には、研究者としての実感がにじみます。

さらに、忠敬の商人としての側面は測量の旅にも色濃く表れていました。各地で大名などから歓待を受け、贈り物を受け取ることも多かったといいますが、それらをそのまま持ち歩くのではなく、現地で換金し、京都の商家に預けて佐原で受け取るという仕組みを活用していました。柏木さんは「いかにも商売人らしい」と表現し、効率を重んじる合理的な判断力を指摘します。

番組では「お手紙」をテーマにしたコーナーも展開され、柏木さんはこれまで印象に残っている手紙として、法隆寺とのやり取りを挙げました。数多くの古文書のなかから関連記述を探し出してもらうなど、その交流は研究の大きな支えになったといいます。「自分の勉強にもなったし、交流もできました」と振り返る言葉からは、過去と現在をつなぐ手紙の力が感じられます。最後に柏木さんは、「今、想いを伝えたい方」として伊能忠敬本人を選び、手紙をしたためました。

<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY'S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/post/
番組公式X:@sundayspost1