仕事や趣味、スポーツなどにおいて、次々と成果を出していく人と、そうでない人。その違いはどこにあるのでしょうか。

この構図は、アニメや漫画の世界でもよく描かれます。なぜ主人公は強敵に勝つことができるのか、成長し続けられるのか。たとえば『ドラゴンボール』のベジータは、なぜ悟空を超えられなかったのか。

今回は、『静かな時間の使い方』(安斎勇樹/朝日新聞出版)より、仕事や趣味の成長に役立つ「成果重視型」と「上達重視型」という考え方について紹介します。

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成果を出せる人とそうでない人の違いは?

同書では、仕事や趣味などにおける人間の成長観には「成果重視型」「上達重視型」という2つのタイプがあるとされています。

成果重視型は、周囲に認められる成果を達成することを重視するタイプを示し、上達重視型は、自分の技が磨かれ、上手くなることを重視するタイプ(※同書より抜粋)。

では、どちらのタイプのほうが成果を出しやすいのでしょうか。

悟空とベジータ、武蔵と小次郎

この構図は、漫画の世界でもよく描かれます。上達重視型のキャラクターが、成果重視型のキャラクターを打ち破るという構図です。

わかりやすいのは、少年バトル漫画の王道『ドラゴンボール』(鳥山明)です。主人公の孫悟空は、典型的な上達重視型のキャラクターです。自分がどこまで強くなれるか、どこまで技を磨くことができるかを何よりも重視し、それを楽しんでいる様子が描かれています。若いころは、「天下一武道会で優勝する」ことを目標に掲げていた時期もありましたが、それでも、自分の修行の成果を確認し、強い相手に本気で挑むこと自体を楽しんでいた節があります。

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一方、悟空のライバルであるベジータは、相手に勝つこと、自分のプライドを示すこと、サイヤ人エリートとしての力を誇示すること、場合によっては相手を殺すことを重視して戦ってきました。成果重視型のキャラクターです。

結果としてベジータは、原作の最後まで悟空を超えることができませんでした。その理由について、ベジータ自身による非常に象徴的なリフレクションのシーンが描かれます。魔人ブウ編の終盤、悟空とブウの戦いを目の前で見ながら、ベジータがひとりで考え込むシーンです。私はこのシーンが本当に好きなのですが、ベジータはこう言います。

「なんとなくわかった気がする……なぜ天才であるはずのオレが、おまえにかなわないのか……」

悟空は相手に勝つため、相手を負かすために戦っているのではない。自分の限界を極め続けるために戦っている。だから、自分は悟空に勝てなかったのだ──。そんな本質的な気づきが描かれているのです。

また、剣豪・宮本武蔵の生涯を描く『バガボンド』(井上雄彦)でも同じ構図が描かれています。若き日の武蔵は、典型的な成果重視型でした。

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「この世にただ一人、天下無双の男になる」そう言って戦場へと向かいます。つまり、天下無双という成果を追い求めるところからスタートするわけです。しかし、さまざまな壁にぶつかったり、師匠と出会ったりするなかで、しだいに武蔵は気づいていきます。勝ったはずなのに、天下無双が遠ざかっていく感覚。なぜか満たされない違和感……。

悩み続けた末に、武蔵は「天下無双は陽炎、ただの言葉だ」という境地に至ります。言い換えれば、リフレクション(※1)を通してソーシャルノイズ(※2)から解放されていくわけです。その結果、武蔵は上達重視型に変わり、「静かな強さ」を備えた存在になっていきます。

象徴的なのは、村人たちに剣を教えるシーンです。武蔵は戦いで足を負傷し、うまく歩けなくなってしまいます。そして、踏ん張れない身体になって初めて、「最近の自分は腕に頼りすぎていた」「腕でなんとかしようとするのが自分の欠点だった」ということに気づきます。「腕に力を入れすぎると、足や腹、腰やへそを忘れてしまう。腕はないと思って振ったほうがいい。その前に、もっと空を見る。風が変わる──」

自分の剣をどう振るか、自分の身体の使い方そのものに意識が向かっていきます。天下無双のような社会的な成果ではなく、自分の技の上達に向き合う存在へと変わっていくわけです。

一方、佐々木小次郎は、生まれつき耳が聞こえず、自分の身体の内側の感覚に耳を澄ませながら、ひたすら剣を振り続けてきた人物として描かれます。まさに、生まれつき「静かな時間」で育った上達重視型です。そんな小次郎と武蔵が対峙していく──。『バガボンド』の連載は、ちょうどそのあたりで止まっています。

いずれにしても、これらの物語が示しているのは、端的にいえば、成果重視型はかえって成果を出しにくい。上達重視型のほうが、最終的には成果も出してしまう。そんなパラドックスなのです。

※1:同書では「ソーシャルノイズに抑圧されてよくわからなくなってしまった『自分』に目を向け直し、自分の行動・思考・感情について振り返ることで、内発的動機を回復させること」としている。

※2:同書では、「『正しくあれ。ふつうであれ。ルールからはみ出すな。もっと成長しろ。数字が足りない。いいねを稼げ。輪を乱さずに、空気を読め。即レスしろ。マネジャーなら、こうふるまえ。などの外圧のこと」としている。


特に仕事やスポーツの世界では、明確な目標が設定されていることが多く、どうしても「成果を出すための努力」に意識が向きがちです。

しかし、成果だけにとらわれるのではなく、ときには周囲の意見や社会の「普通」から少し距離を置き、「自分はどうなりたいのか」「何をしたいのか」を見つめ直してみることも大切なのかもしれません。そうした視点が、結果として物事を前に進めるヒントになる可能性があります。

『静かな時間の使い方』(朝日新聞出版)

1,760円(2026/3/26時点)
著者:安斎 勇樹
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