杏林製薬は11月5日、「長引く咳の実態調査」の結果を発表した。調査は2025年9月11日~9月19日、直近1年以内に咳が長引いた(3週間以上)ことがある10,298人を対象にインターネットで行われた。

咳が続いても医療機関を受診しない人は44%

過去1年以内に「咳が長引いたことがある」と回答した10,298人に対し、その際に医療機関(病院・クリニック)を受診したかを尋ねた。その結果、「いいえ(受診していない)」と答えた人は43.8%となり、約4割が未受診であることがわかった。

  • 「せき(咳)が長引いた」状態の時に医療機関(病院・クリニック)を受診しましたか

    「せき(咳)が長引いた」状態の時に医療機関(病院・クリニック)を受診しましたか

さらに、受診しなかったと回答した4,510人にその理由を聞いたところ、最も多かったのは「咳の症状がひどくないから」(37.1%)、次いで「日常生活に支障がないから」(35.2%)、「市販薬でおさまるから」(16.1%)だった。この結果から非受診者の傾向として、"軽症だから受診しない""自己対処で様子を見る"という人が多いことが明らかになった。また、少数の意見として「咳で受診していいのか分からないから」(8.8%)、「咳は治らないと思うから」(8.5%)、「どの医療機関を受診すればいいか分からないから」(3.8%)という人もおり、咳に対する理解不足も浮き彫りになった。

  • 「受診していない」とお答えの方にお伺いします。咳について医療機関(病院・クリニック)を受診していない理由を教えてください。(複数選択)

    「受診していない」とお答えの方にお伺いします。咳について医療機関(病院・クリニック)を受診していない理由を教えてください。(複数選択)

医師に十分伝えられていると回答した人は約2割

長引く咳で医療機関を受診した5,788名を対象に、医師にどの程度症状を伝えられているかを質問したところ、「咳が出やすいタイミング」「きっかけ・誘因」「生活への影響(困りごと)」について、"伝えられていない"と回答した人がそれぞれ40%以上にのぼった。一方で、「十分伝えられている」と回答した人は各項目で2~3割程度にとどまり、受診時に咳の具体的な状況が医師に伝わりきっていない可能性が示された。

  • 「受診している」とお答えの方にお伺いします。自分の咳の症状を医師にどの程度伝えられていると思いますか

    「受診している」とお答えの方にお伺いします。自分の咳の症状を医師にどの程度伝えられていると思いますか

長引く咳が辛くて受診する人の3人に1人は"非常に辛い状態"

長引く咳で医師に相談しようとするとき、どの程度辛いと感じているかを、0(辛さがまったくない)~10(耐えられないほど辛い)で尋ねたところ、「7点」と答えた人が最多で20.7%となった。また、「8点」18.2%、「9点」5.4%、「10点(耐えられないほど辛い)」8.4%となり、約3割(31.9%)が医療機関を受診するタイミングでは"非常に辛い状態"であることがわかる。

また、「受診してどの程度まで症状が下がったら良いと思うか」を尋ねたところ、「0(辛さがまったくない)~2点」と答えた人が52%を占め、多くの人が"ほとんど支障がない状態"までの改善を望んでいることがわかった。

  • (上)医師に受診して相談しようとする時、長引く咳の辛さの程度はどの程度だと思いますか/(下)医師に受診して相談した際に、長引く咳の辛さがどの程度まで下がったら良いと思いますか

    (上)医師に受診して相談しようとする時、長引く咳の辛さの程度はどの程度だと思いますか/(下)医師に受診して相談した際に、長引く咳の辛さがどの程度まで下がったら良いと思いますか

咳過敏症の認知率は全体で3割

咳過敏症は、通常では反応しない"わずかな刺激"に対しても神経が過敏になって咳が出てしまう状態のことを指す。2025年春にアップデートされた咳の診療ガイドラインでは、これまで原因不明の咳とされてきた症状に対し、「咳過敏症」という病態が明確に記載され、メカニズムや治療法についても紹介された。この疾患名の認知状況を尋ねたところ、知っている・聞いたことがあると回答した人は約3割の結果になった。受診の有無別でみると、現在も医療機関を受診している人では19.5%が「知っている」と回答した。一方で、「受診したことはあるが、今は受診していない」層では5.4%、そして「受診していない」層ではわずか2.3%にとどまった。また、受診していない層の81.5%が「まったく知らない」と回答し、受診経験の有無によって「咳過敏症」の認知度に明確な差が見られた。

  • 「咳過敏症」とは「十分な治療を行ってもわずかな刺激などで咳が出てしまう状態」を言います。あなたは咳過敏症についてご存じですか?

    「咳過敏症」とは「十分な治療を行ってもわずかな刺激などで咳が出てしまう状態」を言います。あなたは咳過敏症についてご存じですか?

「冷たい空気」「香水」など咳を誘発する意外な要因も

咳を引き起こす誘因について尋ねたところ、男女ともに「喉のイガイガ」や「乾いた空気」「煙」「冷たい空気」などが上位に挙げられた。「乾いた空気」「冷たい空気」など、秋冬の季節に関連する項目も上位に上がり、特に秋冬の乾燥期には症状が悪化しやすい可能性が示された。

また、男女で比較してみると、女性ではこれらの要因に対して反応しやすい傾向がわかった。特に男女で差が見られたものとしては、「乾いた空気」女性45.1%(男性29.3%)、「煙」女性34.8%(男性24.5%)、「冷たい空気」女性28.7%(男性18.2%)で、その他もほぼすべての項目で女性の割合が高くなっている。

  • 次のうち、咳を引き起こしやすい状況や要因になるものはありますか。当てはまるものをいくつでもお答えください

    次のうち、咳を引き起こしやすい状況や要因になるものはありますか。当てはまるものをいくつでもお答えください

調査を受けて、公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院 呼吸器内科 主任部長の丸毛 聡氏は以下のようにコメントしている。

「咳は単なる風邪の後遺症や一時的な症状と捉えられがちですが、背景には『咳過敏症』のように神経の過敏化が関わる病態が隠れていることがあります。特に秋から冬にかけては、空気の乾燥や寒暖差が刺激となり、症状が悪化しやすい季節です。咳が長引き日常生活に支障があるような場合は、自己判断で市販薬に頼るのではなく、早めに医療機関で相談してください。原因が分かれば適切な治療で改善することも多く、生活の質を大きく改善できる可能性があります。咳は『体の防御反応』ですが、長引くと心身への負担になります。気になる症状は放置せず、医師による診察の上で改善に取り組むことが重要です」。