坂が苦手な人は多いだろう。しかし、紅葉のワインディングロードを抜け、絶景がひろがる峠を目指すヒルクライムは、これからが最高のシーズン。大きなローギヤとサイクルコンピュータの2つがあれば、誰でもヒルクライムの苦手意識を克服できる。

“頑張らない”が速さの秘訣

ヒルクライムを楽しむ基本は、自分のレベルにあった強度とペースをつかむことだ。ヒルクライムのキツさは勾配だけでは決まらない。勾配が緩くても、距離が短くても目いっぱい頑張れば、どんな坂でもキツくなる。

逆に体力に見合った強度にコントロールできれば、我慢できる程度のキツさで十分に坂を登れるようになる。イソップ童話のウサギとカメ同様、速く走っても休憩したりオーバーペースになると、最終的にはゆっくりでも走り続けた人の方が早いのだ。

坂だから遅くなるのは当然。そう自分に言い聞かせるところから、ヒルクライムは始まる。しかし、どんなにゆっくり走ってもキツい。そんなときは大きなローギヤを装着して強度を見直そう。大概のスポーツバイクは、後ろのギア(カセットスプロケット)が交換できる。

今年、私もヒルクライムに行く頻度を上げるため、ローギヤを28Tから、より軽いギア比となる34Tの大きなカセットスプロケットに交換した。すると、狙い通り、足が向きにくかった峠に行くようになり、急坂への苦手意識も薄らいだ。自転車は機材スポーツなので、上手に使いこなすのがコツだ。不具合を感じたら我慢せずに自転車側の調整を考えてみよう。

なお、スプロケットの交換は専用工具が必要な問題もあるので、ショップで作業してもらおう。

強度とペースはサイクルコンピュータに訊く

では、具体的な話を進めよう。強度の目安を作り出すのは心拍計、ペースはペダルの回転数(ケイデンス)を使う。どちらもサイクルコンピュータとセンサーがあれば、走行中のデータが分かる。

強度の目安は、目的別に運動強度が分かる計算方法(カルボーネン法)を使っておおよその心拍数が出る。たとえば30歳、安静時心拍数が60拍/分の人であれば、ヒルクライムなら以下のようになる。

カルボーネン法

目標心拍数 = (最大心拍数 - 安静時心拍数) × 運動強度(%) + 安静時心拍数

カルボーネン法による計算(安静時心拍数60拍/分の場合)

  1. 最大心拍数の算出
    • 220 - 30歳 = 190拍/分
  2. 目標心拍数の算出
    • (最大心拍数 190 - 安静時心拍数 60) × 運動強度 0.6 + 安静時心拍数 60
    • = 130 × 0.6 + 60
    • = 138拍/分

運動強度0.6という設定は、運動習慣のある人であれば、かなりラクに感じるはず。初心者でも“ややきつい”程度、息は弾むものの会話ができるペースだ。ラクに感じてもペースを上げる必要はない。心拍数に従ってペースを守り、途中で苦しくなってきても、運動強度が最大心拍数の75%を超えないようにすること。感覚的な目安としては、ぎりぎりだが単語で話ができる程度の強度。それ以上は初心者にとってオーバーペースだ。

続いてはペース。最適なペダルの回転数はクランクに取り付けたセンサーで計測する。個人差はあるが、初心者がヒルクライムに挑戦するなら、一分間の回転数が65~70が基準。65回転を維持するのがキツくなったら、ギヤを1枚軽く。逆に70回転を超えたら、1枚重くする。

峠や勾配を可視化する

初めての峠は、残りの距離や勾配がどうなっているか不安になりがち。そうした不安を解消してくれるのがサイクルコンピュータである。iGPスポーツのBinaviは、1000kmを超える長距離ルートも数秒で作り出す処理能力を持つ最新モデル。道を間違えたときのリルートも素早く作成してくれるなど、従来機の弱点を見事に克服していると人気が高い製品だ。

  • ナビゲーションに特化したサイクルコンピューターのiGPSPORT・BiNavi。3.5インチの大型HDタッチスクリーンを搭載、直射日光下でも見やすい反射型ディスプレイを採用している。アプリと連携してGPXデータの取り込みも簡単。ライトやバックレーダーとも連携する最新モデル。

    ナビゲーションに特化したサイクルコンピューターのiGPSPORT・BiNavi。3.5インチの大型HDタッチスクリーンを搭載、直射日光下でも見やすい反射型ディスプレイを採用している。アプリと連携してGPXデータの取り込みも簡単。ライトやバックレーダーとも連携する最新モデル。

事前にコースを登録しておけば、坂(距離500m、平均勾配3%以上)の直前になるとヒルクライム支援機能のiClimb3.0が起動。プロフィールグラフに加えて、地図上に登坂区間が色分けされて強調表示される。

  • 坂の勾配が視覚化される

    坂の勾配が視覚化される

実際に走ってみると、その効果が絶大であることに気づく。たとえば登り始めの区間の勾配がキツく、あとは一定に登っている峠だと分かれば、キツい区間が終わった後のペースが落ちないように脚力を温存できる。また、後半がキツいなら、序盤から疲れないようにペースをコントロール。キツい区間を走っている時も、残りの距離や勾配が分かれば、頑張るべきか、無理すべきじゃないかの判断もできる。

あのカーブを曲がれば、きっと上りは終わる。そう思っていたら、カーブの先に坂が続いている。そんな経験は誰にでもあるだろう。あの絶望感、無駄な期待がなくなるだけで冷静に走れるようになる。

ここまで初心者向けの機能について説明してきたが、Binaviには上級者向けの機能も搭載されている。

  • 16カテゴリー160種類以上のデータ項目をサポート
  • データページの優れたカスタマイズ性
  • パワーメーター&深部体温計対応
  • 表示は好みで変更できる

    表示は好みで変更できる

  • 表示する文字を大きく

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さらに継続して使用することで、走行中の心拍数、パワー、速度などのデータを計測し、科学的なアルゴリズムでユーザーの身体状態を分析。最近のトレーニング負荷や回復状態を評価し、オーバートレーニングのリスクを警告。

他にも最大酸素摂取量(VO2max)などの指標を算出し、体力レベルの把握をしたり、疲労回復時間を示し、適切な休息を促すことで効率的なトレーニング計画を支援する機能もある。

機能のすべてを使いこなすのは無理としても、初心者にもサイクルコンピュータはおすすめのアイテムだ。登録した目的地までの距離や到着予定などを表示させられるので、モチベーションを維持するのにも役立つし、年間走行距離や平均時速など、ヒルクライムだけでなくサイクリングライフをサポートしてくれる。

フィットネスライダーの多くは速く走ったり、強くなりたいわけでもない。それゆえデータを活用したサイクリングは、ハードルが高そうに見えるかもしれないが、サイクルコンピュータなどのデバイスは頑張るためにあるのではなく、必要以上に苦しまないためにある。また、Binaviのようにナビ機能があるサイクルコンピュータは、旅先の見知らぬ街や初めての峠を気ままに走り、家やホテルに無駄なく確実に戻るためにも便利だ。

ヒルクライムの面白さはいろいろあるが、上手に走れるようになったことを実感しやすいのも大きな魅力のひとつ。麓から20分だけ、いつものペースで走る。これを続けると、自分の到達した距離で成長に気づけることができる。そんな楽しみ方もヒルクライムの魅力のひとつだ。いきなり峠を目指すのが大変なら、近所にある少しキツい坂から挑戦してみよう。