ただ、15年前に放送された第1弾は当時24歳の上戸彩を主演に据えたこともあって、“新人刑事の成長物語”というニュアンスも押し出されていた。

上戸演じる桜木は「私も犯人逮捕に貢献したいんです」と先輩刑事に直訴し、事件の調べ物などに打ち込むあまり家に帰らないなどの若き熱血刑事。室長の長嶋秀夫(北大路欣也)から「カメ」と言われ新米扱いを受けるほか、犯人に翻弄されながらも、徐々に成長していく姿に共感を誘われる。

一方、第3弾・第4弾の主人公・井沢範人(沢村一樹)は元公安のエリート刑事。ベテランならではの冷静さと、暗い過去による激情が交錯する危うさが物語の魅力となっていた。

さらに第5弾の主人公・二宮奈美(沢口靖子)は元生活安全課で少年犯罪などを担当した地域密着型の刑事。情報犯罪匿名対策室(DICT)のチーム最年長であり、「“情報犯罪”とは縁遠そうな主人公が顔の見えない敵にどう立ち向かっていくのか」が見どころとなる。

これまではシリーズが進むたびに『絶対零度』らしいシリアスなムードは濃くなっていった。笑いや飲食などの息抜きパートを作って視聴者をつなぎ止めようとするドラマが多い中で異彩を放っていたが、今あらためて第1弾を見ると若者のピュアな成長物語としての醍醐味を実感できるだろう。

フジ火9・月9のムードを変えた

第1弾が放送されたドラマ枠はフジ火曜21時台。

90年代は『ナースのお仕事』シリーズを筆頭に明るい世界観の作品が多く、刑事ドラマの『踊る大捜査線』『古畑任三郎』ですら笑いを交えた脚本・演出が目立っていた。

その後も、男子高校生のシンクロ公演を描いた『WATER BOYS』シリーズ、キャビンアテンダントを目指す『アテンションプリーズ』、イケメンを集めた『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』、速水もこみちがロボットを演じた『絶対彼氏~完全無欠の恋人ロボット~』などの明るい作品が続いたが、10年の『絶対零度~未解決事件特命捜査~』以降はムードが一変。

『ジョーカー 許されざる捜査官』『CONTROL~犯罪心理捜査~』『ストロベリーナイト』など重苦しいムードの硬派な刑事ドラマが続き、ヒューマン作の『フリーター、家を買う。』でも社会問題を扱い、お受験ドラマの『名前をなくした女神』も母親たちの足の引っ張り合いを描くなどのシリアスなムードの物語が続いた。これらの作品がおおむね好評だったことも含め、「『絶対零度』シリーズがドラマ枠の流れを変えた」と言っていいのではないか。

その後、15年1月期でフジの火曜21時枠が終了したこともあって、『絶対零度』シリーズは第3弾から月曜21時枠へ移動。それまで同枠は若年層も狙う上で明るい作品が多かったが、『トレース~科捜研の男~』『監察医 朝顔』『シャーロック』『ナイト・ドクター』『PICU 小児集中治療室』などの命をめぐるシリアスなシーンの多い刑事・医療ドラマが続いた。

このような火曜21時枠、月曜21時枠の変化を見る限り、『絶対零度』シリーズはフジにとってドラマ枠のムードを変えるスイッチであり、切り札のような作品なのだろう。

キャストは主演の新米刑事に上戸彩を起用したほか、室長に北大路欣也、先輩刑事に山口紗弥加、丸山智己、杉本哲太、中原丈雄など、のちに刑事ドラマの常連となる俳優が集結。また、ブレイク前にゲスト出演したムロツヨシ、滝藤賢一、若葉竜也らの演技も必見だ。

LOVE PSYCHEDELICOの主題歌「Dry Town ~Theme of Zero~」、オープニングテーマ「Shadow behind」は事件の悲哀を感じさせ、曲を聴くだけで作品の世界観が蘇る。

日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。