• リビングでの一家団らんの様子 (C)フジテレビ

    リビングでの一家団らんの様子 (C)フジテレビ

マユミさんは当初、山本Dの取材依頼に対して家族がいることを理由に辞退し、その後、山本Dの制作した安楽死に向き合う人々を追った別のドキュメンタリーを見て取材に応じたが、やはり家族には取材しないことを希望していた。しかし、マユミさんが取材を受ける決断をしたことを聞いた家族は「お母さんが受けるなら、私たちもいいですよ」と受け入れてくれた。

そんな経緯があるだけに、山本Dは「マユミさんが亡くなったからといってご家族との関係を切ってしまうのは筋違いで、これからもご家族とはお付き合いをしていきたいという思いがありました」と交流を継続。亡くなった1カ月後に行われたお別れの会を取材して放送した後も、定期的にマユミさんのお墓参りに同行するなど、家族に会いに行っている。

今回の配信にあたって1年3カ月前に放送した映像を見直すと、交流を続けて家族一人ひとりの立ち位置やキャラクターがよりクリアになったことで、それぞれが発していた言葉の印象に変化もあった。

「マユミさんがスイスへ発つ空港で2人の娘さんとお別れする時に頭をなでると、長女が“受験の時に(ママが私に)乗り移ってね”と言ったんです。その時、私はただ見つめていただけなのですが、今見返すとお母さんへの思慮深さがその一言に詰まっているのを感じます。その前日に、“明るくお別れしたい”というお母さんの希望を聞いた上で“乗り移ってね”とあえてカジュアルに言っていたんです。かける言葉一つ一つを深く考えていたんだろうなと思って、当時高校3年生ながら本当にすごいと思いますね。

 また、次女がマユミさんに“ままは安楽死したいの?”と問いかけるLINEの文面は、彼女がどれだけ純粋無垢な子であるかを今、目の前で見ていると、とてつもなく勇気を振り絞ってこの言葉を発したのだろうなということが分かり、よりグッときてしまうところがあります。

 夫のマコトさんで言うと、マユミさんが子どもたちへの動画メッセージを撮る時に、僕がマコトさんに“言ってほしいことはないですか?”と聞くと、間髪入れずに“聞いたことはないけど『愛してる』かな”とおっしゃったんです。この家族はマユミさんがグイグイ引っ張っていた関係性であることが分かってくると、普段ならちょっと恥ずかしい“愛してる”というストレートな言葉をあのマコトさんが瞬時に言っていたことから、マユミさんの最期に向けて相当な覚悟を持っているんだなと想像できました」

  • スイスに発つ空港での母と娘たちの最後の別れ (C)フジテレビ

    スイスに発つ空港での母と娘たちの最後の別れ (C)フジテレビ

こうした言葉だけでなく、表情にも改めて感じるものがあったという。

「致死薬の入った点滴につながれるマユミさんを見ているマコトさんの表情が、何とも言葉にしがたいんです。手で口元を抑えながら、胸が苦しすぎて見ていられず目をつぶるのですが、妻の決断した最期に向き合わなければいけないとすぐまた目を開く……それを繰り返しているシーンは葛藤があふれ出ていて、人間がそんな究極の状況に置かれることは、そうそうないと思うんです。そういったウソのない一つ一つの家族の表情や会話を記録として残させてもらったことは、ものすごく意味があると思うので、見ていただく方々にとっても、この映像を通して生きるということや大切な人について考えるきっかけになるのではないかと思います」