自身は幼少期から周囲の大人に教師が多く、「国語の先生になるしかイメージがなかったんです」と、図らずも愛実と同じ教科の教員免許を取ろうと、日本大学芸術学部文芸学科に入学。ここで学ぶのは小説の創作が中心だが、「そんなに興味がなくて、頑張れないなと思ったんです」と振り返る。
しかし、「有名な女優さんがいたり、バンドをやって将来食べていきたいという友達がいたりして、“そんなこと本当にやっていいんだ!”と思ったんです」と、表現者を目指す若者が集まるキャンパスにいるだけで大きな刺激に。
落語研究会に入部すると、「自分を表現できている感じがして楽しくて。でも、落語家は一人だから、サボっちゃってできないだろうし、下積みも嫌だし、売れそうにないなと思ったので、やるなら俳優だなと思いました(笑)」と、今の道に進む大きなきっかけになった。
落語の経験は、「先輩から稽古をつけられる時に“もっとだ!”ってテンションを上げるように言われていたので、芝居をするにあたってテンションの振り幅がすぐ表現できるようになったと思います」と、役者業に大きく生きているのだそう。
一方で、役に入らない普段のしゃべりでは、ロートーンボイスとスローテンポな語り口が独特なあまり、『愛の、がっこう。』の制作発表会見では、ラウールを「今年一番笑いました(笑)」と言わしめる場面もあった。
今回のインタビューでも、撮影現場での印象的なエピソードを聞くと、「そうですね。何だろうなあ…。うーん、何が起きたかなあ…」と、1分以上にわたってたっぷり悩み続けた結果、「ネタになるような面白い話は、ないです(笑)」と脱力させてくれた。落語を披露する時は「そそっかしい江戸っ子を演じるので、早くしゃべってました」というが、笑いを取るテンポや間の取り方は、体に染みついているようだ。
リベンジの思いで臨んだ朝ドラ『あんぱん』
朝ドラ『あんぱん』では、ヒロイン・のぶ(今田美桜)の夫・次郎を演じて話題に。反響は大きく、「やっぱり有名になりたいと思って俳優を始めたところもあるので、知ってもらう機会になってうれしいですね」と喜びを語る。
朝ドラでは、かつて『花子とアン』(2014年)にも出演。「あの時は評判が悪くて、トラウマになったんです」と反省があったことから、リベンジの思いを持って臨んだ。実際に作品に入ると、「展開が速いし、途中から出てきてヒロインと結婚するという役なので、“真心芝居”をやらないと全く通用しないと思っていました。今回もやってみて難しいなと思いましたが、何が難しいかが分かったので、そこは一つ課題をクリアできたかなと思います」と、成長を感じているようだ。
誠実さを絵に描いたような次郎という“前振り”が効いた『愛の、がっこう。』の川原の今後の見どころについては、「彼の真心というものがどのように見えてくるのか、というところですね」と予告。「川原のことが嫌いになれば、愛実さんに“カヲルのほうに行きなさい”と勧めるお客さんのモチベーションになると思うので、全然好かれる役にならなくていいんです(笑)」と意識を語る。
落研時代の高座名は「大家主水(ダイヤモンド)」。「才能を予感させる原石のような男」という理由で先輩から命名された通り、デビューから10年経って『不適切にもほどがある!』、『あんぱん』、そして『愛の、がっこう。』と、役者として一気に磨きがかかってきた印象だ。
だが、本人は「最近、自分の表現に飽きてきちゃってるんです。いろんな役をやらせていただいていると思うんですけど、もっと振り幅のあるいろんな表現ができるようになりたいと思うので、まだまだです」と、謙虚な姿勢を見せていた。
●中島歩
1988年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部在学中からモデル活動を始め、2013年に舞台『黒蜥蜴』で俳優デビュー。その後、ドラマ『花子とアン』『青天を衝け』『不適切にもほどがある!』『海のはじまり』『ガンニバル シーズン2』『あんぱん』『愛の、がっこう。』、映画『グッド・ストライプス』『サタデー・フィクション』『偶然と想像』などに出演。22年、『いとみち』『偶然と想像』で第35回高崎映画祭最優秀助演俳優賞を受賞した。今後、ドラマ『30 塀の中の美容室』『豊臣兄弟!』が控えている。


