しかし、アナウンサーとしてキャリアを重ねてきた中で、2021年にアナウンス部を離れ、編成業務局長に任命された時は、「番組を降りることになって、今までやってきたこの30年が何だったんだろうと、自分の存在意義が分からなくなってしまい、3カ月ほど会社に行けなくなってしまったんです」と、大きなショックを受けたという。

「編成のことなんて全く知らないのに、局長なんて言ってデスクに座っていられるのだろうか…」と不安を抱えていたが、局員のメンバーが「榎木田局長を本物の局長にします!」と仕事を教えて支えてくれたことで、自身の中で変化が。

さらに、「生まれてからの3カ月が一番大変だからね」という自身アドバイスを受け、産後すぐの育休取得をした男性社員が「榎木田さんの一言があったから、第2子、第3子を考えたんです」と話してくれたことで、「アナウンサーとしての自分軸だけではなく、誰かの役に立つことに喜びややりがいがあるという軸に気づけたんです。そこから、画面に出るだけではなく、伝える方法はたくさんあるんだと思って気持ちが整理できて、UMKをしっかり発信することに人生を懸けようと思いました。だからUMK愛が異常に強いんです(笑)」といい、そのマインドで経営者の道を進むことになった。

  • プロデューサー兼MCを長年務めた「UMK高校生フォーラム」にて

女性社員、地元経済界、市民から喜びと期待の声

マイナビニュースの取材では、女性アナウンサー出身の民放テレビ局社長は、「これまでの事例で聞いたことはない」(民放関係者)、「同様の事例は把握しておりません」(民放労連)とのことで、史上初とみられる。

本人としては、「女性アナウンサーが経営者になることは稀有なことであるというようなバリアは、あまり感じていないです。なので、女性アナウンサーからの社長が初めての事例という話は、世の中に発表されてから後付けの感覚でした」というが、「アナウンサーは、トータルでバランスを取る仕事だと思っているので、アナウンサーの仕事が改めてきちんと評価されて、全国のアナウンサーの皆さんがご自身のキャリアパスを想像できるようになるとしたら、うれしいことだと思いました」と受け止めている。

新体制では社内・社外合わせて18人の取締役のうち、女性は榎木田社長のみ。「局長、取締役になってもずっと女性1人でしたが、振り返ると結婚しても会社を辞めない女性第1号でしたし、かつては産休・育休制度がなかったので、総務の方と一緒に作って利用したんです」と、自ら道を切り開く“ファーストペンギン”の役割を担い続けてきた。

女性社長の誕生に、女性の社員やスタッフからは「うれしいです」「誇りです」と声をかけられたのだそう。地域の経済界にとっても大きなニュースだったようで、「想像をはるかに超える皆さんから“おめでとう”とおっしゃっていただいて、重鎮の皆様からも“新しい時代を感じる”、“応援するよ”という声を頂きました」と明かす。

また、「スーパーやコンビニ、マンションのエレベーターで、これまでも“いつも見てます”と言ってくださることは多かったのですが、最近は特に女性の皆さんが“すごくうれしいです!”、“育休中でへこたれていましたが、これからまた頑張ろうと思いました”と、親戚みたいにすごく喜んでくださるんです」と県民から直接の反響も。社長就任を伝えたフジテレビ系列のニュースサイトでは、UMK発の記事の中で今年1番の視聴回数を記録したといい、長年にわたり局の顔として愛されているのが伝わってくるエピソードだ。