18歳の時以来のドラマ撮影の現場。しかも日本を代表するエンターテインメント作品である大河ドラマの撮影。水樹は「何もかもが分からない状態からのスタートでした。収録当日はものすごく緊張していましたが、旦那さんである元木網役のジェームス小野田さんが気さくに話しかけてくださり、リラックスして挑むことができました。(大田南畝役の)桐谷健太さんとのシーンも多く、私のリアクションに『それ、おもろい!』と言ってくださるなど、現場のムードメーカーで本当に助けられています」と周囲に感謝。
時代劇のさまざまな慣習も一つ一つ刺激的だった。「マイクのオンオフを自分で操作することや、小道具の管理を役者自身が行うこと。そして、日本髪のカツラを初めて装着したのですが、想像以上に重くて……。着物を着て長時間正座しているのも過酷さを実感しました」と大変だったことを明かすが「セットの作り込みの素晴らしさには本当に感動しました。まるで江戸時代にタイムスリップしたかのよう。最初に撮影したのが宴会のシーンだったので、多くの共演者の方々にご挨拶できたのもうれしかったです」と喜びを語る。
普段は声優として数々の作品で作品を引っ張る役を演じる水樹。その表現力の高さは、多くのクリエイターたちから称賛を受けている。そんな水樹でも、自らの肉体すべてを使った芝居には戸惑いも多かった。
「久しぶりに生身の体を使ってお芝居をしてみて、声だけで表現するのとは全く違う難しさを感じています。まず、動きと声の連動。そして全ての動作に意味が生まれてしまうこと。目の動き口元の変化、まばたきだけでも、それが“表現”になってしまうので、本当に頭のてっぺんから足の先まで、一瞬たりとも気を抜けません」。
しかし、こうした経験は、間違いなく声優としての水樹にもプラスになっている。「キャラクターがまとっている“空気感”のようなものを、より声に乗せられるようになるのではないかと感じました。佇んでいるだけで存在感が伝わるように、声のみの表現でも、そのキャラクターならではのオーラや空気感を、よりナチュラルに表現できるようになれたら。新しい引き出しが増えたような気がしています」。
蔦重の精神とリンク「常に新しい面白いことができないか探している」
『べらぼう』という作品全体の印象について水樹は「江戸時代の華やかなカルチャーを描いた作品ですが、それが人間ドラマや政治的な要素を交えながら描かれている点が魅力的です」と語り、「蔦重さん(横浜流星)がヒット作をどんどん生み出していくきっかけの一つとなるのが狂歌。私が演じる智恵内子や、彼女が嗜む狂歌が登場する場面は、物語が新しい展開へとぐっと動き出すキーとなるシーン。そして、見ていてホッとできる、思わず笑顔になれるような場面がたくさんあるんです。緊迫感のある展開の合間に、皆さんにクスッと笑っていただける時間をお届けできたら」とアピール。
さらに水樹は「この作品に描かれる江戸のポップカルチャーと現代のポップカルチャーには、たくさんの共通点があると感じています」と述べ、「蔦重さんはアンテナが広く、『これ流行る、これ面白い』というものに一早く目をつけていく。現代においても、見たことのないものや、想像の上を行くものに感動を覚えたり“こう来たか!”と手に取ってしまうことがあると思うので、物作りをしている方々は物語により親近感が湧くと思います」と作品を読み解いていた。
また水樹は「私はいつもライブの演出を自分で考えているので、常に新しい面白いことができないか探しています。その考え方は蔦重の精神に似ているところがあるのかなと思いました」と自身の考え方と作品がリンクすることが多いと明かしていた。
1980年1月21日生まれ、愛媛県出身。1997年にゲーム『NOeL ~La neige~』で声優デビュー。『NARUTO-ナルト-』の日向ヒナタ役、『ONE PIECE』の小紫役をはじめ、アニメ、吹き替えなど多数の作品の声を担当。2000年にはシングル「想い」で歌手デビューし、ライブ活動も精力的に行っている。2009年から2014年まで『NHK紅白歌合戦』に6年連続で出場した。
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