滝澤さんから見て「真摯に向き合っていた」という富田だが、本人は今回の役にどのような意識で臨んだのか。

「監督とずっと話していたのは、沙紀の中で吃音は大きなコンプレックスになってると思うし、挑戦に一歩進めないネックになっているのは確かなんだけど、かわいそうには見えたくないということでした。もちろん、脚本上では苦しんでいる姿もたくさんあるけれど、“夢を追う一人の人間”というのを一番の軸において、沙紀の一つの個性として吃音というものがあるという感覚です。

 沙紀にとって、吃音の症状が出る中で俳優を目指すということよりも、吃音によってまた挫折しそうになるところで向き合うということが、彼女にとって新たな挑戦だと思うんです。誰しも挫折しそうになる経験はあると思うので、その感覚を一番大切にしています」(富田)

この意識は、一般企業で活躍する滝澤さんの姿を見て感化される部分もあったという。

「(吃音監修の)富里先生からは“彼女のマインドでがんばってください”と言われていたんです。症状が出る時に滝澤さんがどういう気持ちになったのか、人とどういうふうに接しているのかというパーソナルな部分までたくさん話してくださったので、それは自分が沙紀と向き合う上ですごく大きなことでした」(富田)

オーディションシーンに重ねた自身の就活経験

一方の滝澤さんは、沙紀という役に自身を重ね、就職活動が人生における大きな“挑戦”だったと振り返る。

「知らない人に初対面でアピールしなければいけないし、どもっているだけでは許されない場面というのは、それまでの人生でなかなか経験のない機会でした。でも、吃音を持って生きてきたからこその打たれ強さも評価して採用していただいて今に至るので、富田さんが先ほどおっしゃった“個性”と捉えるという点で、共感する部分があります」(滝澤さん)

沙紀がオーディションに挑む姿は、まさに就活における面接にリンクするシーン。富田はこの撮影を、「やっぱり人の目があるのは焦ってしまうので、その焦りがどんどん喉元、舌の奥に直結していくような感じがありました」と、自然に言葉が出なくなる感覚で演じていたそうだ。