アンパンマンを生み出した漫画家・やなせたかしさんと妻・暢さんをモデルにした連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)の脚本を手掛ける中園ミホ氏にインタビュー。10歳の頃からやなせさんと文通を続けていたという“深い縁”を聞くとともに、作品に込めた思いや制作の裏側を語ってもらった。
112作目の朝ドラとなる『あんぱん』は、やなせさんと暢さん夫婦をモデルに、何者でもなかった2人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描く愛と勇気の物語。小松暢さんがモデルのヒロイン・朝田のぶを今田美桜、やなせたかしさんがモデルの柳井嵩を北村匠海が演じている。
中園氏は少女時代にやなせさんと文通しており、実際に会う機会もあったという。当時はまだ『アンパンマン』でブレイクする前で、「いろいろ報われてないけど優しいおじさんという印象でした」と振り返る。
「私は小学4年生、10歳の時に父を亡くしたのですが、母が買ってくれたやなせさんの『愛する歌』という詩集を読んですごく救われたんです。それでファンレターを送って、そこから文通が始まって。当時はまだ代表作がないということを気にされていて、お手紙も愚痴っぽいんです。『またお金にならない仕事を引き受けてしまいました』とか、失礼な話ですが私のイメージはへなちょこ(笑)。小学生の私にそう思われるぐらいとても正直な方でした。音楽会にも何回か呼んでくださって、お会いするといつも『お腹空いていませんか?』『元気ですか?』と優しく声をかけてくださったのはとても印象に残っています」
また、実は文通を始める前にやなせさんに一度会っていたことも明かした。
「文通していたお手紙を読み返していたら、やなせさんに描いていただいた似顔絵の色紙が出てきたんです。まだ先生と文通を始める前、母に連れられてデパートの催事で似顔絵を描いてもらったことがあるのですが、漫画家さんが何人かいらして、行列に並んで『次の方』と呼ばれて行ったら、それがたまたまやなせさんだったようで。色紙の日付と直筆サインを見て驚きました。全然覚えてなかったけど、ここからご縁があったのだなと」
そして、やなせさんとの関係について「不思議な縁とかでは説明つかない、とても深いつながりがあったんだなと思います」としみじみ。
「私は子供の頃、毎日詩を書いていたのですが、それもたぶんやなせさんの影響だと思います。ものを書くことが好きになって、そこから脚本家になったと思うので、本当に私を作ってくださった方だと改めて今思っています」
やなせさんとの文通を楽しんでいたものの、思春期になって自分から終わらせてしまったという。その後、19歳のときに偶然やなせさんと道でばったり再会し、誘われてそのままやなせさんの本の出版パーティーへ。そのとき病気の母親が家で寝ていることを伝えたら会場から母親に電話してくれたそうで、中園氏は「私は二度やなせさんに救われているんです」と感謝しつつ、「またお手紙を書けばいいのにしてなくて…。『やなせさんのおかげで詩を書き続け、脚本を書くようになって、脚本家になりました』って書けばいいのに、仕事とシングルでの子育てに精一杯で書いてないんです」と後悔を口にした。
続けて、近年やなせさんのことをよく考えるようになっていたと明かす。
「今、世の中が危ないじゃないですか。やなせさんが生きていらしたら、この世の中を見てなんておっしゃるだろうと。この数年で、やなせさんのことをすごく考えるようになっていたんです。朝ドラの依頼をいただき、やなせ夫妻を書くことになりました」
中園氏が朝ドラの脚本を手掛けるのは、『花子とアン』(2014)以来2度目。「もうやり切った。(朝ドラの脚本は)一生書かない」と思っていたが、やなせ夫妻を描けるということで執筆を決意した。