大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で平賀源内役を演じ切った安田顕にインタビュー。本作の平賀源内をどのように作り上げたのか、そして20日放送の第16回で抱いた思い、クランクアップの瞬間の気持ちなど話を聞いた。

  • 大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』平賀源内役の安田顕

江戸時代中期の吉原を舞台に、東洲斎写楽、喜多川歌麿らを世に送り出し、江戸のメディア王にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く本作。脚本は、『おんな城主 直虎』(17)以来、8年ぶり2度目の大河ドラマとなる森下佳子氏が手掛ける。

安田が演じた平賀源内は、本草家、戯作者、鉱山開発者、発明家とさまざまな顔を持ち、先進的なアイデアを思い浮かべて日本各地を巡り、成功と失敗を繰り返した人物。第16回「さらば源内、見立は蓬莱(ほうらい)」では、奇妙な言動を繰り返すようになっていた源内が、誰かにハメられて殺人の罪で捕らえられ、その後、獄死した。

安田は、本作での平賀源内にとてもやりがいを感じながら演じたと振り返る。

「『べらぼう』で描かれている平賀源内さんは人間味があって、炭鉱に行ったり、山師になったり、戯作を書いたり、主人公の蔦重や渡辺謙さん演じられる田沼意次と関わり、お城と下町の橋渡しというか、いろんな場所に行けたというのがすごく楽しかったです」

ひらめきに従っていろんなことに挑戦した源内。安田は「一つ一つが惜しい」と語る。

「今も平賀源内さんが大好きな人たちがいっぱいいて、いろんな方たちが演じられるというのは、惜しかったからこそだと思うんです。落ち着きないし早口だし、癖も変わっているけれど、一つ一つに才が長けているというか、いろんなところを歩いて人間観察にも優れていると思いますし、ユーモアの精神もあっただろうし、飽きっぽい人だからこそいろんな発想が生まれて。0から1を生み出した人ではなく、1からのアレンジがすごい人だったと思います」

早口でまくし立てるような話し方は、チーフ演出・大原拓氏のアイデアだという。

「『とにかく早くしゃべってください』と。べらべらしゃべるのは江戸っぽいし、早口というのが源内さんらしいなと思いました。田沼さんに自分の夢を語ったり、炭鉱のシーンで丁々発止のケンカをしたり、佐々木健介さん演じる腕っぷしの強い人が来たらころっと変わるとか、人間味あふれるシーンのために長セリフがあったという気がしていて、演じさせていただいてすごくありがたかったです。やはり森下さんはすごい方だなと」

安田の早口ぶりに大原氏が喜んでいたというエピソードも話してくれた。

「意次と開国について語り合うシーンを撮り終わったときに、演出の大原さんがにやにや笑っているんです。『安田さん速いもんな。僕とスタッフの見立てだと5分かかると思っていたのに3分半でした。ありがたい』って。うれしくて笑っちゃいました」

舌を上唇につけるという源内の癖は、何か癖があったほうがいいのではないかと安田から相談して生まれたのだという。

「人間は夢中になっているときに癖が出る。源内さんは奇天烈な感じがあるので、『癖をつけられないですかね?』とご相談したことがありました。その後、決定稿に『源内、舌を上唇に押し当てて』とト書きが書いてあって。スタッフの皆さんみんなで『べらぼう』を作り上げているというのを感じましたし、すごく幸せなことでした」

「間違いなくあの瞬間、湯気が源内の心に染みたと思います」

源内の発想に田沼意次(渡辺謙)も惚れ込み、蔦重(横浜流星)にも大きな影響を与えたが、自身が作ったエレキテルが効果がないと言われ、世間から「インチキ」呼ばわり。人間不信に陥り、次第に妙な言動を繰り返すようになっていたところ、誰かにハメられて殺人の罪を着せられ獄死するという、無念の最期となった。

意次との面会のシーンでは、意次の優しさに目から涙があふれ、声に出して号泣。安田は「あそこで何かしらの救いが源内自身はあったのではないかなと思わないとやってられないなと。そういう風に視聴者の皆さんも捉えてくれるのではないかなと思います」と語る。

その後、湯気の立つ白湯が置かれたことに気づいて近寄ろうとするシーンがあったが、安田はこのシーンが特に印象に残っているという。

「パラパラと降る雪を見ながら辞世の句を詠み、孤独で寒いという中で……田沼とは和解して心は1回落ち着いていると思いますが、そういった状態のときに湯気の立つ白湯があった。それを見て源内さんは救われたんだろうなと思います。ただ、それに何が入っていたかというのが、森下さんすごいところだなと。いろんな想像がありますが、間違いなくあの瞬間、湯気が源内の心に染みたと思います。やるせなくはありますが、彼の人生最後と考えたときに救いの一つだったと。この『べらぼう』には、裏表や光と影が通底してあるような気がします」