そしてもう1つ目立っていたのが、同じ警察組織の一員ながらヒールを担ったライバル班長たち。

なかでも「ガンテツ」こと勝俣健作(武田鉄矢)と日下守(遠藤憲一)はどこまでも憎たらしく、まさに姫川の天敵だった。その他、高嶋政宏、渡辺いっけい、生瀬勝久、田中要次、津川雅彦ら警察関係者は曲者ぞろい。姫川玲子と竹内結子という“紅一点”をベテラン俳優が固めることで一筋縄ではいかない世界観を作っていた。

当作を刑事ドラマというジャンルから見たとき、際立っていたのが、その“紅一点”という描き方。

警察内部は極端な男社会でハラスメントが当然のように行われ、事件現場では肉体的な不利で危機に見舞われる。しかし、姫川は女性ならではの思考や感覚を生かして事件解決の糸口を見つけ、男性が率いる班にはない結束力を見せていく。毎クール多くの刑事ドラマが量産される中、これほど女性という性別を実感させられる作品はないように見える。

そして各エピソードに目を移すと、他の刑事ドラマ以上の濃密な物語であるところが当作の強みだろう。刑事ドラマの大半が「わかりやすさ」「見やすさ」を重視した1話完結で、週替わりのエピソードが放送されている。しかし当作は全11話でエピソードは6つのみ。1話完結はその6つ中2つだけで、残りの4つは2~3話でじっくり描くことで重層的な物語を作り上げた。

これは当作が「わかりやすさや見やすさより、ミステリー&サスペンスの深さ、事件当事者の葛藤や選択、姫川ら刑事の心理と人間関係を掘り下げるために長さを優先させた」ということだろう。

そしてもう一つ、各エピソードに出演するゲスト俳優の実力がなければ、2~3話完結を成立させることは難しい。その点、当作は滝藤賢一、小木茂光、杉本哲太、木村多江、石黒賢、濱田岳、蓮佛美沙子、池田鉄洋、野添義弘らを起用して濃密な物語を支えていた。

凄惨なシーンを21時台で描く技術

一方、映像に目を向けると、やはり佐藤祐市監督の演出が視聴者を引きつけていたのは確かだ。

第1話で電車に轢(ひ)かれた“アジの開き”を思わせる死体が登場するように、原作小説は凄惨な暴力シーンや死体の描写が多い。そのため放送前は「これを映像化できるのか」「地上波は難しいかもしれない」などと危惧されていたが、これを演出が巧みに和らげていた。

凄惨なシーンはモノクロで血の色を抑えたり、死体の写真を遠めのアングルから短い時間で映したり、再現映像に静止画やコマ送りを使ったりなどの工夫で、「まだ家族視聴の多い21時台で凄惨な事件を扱う」ことの難しさを解消。しかもダークサイドに偏り過ぎないようにモノトーンの「黒」ばかりではなく、姫川のイメージカラーである「赤」で月、バッグ、信号機などを強調するカットなどもあった。

美しさと醜さ、静と動のメリハリが利いた映像は佐藤監督の真骨頂であり、各話タイトルの表示など細部まで徹底的にこだわる演出も名作と言われるゆえんだろう。

その佐藤監督は翌2013年に『家族ゲーム』、15年に『無痛~診える眼~』、18年に『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』など骨太でシビアな物語を映像化してきた。ひさびさに刑事ドラマを手がける今冬の『アイシー』も、クライマックスでどんな演出を見せてくれるのか興味深い。

日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。