富山地方鉄道の鉄道事業は2023年度で5年連続赤字となり、コロナ禍からの回復が遅れている。そこで自治体に対し、2025年度に5億円の追加支援を求めていた。富山県と沿線自治体はひとまず2億円の追加支援にとどまり、自治体から経営努力を問う声も出ている。観光需要回復に加えて伸び代もあるから、なんとか乗りきってほしい。

  • 富山地方鉄道の鉄道事業は、コロナ禍で観光依存度の高い路線が赤字に

報道によると、2025年2月5日、富山市役所で「富山地方鉄道鉄道線の在り方検討会」が行われ、沿線自治体の富山市長、魚津市長、滑川市長、黒部市長、舟橋村長、上市町長、立山町長と富山県知事が出席したという。

富山地方鉄道は、会社全体としては黒字となっているものの、鉄道事業は2019年度から実質的な赤字だという。「実質的な赤字」とは、帳簿に補助金などを加えた後の赤字額であり、補助金などを数えない収支はずっと赤字となっている。ただし、2019年度までの赤字額は1億~2億円前後とされ、沿線自治体の補助金などで補える範囲といえる。

しかし、2020年度の赤字額は7億円を超えた。2021年度と2022年度の赤字額は5億円を超え、2023年度の赤字額は9億円を超えており、10億円に近づいている。この赤字額から補助金など加味した「実質的な赤字額」が7億円というわけだ。

富山地方鉄道は7億円のうち、2億円を運賃値上げなどで収支の改善に努め、残り5億円の支援を求めていた。「富山地方鉄道鉄道線の在り方検討会」では、このうち2億円を物価高騰対策として支援すると決めた。富山県が1億円、沿線の7自治体が1億円を分担する。

残りの3億円については、報道が分かれている。日本経済新聞は「今後議論する」とし、北日本放送は「運行委託の3億円について沿線市町村は既に負担しないことを決めた」と報じた。一方、NHKは「安全性・快適性向上に向けた支援として3億円」の支援が決定していると報じている。「運行委託」ではなく「安全性・快適性向上」という名目であれば認めるという決着だろうか。

いずれにしても、2月12日に行われた富山県知事の会見で「合計5億円の支援」と言及しているため、支援総額は5億円。残り2億円は富山地鉄側の運賃改定や減便などの営業努力で解決することになった。富山地方鉄道は2025年4月から運賃を値上げする方針としている。

国の鉄道事業再構築事業の活用も今後検討

「富山地方鉄道鉄道線の在り方検討会」は、2024年9月24日に第1回が開催された。基本方針は路線の存続であり、沿線自治体による応分の負担について確認済み。ただし、現在の状態で良いかという議論は必須で、国の鉄道事業再構築事業の活用も今後検討する。再構築計画が認定されると、事業費の一部が国から助成されるからだ。

再構築計画を実施するとなれば、「上下分離」「第三セクター化」「バス転換」「BRT化」などが視野に入る。沿線自治体が鉄道存続を望んでいることから、「上下分離」「第三セクター化」が検討されるだろう。富山地方鉄道全体としては黒字で、鉄道・バス部門の赤字を軌道(路面電車)事業、レジャー事業、不動産事業、固定資産の売却益が支える構図になっている。赤字事業の鉄道とバスを分社化し、自治体や国の支援の使途を明確にするという形も考えられる。

2025年2月7日の県議会特別委員会では、「(沿線自治体に任せず)県がリーダーシップを取るべき」「富山地方鉄道の営業努力が足りないのではないか」との意見があったという。過去の県議会議事録に、「富山地方鉄道は高架下などの遊休地を活用できていない」と具体的な指摘もあった。

  • 富山地方鉄道と周辺の鉄道路線

富山地方鉄道は通勤需要の高い不二越・上滝線、観光需要の高い本線と立山線があり、沿線自治体の要望も異なる。「富山地方鉄道鉄道線の在り方検討会」は今後、分科会を設けて鉄道の改善や利用向上について検討していくという。

地方のローカル線が赤字で、協議会を設けるといえば鉄道廃止問題につながるが、筆者はそこまで心配していない。なぜなら、鉄道事業の収益が上向きだからだ。旅客営業収入と運輸雑収の合計は2018年度に約16.8億円、2019年度に約16.7億円を計上していた。2020年度と2021年度は約11億円に激減したが、2022年度は約12.8億円、2023年度は約14.2億円で上昇傾向といえる。

これは明らかにコロナ禍の影響を受けている。立山線は立山黒部アルペンルートの入口であり、本線は黒部峡谷鉄道に接続している。どちらも観光需要が高く、稼働期間は春から秋までと短いため、観光客激減の影響が大きかった。さらに諸物価高騰が大きいことも、回復の速度が遅い理由になっている。2024年度は能登半島地震(2024年1月1日発生)の影響で黒部峡谷鉄道が全線開通できなかったため、富山地方鉄道も本線の運賃収入に影響があったと考えられる。

訪日外国人の観光需要が旺盛ないま、黒部峡谷鉄道が全通すれば、富山地方鉄道も本線の需要回復が見えてくる。そうなれば沿線のホテル・飲食店等の誘客につながり、沿線自治体にとっても利点が大きい。一部報道で路線の存続を危ぶむ論調もあったが、いまは鉄道存続のほうが沿線自治体や富山県にとって利点が大きい。短絡的な存廃論は慎みたい。

「鉄軌道王国とやま」の威信をかけて鉄道を守ろう

富山県は「鉄軌道王国とやま」と題して、鉄道を観光資源としてきた。県内を北陸新幹線が横断し、JRの在来線がある。北陸新幹線の並行在来線は第三セクター鉄道「あいの風とやま鉄道」になった。富山地方鉄道の鉄道事業は大手私鉄並みの営業距離を持つ。同社の軌道線(市内線)は全国有数の収支率を誇る。その市内線に併合された富山ライトレールは日本初のLRT路線として開業した。

万葉線は日本初の第三セクター方式による軌道線となった。観光路線としてナローゲージの黒部峡谷鉄道があるし、立山黒部アルペンルートにはケーブルカーがある。昨年まで、鉄道事業法の下でトロリーバスも運行していた。富山県の鉄軌道は多種多様で興味深い。営業路線ではないが、立山砂防トロッコ列車も抽選倍率が高く、人気がある。

なにより、富山県はすべての市町村に駅があり、鉄軌道のアクセスに恵まれた県である。そんな富山県が2014年9月、さいたま市の鉄道博物館で「鉄軌道王国とやま展」を開催した。これを契機として富山県の鉄道の魅力が伝わり、2017年にポータルサイト「鉄軌道王国とやま」も開設された。

  • 「鉄軌道王国とやま」の全貌

「鉄軌道王国とやま」の最近の大きな動きとして、あいの風とやま鉄道がJR氷見線・城端線の運営を引き継ぐ。総費用約342億円のうち150億円をJR西日本が拠出する。残りの192億円は県と沿線4市が負担するが、国の補助を受けられる。まさに「王国らしい仕草」といえるだろう。

富山県がJR氷見線・城端線の再構築事業に拠出する金額に比べれば、富山地方鉄道の支援金5億円は小さく見える。これを渋るようでは「王国」の名が廃るというもの。「鉄軌道王国とやま」の威信にかけて、富山地方鉄道の鉄道線は守らなければならない。

富山地方鉄道にとって明るい話もある。黒部峡谷鉄道の欅平駅から黒部ダムに通じる「黒部宇奈月キャニオンルート」の開業だ。黒部川第四発電所を建設するため、ダム関係者の工事用ルートとして整備されたルートで、欅平駅から立坑エレベータ、蓄電池機関車による上部専用軌道、インクライン、黒部トンネル内バスを利用して黒部ダムに至る。このルートを旅客用に再整備する。

黒部宇奈月キャニオンルートは、すでに旅客用に向けた安全設備を整えており、開業準備も進んでいた。しかし能登半島地震の影響で黒部峡谷鉄道が一部区間不通となったため、たどり着く手段がない。残念ながら2025年シーズンは運行できない見込みとなった。

黒部峡谷鉄道が全線復旧し、黒部宇奈月キャニオンルートが開通すれば、黒部ダムを拠点とした回遊ルートが完成する。いままで立山黒部アルペンルートをたどって長野県の信濃大町駅へ向かっていた人々が、黒部宇奈月キャニオンルートと富山地方鉄道を利用して富山駅に戻ってくる。これは富山地方鉄道だけでなく、富山県にとっても利点が多い。

そう考えると、富山地方鉄道にとって不要な鉄道路線はない。コロナ禍前からの旅客回復と、黒部宇奈月キャニオンルートによる旅客増という好材料がある。富山県はすべての鉄道路線を維持すべき。いまは多額の支援を要するとしても、いずれ大きな経済効果として取り返せるだろう。

心配事のひとつとして、ポータルサイト「鉄軌道王国とやま」は「2025年7月31日をもって閉鎖」とアナウンスされている。もともと更新頻度が少なかったとはいえ、富山県の鉄道を網羅しており、趣味の入口という役目があった。それを閉鎖すると、「国力」が低下しているように見えてしまう。継続するか、黒部宇奈月キャニオンルートを網羅した新たなポータルサイトを望みたい。

「鉄軌道王国とやま」の威信をかけて、いまが踏ん張り時である。