アウトドアウェアは登山だけでなく、街中でも活躍するアイテムです。
昨年、山岳ブランド「ミレー(MILLET)」の内覧会に初めて参加した筆者。ヨーロッパ発らしい硬派なブランドという印象でしたが、実は日常生活でも使えるギアまで網羅していることを知ったのです。
そんなミレーがブランドの代表モデル、高機能防水ウェア「ティフォン」をアップデートしました。山ブランドの本気度を見るため、進化したティフォンの発表会に参加しました。
ミレーの代表モデルティフォンがアップデート
1921年にフランスで誕生したミレー。モンブランで有名なシャモニーまで車で約40分という距離に本社があり、そのプロダクトは過酷な山中でフィールドテストされて品質を磨いているそうです。
そんなガチ山ブランドのミレーが、2016年に発売した高透湿防水ウェア「TYPHON(以下、ティフォン)」を、究極のドライをコンセプトにアップデートしたんです。果たして実力は?
ミレー・マウンテン・グループ・ジャパンでブランドディレクターを務める星裕介さんは、新しいティフォンについて、「ティフォンは市場に登場して以来、『究極のドライ』を追求し続けてきました。それは春や夏の山岳事故の原因となる『登山中に汗が肌に残ることで起こる低体温症を解決する』ためです」と話します。
その結果、新モデルは「高透湿性」「着心地の良さ」「優れた伸縮性」の3つの性能を絶妙なバランスで成立させているのだと言います。防湿性と防水性はトレードオフの関係にあり、実現は難しく、理想の組み合わせを模索して何万通りもの試行錯誤を経て素材の開発がされたみたいです。
星さんによれば、日本におけるミレーのビジネスは2桁成長を遂げているとのことです。その理由として、日本の環境に最適化した製品開発とブランドおよび製品の独自性の2点を挙げてくれました。
まず、日本で展開されるミレー製品の約7~8割は日本のチームが日本独自の設計により開発。ヨーロッパの山岳環境とは異なり、日本は湿度が高く、なだらかな山が多いため、それに適した機能が求められるからだと言います。
また、ミレーは独自の素材と技術を強みとするブランドとして確立していて、今回のティフォンシリーズや、「アミアミ」の愛称で親しまれるドライナミックメッシュ、通気性と保温性を兼ね備えたスルーウォームなど、日本の山岳環境に適した素材を開発し続けています。
こうした技術革新も、日本市場での成長を支えているのだと説明します。
3つのティフォンが登場
今回、実は3つのティフォンがリリースされています。
まずは、汎用性の高い「TYPHON ST JKT(ティフォン ストレッチ ジャケット)」(3万6,300円)、そして更に高スペックの性能を持った「TYPHON PHANTOM TREK JK(ティフォン ファントム トレック ジャケット)」(4万2,900円)、TYPHON PHANTOM FAST JK(ティフォン ファントム ファスト ジャケット)」(4万2,900円)が用意されたのです。
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「TYPHON PHANTOM TREK JK(ティフォン ファントム トレック ジャケット)」(4万2,900円)※ユニセックスでブルーとグレーの2色展開 提供:ミレー・マウンテン・グループ・ジャパン
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「TYPHON PHANTOM FAST JK(ティフォン ファントム ファスト ジャケット)」(4万2,900円)※ユニセックスでブルーとグレーの2色展開 提供:ミレー・マウンテン・グループ・ジャパン
最初に言っておきますが、ストレッチタイプも「耐水圧30,000mm、透湿性50,000g/㎡」という強烈な性能を持っていますよ。
そこに耐水圧50,000mm、透湿性60,000g/㎡という。名前の通り「オバケ(PHANTOM)」クラスのレインウェアを同時に出したのです。
ドラゴンボールで悟空が界王拳3倍を出して「スゲー」となったら、間髪入れず4倍を出してきたような衝撃。
用途でいうと、街中での着用など汎用性の高いのがストレッチジャケット、より山着用に薄さと軽さを求めるならファントムジャケットと分かれる形です。
またファントムジャケットのトレックとファストの違いですが、後者はトレランやファストハイクに向けて作られ、シルエットもよりタイトで収納は胸ポケットのみなど、軽さを極限まで追求。Mサイズで132グラムとなっています。
逆にトレックはポケットが2つなどある分、重さは163グラムと少し増えます。
それでも尋常ではない軽いですけどね!
大事なことなのでもう一度言いますが、ガチの防水素材に驚異的な軽さ、そしてすさまじい柔らかさと伸縮性を備えているのがティフォンなのです。
日本の工場がすごかった
ここでシニアブランドマネージャーを務める櫻井久男さんに、ティフォンのテクノロジー面について質問しました。
ティフォンに採用されているナイロンは伸縮性に優れていて、糸の段階で特殊な加工を施しています。この加工技術は日本の工場だから実現したそうです。
――日本の工場が持つ技術力とは何でしょうか。
櫻井さん: 日本ではナイロンなどの合成繊維の産地が北陸地方に集中し、伝統的な技術が蓄積されています。海外だとそのレベルに達していない部分があるのです。また、素材の製造から加工までが分業制になっており、それぞれの職人が専門技術を磨き、競い合うことで高品質な製品が生まれていることも特徴でしょう。
海外では大型の工場で作業がワンストップで進むことが多いのですが、日本は作業ごとに職人が切磋琢磨している。
そうした環境が世界一のモノを生み出す背景にあると櫻井さんは説明します。
――分業体制が大きな要因なんですね。
櫻井さん: 例えば、ナイロンの糸一つを取っても、機械で作るだけではなく、それをさらに加工して伸縮性を持たせる技術が求められます。この加工技術のバリエーションも日本が世界トップクラスです。切れにくい糸を作る技術も非常に高度で、製造過程で糸が切れてしまうと機械が止まってしまいます。ティフォンの生地には2万本の縦糸が使用され、1本でも切れると生産がストップします。こうした繊細な作業も日本の職人技によって支えられているのです。
こうした技術力により、非常に薄くて軽量でありつつ、耐久性と透湿性も担保できているのです。
反面、生産性は高くなく大量生産は難しい。そのため、ファントムに関して初年度は限定的な販売となるそうです。
街中から登山まで
近年、観光業界ではインバウンド需要の拡大が注目されていますが、アウトドア業界でも訪日外国人の影響が大きくなっています。
そんな中、ミレーは日本のユーザーに向けた製品開発を重視しているのが特徴でした。
アウトドアウェアを日常使いする人は増えていますが、今回アップデートされたティフォンも、その流れに合った一着と言えるでしょう。
軽量で動きやすく、急な雨にも対応できる機能性を備えながら、街でも違和感のないデザイン。アウトドア向けのウェアという枠にとらわれず、普段の生活にも自然になじみそう。
山での本格的な使用はもちろん、日常のちょっとした外出や通勤にも気軽に取り入れられるシンプルで実用的なウェアを探しているなら、一度手に取ってみる価値がありそうです。