毎年2月になり、街中にバレンタインデーのコーナーがあふれる頃に思い出すドラマがある。現在の20代なら2014年放送の『失恋ショコラティエ』(フジテレビ)かもしれないが、30代以上の人は01年放送の『アンティーク 西洋骨董洋菓子店』(同 ※FODで配信中)を挙げる人が多いのではないか。

同作の舞台は、住宅街のど真ん中にあるアンティーク調のインテリアで飾られた洋菓子店。そこで出されるケーキは悪魔的なおいしさである上に店員がイイ男ばかり……。制作サイドは、彼らと来店客が織りなす「さわやかで、たくさん笑えて、ちょっとツンとくるハートフルコメディ」「さまざまなジェネレーションの、恋と家族と友情の青春群像グラフィティー」と掲げていた。

その物語と映像は、令和の今なお心に染みる普遍性があり、だからこそこの時期の視聴を勧めたくなる。

よしながふみ+岡田惠和の力が融合

西洋骨董洋菓子店「アンティーク」のメンバーは、元ボクサーでケーキが大好きな見習いパティシエ・神田エイジ(滝沢秀明)、無口な天才パティシエ・小野裕介(藤木直人)、甘いものが大嫌いな洋菓子店のオーナー・橘圭一郎(椎名桔平)の3人。店を監視していた小早川千影(阿部寛)も含め、主要キャストにタイプの異なるイケメンをそろえた。

“ケーキとイケメン”がモチーフとなれば、「女性層狙いのドラマだろう」と思われがちだが、確かによしながふみの原作漫画にはその感があった。ただ、制作サイドはドラマ化にあたって“店員と来店客による群像劇”という要素を押し出すことで視聴者層を拡大。それを担ったのは、『白鳥麗子でございます!』(フジ)、『イグアナの娘』(テレビ朝日)、『おそるべしっつ!!! 音無可憐さん』(テレ朝)など、女性向け漫画の脚色に長けた脚本家・岡田惠和だった。

イケメン4人の謎多き人生をドラマチックにひも解くだけでなく、週替わりゲストを前面に出したエピソードが充実。ウエディングケーキをオーダーした逸子(小西真奈美)、星のケーキを作る入院中の少女・加世子(大島優子)、「太っている」と言われて失恋した過去を持つ珠美(眞鍋かをり)などの物語はどれも笑いあり涙ありのハートフルなものだった。特に子役時代の大島優子が出演した第4話は、同作ファンの間でも名作として語られている。

のちに岡田は『ひよっこ』(NHK)に代表される牧歌的なムードの物語を量産していくが、『アンティーク 西洋骨董洋菓子店』と同じ01年放送の『ちゅらさん』(NHK)と並んで先駆けの作品と言ってもいいだろう。

ドラマ化にあたっての大きな脚色は、主人公を橘圭一郎から神田エイジに変えたことと、小野裕介のゲイ要素をほぼカットしたことの2つ。その分、店内外の人生背景や人間模様を充実させることで、性別年齢不問の作品に仕上げていた。