櫻井翔と言えば、今夏放送の『笑うマトリョーシカ』(TBS)で演じた政治家役の印象がまだ残っているのではないか。演じたのは「爽やかな佇まいの国民的人気者ながら、何を考えているのか分からない」という政治家・清家一郎。“ハマリ役”と称賛を集めたが、ネット上には「いや、『家族ゲーム』(13年、フジテレビ ※FODで配信中)のほうがすごかった」という声も上がっていた。

『家族ゲーム』は、82年と84年に鹿賀丈史主演で2時間ドラマ(テレビ朝日)が放送されたほか、83年にも松田優作主演の映画が公開。次に長渕剛主演で同年と84年に連ドラ、85年にスペシャルドラマ(TBS)が放送され、さらに28年後の13年、櫻井翔主演の連ドラがリメイクされた。

その櫻井主演版は、脚本を担った武藤将吾が今秋『オクラ~迷宮入り事件捜査~』(フジ)を手がけ、『海に眠るダイヤモンド』(TBS)主演の「神木隆之介が意外な役柄で出演していた」というタイムリーな要素もある。ここでは「今こそ見てほしい」と勧めたくなる作品の本質をあげていきたい。

  • 『家族ゲーム』(C)本間洋平/集英社/フジテレビジョン/共同テレビジョン

    『家族ゲーム』(C)本間洋平/集英社/フジテレビジョン/共同テレビジョン

「アイドル」とかけ離れた不気味さ

まず、どの点で櫻井翔がハマリ役だったのか(以下は多少のネタバレを含む)。

あらためて振り返ると、物語は裕福で理想的な家族に見える沼田家に「東大合格率100%」の家庭教師・吉本荒野(櫻井翔)が訪れるところからスタート。しかし、次男・茂之(浦上晟周)は学校でいじめられてひきこもり状態であり、成績もふるわなかった。吉本は常軌を逸したような激しい言動で茂之の意識を変え、いじめを止め、成績を上げていく。

茂之が変わり始めた一方で、父・一茂(板尾創路)、母・佳代子(鈴木保奈美)、長男・慎一(神木隆之介)の問題が次々に発覚。それぞれ吉本の仕掛けた罠で追い詰められ、加えて茂之にも別の問題が発生し、ついには家庭崩壊してしまう。ドラマ終盤で吉本が沼田家を追い込んだ理由や「どんな人物なのか」が明かされていくが、彼を取り巻く現実は壮絶だった……。

吉本は常に笑顔で穏やかな物腰だが、何を考えているのか本心は分からない。神出鬼没でどこにでも現れ、監視されているような不気味さに加えて、恐喝、監禁、盗撮、盗聴などの犯罪行為にも一切の迷いなし。「いいねぇ~」の決めゼリフと不敵な笑みはアイドル活動時とはかけ離れたものであり、「本当の櫻井はこういう人間なのかもしれない」と思わせるほどの不気味さがあった。

そして、終盤の壮絶な回想シーンにおける演技の爆発力は必見。あんなに憎たらしくて狂っていたのに、吉本に感情移入させられてしまう。櫻井にとってまさに一世一代の熱演だった。鹿賀丈史、松田優作、長渕剛が演じてきた名作のリメイクだけに視聴者の目はシビアだったが、そんな高いハードルを見事に乗り越えたと言っていいのではないか。

近年、『悪女(わる) ~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』(日テレ)、『クロサギ』(TBS)、『パパとムスメの7日間』(TBS)、『南くんが恋人!?』(テレ朝)、広義では『Believe-君にかける橋-』(テレ朝)なども含め、多くのリメイク作が放送されている。そんな背景があるだけに、あらためて櫻井主演の『家族ゲーム』に注目したくなってしまう。