3番目に注目されたシーンは20時41分で、注目度79.1%。まひろ一家がどん底にたたき落とされるシーンだ。

「惟規! 惟規!」藤原為時の悲痛な叫びが越後の国府に響く。為時の新たな任地・越後への途上、随伴した息子・藤原惟規が病によりにわかに亡くなったのだ。あまりに突然の出来事であったため、手のほどこしようがなかった。

夜の帳が降りるころ、都のまひろに悲報が届いた。「これが、惟規の辞世の歌…」一家の者たちがみな悲しみにむせび泣く中で、まひろは惟規の辞世の歌が記された紙をぼんやりと見つめている。いとは声を上げて泣いていた。乳母として惟規を赤ん坊のころから育ててきたいとにとって、惟規の死はとても耐えられるものではなかった。賢子は必死に涙をこらえている。

「ここで力尽きたと父上が…」まひろは賢子に、惟規の最後の筆を見せ、「都にも、恋しい人がたくさんいるゆえ、何としても生きて帰りたいって」と、惟規に代わって思いを伝えようとしたが、あふれてくる涙に言葉がさえぎられた。「若様…」いとがつぶやくと、まひろは周りをはばかることなく泣きじゃくった。そんな風に母が肉親への情をあらわにする姿は、となりにいた賢子には意外だった。

賢子にとって母は、家族をかえりみず自分のことを優先する身勝手で薄情な人だった。その母が惟規の死にこうまで心を乱している。賢子の手は無意識に母の背をなぞり、そしてやさしく撫でた。まひろの瞳から、さらに涙があふれだした。まひろは賢子にしなだれかかり、娘の胸でさらに泣いた。「都にも 恋しき人の 多かれば なほこのたびは いかむとぞ思ふ」惟規の辞世の歌は、とても惟規らしい歌であった。

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「惟規の死で一家から光が消えた感じがする」

ここは、惟規の死を受け止められないまひろ一家に視聴者の共感が集まったと考えられる。

懸命に涙をこらえながらも、惟規の辞世の句を詠みながら次第に崩れ落ちていく吉高由里子の演技は圧巻だった。そしてそんな母の姿を見て、これまでのすれ違いを乗り越えそっと手を差し伸べる賢子に、多くの視聴者は強く胸を打たれたのではないだろうか。惟規の突然の死はもちろん悲しい出来事だが、その死を契機にまひろと賢子の関係が修復されていくとするなら、惟規の使い方としては秀逸すぎる。

SNSでは「天真爛漫な惟規にまひろも視聴者も救われていたよ」「まひろといとの涙には胸がギュッとしめつけられた」「もうまひろと惟規のシーン、見れないんだね」「惟規の死で一家から光が消えた感じがする」といったコメントがアップされており、多くの視聴者がその死を悼んでいる。生前は正直そこまで目立つ人物ではなかった惟規だったが、一躍名キャラクターに昇華した。脚本の巧みさが際立ったシーンだ。

姉のまひろと比較して学問の才がないとされていた惟規だが、実は勅撰歌人として『後拾遺和歌集』などの勅撰和歌集に和歌が収録されている。また家集として『藤原惟規集』も残している。優秀すぎるまひろと比較すると見劣りするかもしれないが、為時のDNAを受け継いだ惟規もきっと優れた人物だったのだろう。

作中には登場しないが、惟規には藤原貞仲の娘という妻と、その間にもうけた貞職、経任という2人の息子がいる。『光る君へ』公式Webサイトの特集コーナー「君かたり」では惟規役の高杉真宙が惟規への思いを語っている。Xではクランクアップの際に撮影した吉高由里子、岸谷五朗との家族写真がアップされている。高杉が惟規に強い思い入れがあるのが伝わってくる。