近畿日本鉄道は、新型一般車両8A系の報道関係者向け内覧会を9月20日に実施した。近鉄にとって24年ぶりの一般車両という8A系は、アルファベットを採用した車両系式や、新設の車内設備「やさしば」など、新時代の車両というイメージを創出している。

  • 近鉄の新型一般車両8A系。赤色と白色のツートンカラーに

鉄道ファンのみならず、沿線住民らからも注目されている8A系について、乗り心地など確かめつつ、魅力に迫ってみた。

「8」は所属線区、「A」は編成量数・車両構造を示す

8A系は従来の近鉄一般車両と大きく異なる新時代の車両になった。車両番号を見てもそれがわかる。近鉄の車両で初めて数字とアルファベットを組み合わせた5桁の車両番号を採用した。

車両番号の万の位は所属線区を表す。8A系は奈良線・京都線系統に所属することから、万の位は「8」(奈良線・京都線系統を表す)となった。千の位はアルファベットを採用し、編成両数や車両構造により、グループ分けするための分類記号とする。従来の区分けで考えるなら、「A」は1次車といったところか。このような車両番号を採用した背景として、4桁の車両番号では間に合わなくなったという事情がある。

続いて外装を見ると、先頭形状は八角形をモチーフとしており、四角いデザインが多い近鉄一般車両の中ではよく目立つ。前面の種別・行先表示器は大型化され、行先の英字が格段に見やすくなった。側面の表示器も大型化され、インバウンド利用を強く意識していることがうかがえる。

塗装は近鉄らしさを継承しつつ、品位のあるデザインに。外観カラーの赤色に深みと落ち着きが感じられ、白色は赤色を際立たせている。赤色と白色の組み合わせ自体は在来車と同じだが、塗り分けが異なるため、遠目から見ても新型車両とわかる。

車内レイアウトのコンセプトは「日常の華やかさ」とされ、日常の美しさを詠んだ『万葉集』の世界観を取り込んだ。従来車両より明るく感じられる車内で、筆者がとくに注目したのは木目調の側化粧板。従来の一般車両でも淡い色の木目調の化粧板が見られたが、2000年初期に登場した「シリーズ21」車両の化粧板は木目調ではなかった。8A系の化粧板は杉や檜をモチーフにした木目調であり、しかも淡い色に。明るい車内と落ち着きのある木目調とのバランスが良い。

  • ドア間の座席はL/Cシート。ロングシート・クロスシートを混在させることも可能(写真はロング・クロス・ロングの状態)

  • クロスシートの状態

  • ロングシートの状態

ドア間の座席はロングシート・クロスシートを切り替えられるL/Cシートを採用。従来のL/Cシート車両はロングシート・クロスシートの2択だったが、8A系はこれらに加え、車両中央部のみクロス(ロング・クロス・ロング)、車両中央部のみロング(クロス・ロング・クロス)の4択になったという。

座席の座面幅は従来のL/Cシートより10mm広い460mmに。ロングシートの状態であっても座面は高く、座り心地も良い。

車内設備で最大の特徴といえるベビーカー・大型荷物対応スペース「やさしば」は、1両あたり2カ所、車両中央の扉付近に設置され、ベビーカーをはじめ、スーツケース・キャリーバッグ等の大型荷物を持った利用者も気兼ねなく着席できるスペースになっている。大型荷物を留め置くためのストッパーも設けられた。

  • ベビーカー・大型荷物対応スペース「やさしば」

  • ベビーカーと「やさしば」

  • スーツケースを持って着席してもスペース内に収まる

「やさしば」のネーミングには、「優しい場」「やさ芝」という2つの意味が込められている。「やさしば」の緑色はのんびりくつろげる公園の芝をイメージしたとのこと。

筆者も実際に「やさしば」で座ってみた。注目したいのは体の向きで、窓側を向くよりも、扉上の大型液晶ディスプレイを見るように、体を斜めに向けたほうが座り心地が良かったと思う。「やさしば」のスペース内にベビーカー・スーツケース等がすっぽりと収まるつくりとなっており、乗降りもスムーズにできるだろう。

内装関係のデザインは、JR西日本の273系(特急「やくも」車両)や「はなあかり」「WEST EXPRESS 銀河」を手がけたイチバンセン代表取締役の川西康之氏が担当している。担当者に質問した際、「やさしば」のアイデア自体は近鉄側から生まれ、デザインは川西氏という構図だと説明があった。従来車両にも「やさしば」を設置するのかという質問もあったが、大がかりな改造が必要ということもあり、現在のところは考えていないとのことだった。

  • 車いす対応のフリースペースを各車両1カ所設置

  • 新型一般車両8A系の運転台

運用面に関して、8A系はデビュー後、快速急行から普通まで、あらゆる種別で偏りなく運用に就く予定。一方、奈良線から阪神なんば線、京都線から京都市営地下鉄烏丸線への直通運転は行わない。他形式との連結に関して、固定編成の3200系といった一部車両を除き、基本的にあらゆる一般車両と連結できるようにする。

利用者の声をきめ細かく反映した車両に

8A系は多くの利用者からの声を反映した車両でもある。近畿日本鉄道技術管理部(車両)の喜多陽平氏によると、一般車両の利用状況に関して、2018年8~9月にインターネットのアンケート調査を実施したという。

2019年8月には、西大寺検車区にて既存の一般車両を用い、一般参加者に良い点・悪い点を指摘してもらった。その際、参加者に付せんを各所に貼る形で、楽しみながらヒアリングした点が特筆に値する。2020年2月には、8A系を製造した近畿車輛にて、実物大のモックアップを用い、ベビーカーを持った利用者の動向もリサーチしたとのこと。

近鉄の新型一般車両8A系は10月7日にデビューし、奈良線、京都線、橿原線、天理線で運行される。近鉄にとって24年ぶりの一般車両ということもあり、利用者がどのような反応を示すのか、いまから楽しみになった。