9月15日、第74回NHK杯将棋トーナメント(主催:日本放送協会) 2回戦、藤井聡太七冠と西山朋佳女流三冠の対局が放送されました。かつて2人は8年前に三段リーグで相対したこともあり、完全に勢いを取り戻した感のある無敵モードの藤井七冠が相手とはいえ、女性では史上2人目となる棋士編入試験の受験資格を獲得した西山女流三冠であれば、あるいは……との期待も高まります。しかし、結果は109手で先手の藤井7冠の勝利となりました。

駒組みの一瞬の隙を見逃さず、位を取る

序盤、角交換の後、西山女流三冠はダイレクト向かい飛車を選択。藤井七冠は相手の銀に自らの銀を向かい合わせる形を選択、後手の振り飛車の動きをやや制限します。そして西山女流三冠が銀冠の陣形を完成させた瞬間、藤井七冠が6筋に歩を突き出し、位を取ります。序盤にもかかわらず、まるでスッと刀の切っ先を喉元に当てるような鋭い主張を見て、西山女流三冠も桂馬を繰り出し応戦しますが、さらに藤井七冠は銀や金を上げて自陣に厚みを加えます。

続いて西山女流三冠は先手陣深く5筋に角を打ち込み、馬を作る狙いを見せます。玉頭に馬を作られてはたまらないと藤井七冠は桂馬でガード。そして互いに馬を作る展開となり、やがて西山女流三冠の馬が相手陣5筋深くに再び飛び込みます。

さらには西山女流三冠がいよいよ盤面中央で攻めを激化させ、いつもの豪腕炸裂かとも思われましたが、藤井七冠が7筋から相手陣を崩しにかかります。ここで先手はすべての桂馬を入手しており、いかに後手の守りが堅くても、バラバラに分解させられそうな気配が漂います。

圧倒的な終盤力が光る

西山女流三冠はさらに反撃を試みますが、藤井七冠は7筋、8筋から確実に相手陣を崩壊させながらも、持ち時間の少ないNHK杯の落とし穴を警戒してか、安全性も抜かりなく担保。相手の攻めを存分に受けながらもまったく崩れないという、まさに横綱相撲状態。やがて、後手の8筋の急所に桂馬を打ちこみます。これが決定打となったか、数手の後に見込みなしと悟った西山女流三冠が投了を告げました。

西山女流三冠が終始大胆に攻め続けているようにも見えましたが、優勢の針が後手にふれることはなく、圧倒的かつ、いつもにも増して冷静な藤井七冠の終盤力が冴え渡った一局となりました。勝った藤井七冠は、次戦で澤田真吾七段と冨田誠也五段の勝者と対戦します。

  • トップを走る藤井七冠と対局する機会を得るだけでも大変だが、西山女流三冠は「貴重な経験を活かしていけるよう精進します。」とコメントしている 写真は、棋士編入試験第1局より(撮影:編集部)

    トップを走る藤井七冠と対局する機会を得るだけでも大変だが、西山女流三冠は「貴重な経験を活かしていけるよう精進します。」とコメントしている 写真は、棋士編入試験第1局より(撮影:編集部)