さる6月16日、「女流棋士発足50周年記念パーティー」が都内で行われ、登壇した中井広恵女流六段は今後の女流棋士に託す希望として「打倒・藤井竜王名人」を掲げました。 その希望に応えるかのように、7月4日に行われた第18回朝日杯将棋オープン戦(主催:朝日新聞社・日本将棋連盟)一次予選にて、西山朋佳女流三冠が勝利し、棋士編入試験の受験資格を獲得しました。 この資格を得たのは福間香奈女流五冠に続いて女性では2人目となります。
西山女流三冠はすぐに受験の意思を示し、再び「史上初の女性プロ棋士」を懸けた戦いの火蓋が切られました。 明日10日、高橋佑二郎四段を相手に第1局が行われます。
そうした前人未到の偉業に挑む西山女流三冠という存在は、周囲の目にどう映っているのでしょうか? 親交のある中井女流六段、小高佐季子女流初段、山本博志五段、岡部怜央四段がそれぞれの想いを語ります。
2024年9月3日に発売された、『将棋世界2024年10月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)掲載の「棋士編入試験に挑む― 西山朋佳と勝負の世界」より抜粋してお送りします。
(以下抜粋)
中井広恵女流六段
西山が棋士編入試験の受験意思を表明した、という報道に接して、中井広恵女流六段は「やはり」と思った。西山とは温泉で合宿をしたりもする仲である。そういう中で、高みを目指す人だろうな、ということを感じていた。
「でも、もう少し葛藤して決めるかと思ったので、即決したのには驚きました(笑)。棋風通りスパッと、朋佳ちゃんらしいですね」
中井はこれからの女流棋士に前向きな野心を持ってほしいと思っている。「打倒・藤井竜王名人」だ。
「やるからには、目標は高く持つべきだと思います」
ちょうどNHK杯では、西山が勝ち進んで次に藤井聡太竜王名人と対局することが決まった。面白い将棋になるだろう、と中井はとても楽しみにしている。そして自らも闘志を燃やす。
「私の次の対局が朋佳ちゃんとなんですよ。一回も勝ったことがないので頑張りたいです」
山本博志五段
14歳で奨励会に入った西山は順調に昇級昇段する。2013年、大学進学にあわせて移籍してきた関東奨励会では、西山のことで話題が持ち切りになった。それは黒船来航のような衝撃だったという。
「将棋に華があったし、同時にツッコミどころも満載だったんですよ」
と山本博志五段は振り返る。
「一般常識として知っておかなければいけないような定跡をぜんぜん知らないんです。それですぐ必敗になるんですが、そこから劇的な逆転勝ちを収める。すごいインパクトでした。しかも、終わると本人はケロッとしていて『こっち悪いの?』みたいな。めちゃくちゃ楽観派だったので、自分が悪くなったと思っていないんです。
みんなあきれ半分ながら、終盤の切れ味には誰もが認めざるを得ない輝きがあったと思います。面白い将棋を指す人のほうが注目を集めやすいですから、西山さんが関東奨励会に溶け込むのは早かったですね」
小高佐季子女流初段
小学生の頃、四間飛車を中心に指していた小高は、中飛車から大駒をバサバサとさばいて寄せきる西山将棋に憧れて、中飛車党に転向した。参考にする棋士はこれまでもいたが、ここまで憧れを強く抱いた対象は初めてだったという。
小高の兄が奨励会に在籍しており(三段で退会)、西山と親しかったこともあって、紹介してもらえることになると「何を着ていこう、どんな話をしよう」ということで頭がいっぱいになった。いざ会ってみると、棋風と性格のギャップに驚いたという。
「あの将棋を指す人が、こんなにほわほわしてるなんて、と。すごく優しくて穏やかで」
したかった話は緊張でほとんどできず、ひたすら西山を見ていた。この日以降、交流が生まれたという。
「いまとなっては、将棋界でいちばん付き合いが長い人になりました。西山さんにしか話せないようなこともたくさんあります。個人的な相談もいっぱい聞いてもらいました。ちょっと失礼だったかなとも思うんですが、憧れると同時に、勝手に将棋界のお姉ちゃんのような感じにしてしまっていたかもしれません」
岡部怜央四段
第66回三段リーグで、西山は最後まで昇段を争う戦いを見せる。この期、西山は14勝4敗という好成績を挙げながら順位の差に泣き、昇段を逃す。最終局のあと、岡部怜央四段は幹事席への結果報告のタイミングがたまたま西山と一緒になり、西山が昇段できなかったことを知った。
岡部は西山に黒星をつけた4人のうちの一人であり、しかも最終日に西山の競争相手と戦って敗れていた。何かを言わなければいけないような気がして、とっさに口をついて出た言葉は「すみません」だった。 「岡部くんのせいではないよ」という返事が返ってきた。あとから考えると、「すみません」は適切ではなかったかもしれないと思うが、では代わりになんと言えばよかったのかはいまもってわからない。
岡部は、四段昇段後、西山と公式戦で対戦した際、先に対局室入りして下座についたことが話題になった。西山は少し驚いて、岡部に上座に座るよう促し、岡部は席を移ることに なった。
「奨励会時代、先輩だった西山さんと指すときはいつも玉将を持って指していたので、王将を持つことに変な感じがありました。リスペクトの気持ちを込めていましたが、かえって西山さんに気を遣わせてしまったかな、と申し訳ない気持ちもありました」
(「棋士編入試験に挑む― 西山朋佳と勝負の世界」/【構成】會場健大)
『将棋世界2024年10月号』では、全編を掲載しています。ぜひご一読ください。
『将棋世界2024年10月号』発売!渡辺明九段の将棋を徹底解明!!
『将棋世界2024年10月号』
発売日:2024年9月3日
特別定価:990円(本体価格900円+税10%)
判型:A5判244ページ
発行:日本将棋連盟
Amazonの紹介ページはこちら