秋に入り、2025年卒の就活も後半戦へ突入。6月に発表された「マイナビ 2025年卒 大学生活動実態調査」では、内々定率80.8%、内々定保有者の約4割が、3社以上の内々定を保有しているという結果が出ています。

一方で、未内々定者の約4割が「将来やりたい仕事がわからない」と回答しているほか、「不合格理由がわからない」という声も挙がっているようです。

どうしても他者と自分を比較したり、自己否定をしがちなこの時期をいかに乗り切ればいいのか。

日本における自己肯定感研究の第一人者であり、心理カウンセラーの中島輝さんに、就活生に向けて、すぐに実現可能な「自己肯定感を高めるコツ」を教えていただきました。

まず、「自己肯定感は低くて当たり前」という現実を認識し、受け入れる

日本の学生の自己肯定感が国際的に見ても低いという事実は、多くの研究で明らかにされています。

2014年に国立青少年教育振興機構が、日本・米国・中国・韓国の高校生へ行った意識調査では、日本の高校生は「自分はダメな人間だ」と感じる割合が72.5%にも上るという調査結果があり、この問題は就活生の自己評価にも大きな影響を与えています。

就活生が、高校生の時点で「自分には価値がない」と思ってしまう状況下にいる事を、上の年齢層の大人達も基本情報として知っておいていただきたい。その前提の上で、自己肯定感についてお伝えしていきます。

すぐに実践できる「自己肯定感」を高めるコツ:まずは自分を知る

就活中、「自分には能力や価値がない」と、つい自己否定をしてしまう場面に遭遇することが多々あります。そういった時に、瞬時に自己肯定感を高めるコツを、次の5項目にまとめました。

1.自分の強みを意識し、書き出してみる
2.自分の短所を、長所としてポジティブ転換する
3.自分自身とセルフトークを行う
4.「喜怒哀楽」や「欲」の感情を、思いっきり表に出す
5.比較は他人とではなく、「過去の自分」とする

1.自分の強みを意識し、書き出してみる

自己肯定感を高める第一歩は、自分自身をよく知ることです。そのために、日常的に見過ごしがちな小さな強みや美点も含めて、自分の長所をリストアップしてみましょう。

ポイントは、「20分で30個」というように時間と個数を決めて、短い時間の中で直感的に書き出すことと、資格や特技ではなく、「人に親切」「感情豊か」「明るい」など、感情の特性や対人スキルにフォーカスすることです。

(例)
・私は、人に親切な思いを持っている
・私は、映画を観て、悲しい時にたくさん泣くことができる
・私は、人に対して優しい気持ちがある

このような、いわゆるEQスキル(感情知能指数)が優れているものを「非認知能力」といいます。対して、読み書きそろばんや暗記力など、いわゆる受験に合格するようなスキルや、資格などの技術的なスペックは「認知能力」になります。

一見、認知能力が強みだと思われがちですが、実は、非認知能力をフォーカスすることで、例えばそれぞれの強みから、

・親切さや優しさ→サービス業や接客業が向いている
・沈着冷静さ→事務の適性がある
・アクティブに動きたい、多動的な力がある→企画営業に向いている

というように、自分の適性や向いている職種を知ることもできるのです。

短所や逆境、すべての要素をポジティブ転換できる自己肯定術

2.自分の短所を、長所としてポジティブ転換する

では、短所については、どうとらえていけばいいのでしょう。エントリーシートや面接のトラップともいえますが、自分の短所に向き合った時に、ネガティブな気持ちや、相手への伝え方に苦労する方も多いのではないでしょうか。

起こった出来事や事実の意味合いは、見る側の視点や見方によって変わります。物事の枠組みを変え、違う視点から見ることを、心理学では「リフレーミング」といいます。

短所を否定するのではなく、客観視をしながら長所に転換し自己認識することができたなら、感情がぶれずにすみます。

(例)
・せっかち→物事を素早く処理できる
・すぐ泣く→感動しやすい、感情や情緒が豊かである
・集中力がない→いろいろな視点に目を向けることができる

このように捉え直すことで、就活のつらさも、「これからの長い人生をポジティブに生きていくための大切なステップ」と受け止められるのではないでしょうか。

私自身も、就活で希望の企業に落ち続けた経験があります。結果、栄養失調になるほど自己否定の塊になりましたが、社会とうまく合わない自分の特性を「得意技」とリフレーミングすることで、自分の本当の強みを知ることができました。

自分に向き合い自己理解を深めていく中で、ちょっと自分を客観視することも、自己肯定感を高めるコツの一つです。

3.自分自身と「セルフトーク」を行う

人間は承認欲求が必要な生き物で、他者からの否定は、自分自身の存在否定にもつながってしまいます。ですので、自分自身に向けてポジティブな言葉を投げかける「セルフトーク」を日常的に意識して行いましょう。

例えば、不採用通知を受け取った時、「ビジネス上でこの会社とマッチングしなかっただけ。だから、挑戦できた私は素晴らしい」というように、しっかりと切り分けてセルフトークを行います。

もしも、ポジティブな言葉が思いつかないほど心が疲れている時は、鏡に向かって「今日も一生懸命頑張ったね」「よくできた」など、自分を承認する言葉を投げかけてください。

自己承認が難しい方も、鏡に向かってなら意外にすんなりできるものです。1日3回以上、自分のことを鏡に向かってほめてあげる。この時期は、それほど自己承認が必要なのだと認識しましょう。

ネガティブな感情は「コントロール」ではなく「マネージメント」する

4.「喜怒哀楽」や「欲」の感情を、思いっきり表に出す

自己肯定感を高めるには、自分のことを好きなのが大前提ですが、なかなか抽象度が高く難しいですよね。泣いたり笑ったり、喜んだり怒ったり、喜怒哀楽をしっかりと出してあげるのも、「自分を好きになる」一歩かなと思います。

もちろん、イライラも大切です。社会の中で生きていく上で自分の思う通りにいかないことは多々あります。

その感情をコントロールし過ぎると、ストレスが溜まるので、時には紙に書き殴ってビリビリ破るなど、ネガティブに変に蓋をしない。歌ったりスポーツをするなど、何でもいいので自分なりに発散して感情をマネージメントし、自分の人生の主導権を握ることが重要です。

そして、今のつらさを乗り越えた先に、どんな素晴らしい未来が待っているか、短期/中期/長期でイメージしましょう。

それは、就活の目標にかかわらず、「こうなりたい自分」や「やりたいことを実現している自分」でも、自分が望むことでいいのです。未来の欲を出して感情を味わい、そこに向かっていくことも大切です。

5.比較は他人とではなく、「過去の自分」とする

人と自分は違うもの。ですが、自己肯定感が低い時は、その違いの悪いところに目が向いてしまいがちです。今の時期、あえて意識的に「昨日の自分」へ目を留め、ささやかなことでも、今の自分の成長を認めてあげましょう。過去の成功体験を振り返るのもおすすめです。

例えば、自転車に乗ることができた、学校にちゃんと1学期行けたというようなことでも、どんなことでもいいのです。

就活は、自分を知る大きなチャンスです。冒頭で、就活生に大切なのは自己理解と言いましたが、それは何のためでしょうか。もちろん、効果的な自己PRにも必要ですが、今後の長い人生において、自分の強みや弱みをこのタイミングで知っておくと、人生の苦しみを軽々と乗り越えられるようになるのではと思います。

私の場合も、あの苦しい就活で人生が変わりましたので、いっぱい失敗して良かったと思っています。自分の成長にとって失敗があるからこそ成功があるので、今は失敗しない日が続くと不安になるほどです。

同時に、自分と人を一番比較してしまう時期でもあります。自分の家庭環境や、今までしてきたことを問われ、いきなり飛躍した現実を見つめる時間ですので、その時に必ず不安や恐れが出てくることを知っておいてください。それを持ちながらさまざまな情報に振り回されると、さらに自己否定の罠に入ってしまうからです。

ですので、しっかりと「自分の人生の主導権を握る時間がやってきた」、「ここから新しい未来を築くことができる」、「みんな、スタートラインは一緒」と思ってスタートする。スタートラインは違うよ……と思うかもしれませんが、みんな、「自立」というスタートラインは同じなのです。

それを踏まえながら、未来は楽しいものなんだと自分に言い聞かせて進んでほしいと思います。