序盤からトー横キッズがオーバードーズになったり、不法滞在の外国人がヤクザに刺されたりと、歌舞伎町の出来事を容赦なく描いている今作。これを地上波テレビのゴールデン・プライム帯で連ドラとして放送するにあたり、どのような意識で書いているのか。

「今度こそ怒られるんだろうなと思いながらやってます(笑)。いつもなるべく怒られたくないなと思って、いろんな人にチェックしてもらって“大丈夫ですよ、宮藤さん”って言われても、結局怒られるという…。でも、いろんな意見を怖がってたら何もできなくなっちゃうので、しょうがないですよね。“これは本当にあることなんだ”と言いたいだけなので、中途半端にしないということは意識してます。片方だけを“悪”みたいにはしたくないので、いいところも悪いところも両方にあるということをそのまま提示して、見た人が“そう言えばそうだな”と考えてくれたらいいなと。だから、10代の女の子たちが家出して歌舞伎町に集まってくることを“あの子たちはしょうがないね”で終わりにしないで、どうすれば良いのか。このドラマをきっかけに考えてもらえたらいいなと思いながら書いてます」

最初の執筆時には“不適切”なセリフもあったが、きちんと放送できるように表現を修正した部分もあるのだそう。また、「これは監督の河毛(俊作)さんが言っててなるほどと思ったんですけど、医療ドラマだと多少の下ネタは下ネタに聞こえないんです。例えば、具体的な部位を言っても“お医者さんだから言ってるのね”って思われることに気づきました」と、発見があったそうだ。

ブレーキをかけるくらいだったら、それはやらないほうがいい

四半世紀にわたりテレビドラマの脚本を手がけてきたが、“コンプラ”が叫ばれ、世の中の価値観やテレビを取り巻く環境が大きく変化する中で、先鋭的な作品を生み出し続けられる背景は何か。

「ブレーキをかけるくらいだったら、それはやらないほうがいいんじゃないかと思っちゃうんで、自分の社会性を一回捨てないと、本音は出ないだろうという感覚があるんです。みんな何となく怖くて使ってない言葉だけど、別に言っちゃいけないことじゃない言葉もたくさんある。それで炎上したとみんな騒いでるけど、よくよく考えたら全然問題じゃないということの見極めが、今どんどん難しくなってきてるので、いつも“これは怒られるかな”と思ったら、自分の中で“本当にそうかな?”と考えるようにしてます。もちろん、その結果やっぱりやめるということもありますから」

このように“世間の評価を疑う”という意識を持って執筆に臨む宮藤氏。SNSでの評判も極力見ないというが、「わざわざスクショしたのを送って、教えてくる人がいるんですよ。“大丈夫です! みんな褒めてます!”って言われて、見てみたらやっぱり腹が立つんです(笑)。見て良かったこと、1回もない!」という。「昔は視聴率が悪かったらそれで頭いっぱいだったけど、今は視聴率が多様化したため、“SNSでこう書かれてました!”とか、知りたくないのに教えてくる人が居るんですよね。もういいのに!って思ってます(笑)」と、悩ましい事情を打ち明けた。

そうした中で放たれる今作について、「1話はわりと好き勝手に書いてしまったので、“医療ドラマって聞いてたのに”とか思われるかもしれないけど、1話だけで判断しないでほしいです」と要望。「必ずしもまともな人たちばかりが出てくるわけじゃないけど、この人たちがだんだん好きになってもらえるといいなと思いながら書いているので。大体いつも、皆さん期待しすぎるんですよね。こっちは期待してくれって言ってないのに(笑)。だから過度に期待して見て、あんまり粗探ししないで、2話も見てくれるといいなと思います」と呼びかけた。

  • (C)フジテレビ

●宮藤官九郎
1970年生まれ、宮城県出身。91年より大人計画に参加。脚本家・監督・俳優として幅広く活動するほか、TBSラジオ『宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど』ではパーソナリティを務めている。また、脚本・演出・出演の舞台「ウーマンリブvol.16『主婦 米田時江の免疫力がアップするコント6本』」を今年11月から東京・大阪で上演。