突然ですが、あなたは犬派? それとも猫派? 私は猫派です。いきなり何かというと、東京・広尾の山種美術館で開催中の特別展「犬派?猫派?―俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで―」の話です。日本画約1,800点を所蔵する日本画専門の同館に、犬と猫が題材の名品が約60点集結。特に、長沢芦雪 《菊花子犬図》(個人蔵)と、重要文化財の竹内栖鳳《班猫》(山種美術館)の2作品は撮影もOK! というわけで、犬好きも猫好きも楽しめる同展のみどころをご紹介します。

  • ワンダフルな犬と、にゃんともかわいい猫を描いた名品が集結。犬好きも猫好きも楽しめる特別展のみどころは?

「ワンダフルな犬」たち

現代のSNSで犬と猫は鉄板のバズネタですが、どちらも古くから日本の絵画に描かれてきたおなじみのモチーフ。画家たちは自分の愛犬・愛猫を描いた作品を数多く生み出してきました。

今回、撮影がOKとなっている2作品のうちの「犬」代表が、愛らしい9匹の小さなワンコがじゃれあう様を描いた、長沢芦雪の《菊花子犬図》(個人蔵)。前回の特別展「癒やしの日本美術 ─ほのぼの若冲・なごみの土牛─」に登場した際には、クリアファイルや絵葉書などの関連グッズがバカ売れするほどの人気ぶりで、今回は再登板となります。「かわいいワンコをたくさん描いた芦雪の作品の中でも最高」と、同館学芸部顧問の山下裕二さん(明治学院大学教授)も太鼓判を押すほど、屈指の“ゆるかわアイドル犬”です。

  • 長沢芦雪《菊花子犬図》個人蔵

その芦雪の師である円山応挙も、ころころと丸みを帯びた子犬たちを数多く描いていますが、キャッキャとはしゃいでいる芦雪のワンコに対して、応挙が描くワンコはしっとり系。そんな師弟の作風の違いを見るのも面白いといいます。

江戸時代の天才絵師・伊藤若冲も、可愛らしいワンコを描いています。対幅の《子犬図》(個人蔵)は、右幅にほうきと犬、左幅には手箕(てみ)の中で身を寄せて眠る3匹の子犬が描かれ、まるで冬に定期的に話題になる“猫鍋”ならぬ“イヌ鍋”のよう。

  • 伊藤若冲《子犬図》個人蔵

  • 川端龍子《立秋》大田区立龍子記念館蔵

近代日本画の巨匠と称される川端龍子は、大の犬好きで知られています。同展では、愛犬のムクとモルをモデルに描いた《立秋》と《秋縁》(大田区立龍子記念館)が登場。また、江戸初期に描かれた本邦初公開となる《洋犬・遊女図屛風》(個人蔵)は、当時日本では珍しかった洋犬を描いた貴重な作品です。

「にゃんともかわいい猫」たち

もうひとつの撮影OK作品が、同館の“レジェンド猫”、竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】(山種美術館)。旅先の沼津で見かけたこの猫に惹かれた栖鳳は、どうしても京都に連れて帰って絵を描きたいと自作と引き換えにもらいうけたそうで、このポーズをとらせるために、背中にハチミツを塗ったという逸話も残っているとか。

  • 【写真】どうしても連れて帰りたいともらいうけた猫。このポーズをとらせるために、背中にハチミツを塗ったという逸話も

    竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】山種美術館蔵

江戸時代の浮世絵師・歌川国芳は、常に5~6匹の猫を飼い、絵を描くときにも懐に猫をいれていたほど無類の猫好き。《其まゝ地口猫飼好五十三疋》(個人蔵)は、「東海道」の宿場名を「みょうかいこうごじゅうさんびき」とダジャレで猫化したもの。「日本橋」は“2本のかつおぶし(だし)”で「ニホンダシ」に、「品川」は“白猫の顔”で「白かお」に……と、さまざまなポーズのニャンコたちが、五十三次ならぬ“五十三匹”描かれています。

  • 歌川国芳《其まゝ地口猫飼好五十三疋》個人蔵

ちなみに「僕は断然、猫派です」という山下さんが一番楽しみにしていた作品が、ムッシュフジタこと藤田嗣治が女性と4匹の猫を描いた《Y夫人の肖像》(株式会社三井住友銀行蔵)。自画像やポートレート写真にもたびたび猫が登場し、サインの代わりに猫を描くこともあったほど猫好きだった藤田が描く猫は、上向きであごをつきだしているのが特徴。また活躍中の現代美術家、山口晃の水墨画《捕鶴圖》(山種美術館)は、「鶴」と「猫」という2つのお題から即興で描いた席画だそうですが、擬人化された猫たちの個性も描き出しています。

  • 会場風景

「その画家がどのくらい犬好きなのか、猫好きなのかを考えながら作品を見るといい」と、山下さんが鑑賞のポイントを解説していたのですが、確かに犬と猫への画家の愛があふれ出しているような作品から、わりと冷静に客観的なまなざしで対象を描いているなと感じるものまで、さまざま。バラエティに富んだ多彩な作品が一堂に会した同展は、7月7日まで開催です。

■information
特別展「犬派?猫派?―俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで―」
会場:山種美術館
期間:5月12日~7月7日(10:00~17:00)※月曜休/会期中、一部展示替えあり
料金:1,400円/大学生・高校生1,100円/中学生以下無料(付添者の同伴要)、障がい者手帳、被爆者健康手帳を提示の方、および付添者1名まで1,200円