真夏に強く労力のかからない品種も

――夏場の猛暑がこのところ深刻で、野菜によっては品質や収量の低下が起きています。糖度が乗らなくなる野菜もあると聞きました。

トマトもそうですよ。真夏は苦手ですね。消耗が大きいということだと思います。日差しが強く、気温が高くて、光合成に必要な量を超えた強い光が当たると、呼吸が増えて光合成で作った糖分を消費してしまいます。そうすると、実に回る糖分も薄まってしまう。

――耐暑性のある品種の開発は盛んですか?

トマト、ミニトマトともに進んでいます。例えば大玉の「豊作祈願015」は、高温でも着果が良いです。

豊作祈願015(画像提供:トキタ種苗株式会社、以下同)

夏の暑さは、受粉不良により実がならない事態を引き起こし、収量に大きな影響を与えかねません。農家はこれを防ぐために、「トマトトーン」といった植物成長調整剤をかけて、受粉しなくても実がつくようにしています。
この処理をはじめ、これまでの栽培方法で求められていた作業の手間が省ける品種として開発したのが、「ジャングルトマト」です。

一般的な栽培方法では、主枝から出るわき芽を「芽かき」作業で摘み、主枝にしか実を付けないようにします。「芯止め」とか「摘芯」といって、収穫しきれない実がならないように、先端を摘み取る作業もあります。
ジャングルトマトは、わき芽かきも、芯止めも必要ありません。茂るがままに栽培するんですね。ほどよく日陰ができ、花の周りの気温が下がることで夏でも着果が良く、植物成長調整剤で処理しなくても収量がとれるので、おすすめしています。

ジャングルトマト

栽培に手間がかからない品種を追求

――ジャングルみたいに生い茂っていますね。

日陰になることで、日焼けや裂果を防ぐ効果もあります。
通常の一本仕立てで露地栽培をすると、樹勢の管理が難しいこともあり、4月に定植するとだいたい8月くらいにバテてきます。その点、ジャングルトマトはわき芽を全然とらないから、芽がたくさんある分、根が活発に動くんですね。樹勢が先々まで良く、長期にわたって収穫できることで収量も上がります。

既存のミニトマト品種で収量をきっちり確保するには、適期に栽培して、わき芽かき、誘引、花数の調整など手を掛けないといけないんですよ。なるべく少ない作業時間で最大収量をあげるという点で、ジャングルトマトは、直売所など向けに多品目を作る農家には向いているんじゃないでしょうか。

真夏の暑い時期に植物成長調整剤の処理をするのは、なかなかつらい作業です。管理の負担が少なくなるのは良い点だと思います。
食味はジューシーで、一般的なミニトマトと変わりません。

2018年に発売したジャングルトマト

――開発には10年といった長い時間がかかりますよね。人手不足もあって手間の省ける栽培に需要があると、前もって見越して開発したんですか?

そうです。手間がかからない品種にニーズがあると考えています。
ジャングルトマトは栽培方法が大きく変わりますが、そうではないトマトも作業性を重視して房の粒ぞろいを良くしています。昔の品種は、粒に大小の差が出やすかったんです。
市場流通だと出荷規格に合わせて出荷します。粒の大きさがそろうように育種した最近のサンチェリー・シリーズは収穫、調製の負担が軽くなります。直売所への出荷で、自分の規格で大小を混ぜたり、大きいものだけ、小さいものだけで袋詰めして出荷して販売できるのはいいところですね。

ブリーダー自身も食べたいもの、おいしいものを作りたい

――貴社は、直売所向けの野菜に強い印象があります。開発を続けるなかでそういうふうになってきたんでしょうか?

品種を開発している我々自身が食べたいもの、おいしいものを作りたいと、おいしさを追求してきたわけです。すると、皮がやわらかいなど、長距離の輸送には適さないものも出てきます。

そういう品種は、いわゆる産地にはなかなか入りにくい。産地はおおむね消費地より遠いところにありますから。もちろん、産地向けの品種にもおいしさはある程度求めるけれども、それよりも輸送性や規格に合うかなどが重視される部分があります。

おいしい品種を商品化したいとなると、直売所といった農家と消費者が非常に近いところで流通させることになります。そういうところには、スーパーと違った品ぞろえを求める消費者が多いです。おいしさを重視して、量販店向けの規格はさておいて……となると、直売所向けの品種という形になってくるんです。

おいしさと栄養価を兼ね備えたカラフルなミニトマトのシリーズ「サプリガールズ」。赤の「リコちゃん」はリコピン含量が、オレンジの「カロちゃん」はカロテン含量がとくに多く、いずれも甘い

端境期に量を出し、収益を高め得る栽培方法

――直売所に出す農家に勧めたい栽培方法があれば教えてください。

時期をずらして栽培する方法があります。
例えば関東の露地栽培だと、4月に定植したトマトを6月くらいから収穫し始めて、8月、うまくやって9~11月まで収穫を続けます。しかし、近年梅雨明け後の高温が厳しくなり台風、秋雨の影響で生育後半に安定した量を出すのがしんどいところがあります。
それを考えると、6月くらいに種まきして7月くらいに定植して……と、時期をちょっとずらして栽培する方法がお勧めです。

直売所向けで4月に定植となると、出荷するのは周りでもたくさんとれている時期になります。いくら自分で値決めができるといっても、余ってきて値段もつかなかったり、買い手もつかなかったりします。その点、時期をずらして種をまいて収穫すれば、のちに品薄になる時期にちゃんと収穫ができてくるので。

6、7月っていうと、うまく収穫できている人はできている最中ですから、その後を考えて種まきしたり育てたりというふうには、なかなかなりにくいですが。
保険のような感じで種まきして、空いたスペースをみつけて定植する。次の秋まきとかの予定もあるでしょうけど、そこでやっておくといいと思うんですよね。

――なるほど。トマトについて2回にわたってお話しいただきました。どうもありがとうございました。