近年、日本各地で度重なる自然災害が人々の暮らしを脅かしている。台風、豪雨はもちろんのこと、2024年元日には能登半島地震も発生。災害の頻度が高まってきている印象すらある中で、人手不足も顕在化し、企業や自治体は防災対策をより効果的かつ効率的に実施する目的で「防災DX(デジタルトランスフォーメーション)」に着手している。

鳥取県南西部、中国山地の山間にある 日南町 にちなんちょうは、島根・岡山・広島3県と県境を接する町で、人口約4,000人。高齢化と人口減少が著しく、防災対策は持続可能な町づくりにおいて極めて重要なテーマだ。そこで同町は、NTT西日本が提供する防災DXサービス「Spectee Pro for elgana」の導入による防災対策の高度化に取り組んでいる。

  • 鳥取県日南町の分布とイメージ

本記事では同町の防災担当のキーパーソンにインタビューを実施。同サービスに着目した経緯や、トライアル導入と防災訓練における検証、及びその成果について伺った。

  • 日南町総務課 総務室の岸 稔生氏(右)、佐伯 晋介氏(中央)、渡邊 勝也氏(左)

    お話を伺ったのは、日南町総務課 総務室の岸 稔生氏(右)、佐伯 晋介氏(中央)、渡邊 勝也氏(左)の3名。

防災対策の高度化にデジタルツール導入の必要性を感じる

鳥取県全体のおよそ10分の1に及ぶ広大な面積を有する日南町。町全体が豪雪地帯に指定されているうえ、平地の少ない土地柄で、雨などによる土砂災害が懸念される地域も多い。日南町役場の総務課で消防・防災担当を務める佐伯晋介氏は、災害時に被災情報の集約と各部署への指示伝達を担う立場で、普段から庁内に限らず県庁や近隣自治体と防災関連のやり取りを行う業務がメインとなっている。

佐伯氏は、同町の防災対策における課題を次のように語る。
「町域が広いということは、カバーすべきエリアも広範囲にわたるということ。にもかかわらず、人口減少が進む中で町の職員数は少なく、限られた人員で対応しなければなりません。加えて、高齢化率が50%を超えているため、災害に際して高齢者がいかに安全に避難できるようにするかが大きな課題となっています」

  • 佐伯氏

2018年まで消防士・救急救命士として現場で活躍し、定年退職後は同町の防災専門員として消防局・消防団の活動を支援している渡邊勝也氏も「やはり最大の問題は高齢化率です。自助共助は限界に達しており、そこを今後どうフォローしていくかはとても難しい問題です」と証言する。

  • 渡邊氏

この地域では2000年、マグニチュード7.3の鳥取県西部地震が発生。日南町も震度6クラスの強い揺れを経験し、家屋損壊などの被害が出た。しかしそれから20年以上が経過し、町民の危機感も薄れつつあったと、災害時に町長を補佐し避難等を牽引する総務課防災監兼総務室長の岸稔生氏。「当時よりさらに高齢化が進展し、以前はできたことも困難になりつつあるので、防災対策についても考え直すべきタイミングを迎えていました」と話す。

  • 岸氏

従来、災害時の対応としては、町内各地で発生した被災情報の連絡を電話やFAXで受け、内容を災害対策本部のホワイトボードにまとめるといったように“アナログ”のツールを使ってきた。佐伯氏はこれらの対応について「一つ一つの作業にどうしても時間を要してしまいますし、情報の集約・整理・連携が大変でリアルタイムの把握も難しく、課題となっていました」と語る。

ただ、同町としてもデジタルツール導入による防災対策の高度化・DXを推進するにあたり、「高齢化もあってなかなかアナログから脱却できない」(佐伯氏)、「高齢者はデジタル機器を使いこなすのが難しく、もどかしい」(渡邊氏)といった懸念・問題点を感じていたという。

「Spectee Pro for elgana」という選択肢に着目

日南町が直面するこうした課題を解決する手段の一つとして候補に上ったのが、NTT西日本で導入サポートを行っている「Spectee Pro for elgana」だ。

「Spectee Pro for elgana」は、SNSや気象・道路・河川情報といったインターネット上のデータをAIにより自動収集・可視化する災害対応ソリューション「Spectee Pro」(株式会社Spectee)と、NTT西日本のビジネスチャット「elgana®(エルガナ)」を連携させた防災DXサービスである。各現場で撮影して「elgana®」に送信された画像データを「Spectee Pro」の地図上にプロットして、わかりやすく可視化できる。これまで口頭や電話・FAX、メール、ホワイトボード等を用いて行っていた災害時の情報収集を手軽にデジタル化し、災害情報のスムーズな集約に寄与するソリューションだ。

  • Spectee Pro for elganaのイメージ

    比較的導入しやすい予算感ということもあり、自治体からの引き合いも増えている「Spectee Pro for elgana」。

きっかけは2023年2月頃、NTT西日本から紹介を受けたこと。実は同町とNTT西日本はそれまでにも情報システムなどでつながりがあり、同町の防災DX実現に向けた課題を聞いたNTT西日本が提案した形だ。

「これまでは町民からの被害報告も電話やFAXが中心で、どこどこで山が崩れていると聞いても視覚的に見えず、実情の把握に難しい部分がありました」と佐伯氏。「Spectee Pro for elgana」なら現地の写真が地図上に表示されるので、被災状況をビジュアルで瞬時に確認できるようになることから、同年夏、デモ版導入によるトライアルを開始した。

町民参加の防災訓練で被災情報発信・集約を検証

同町では基本的に毎年、10月1日に防災訓練を実施している。2023年の防災訓練では「Spectee Pro for elgana」を実際に取り入れ、使い勝手や利便性、メリット、課題等を検証した。役場職員を現場調査係として町内各地に派遣し、豪雨災害・土砂災害を想定して現地で撮った写真を「elgana®」に送信、それを「Spectee Pro」で集約して、役場の災害対策本部で確認するという取り組みだ。

  • 防災訓練の様子

    防災訓練の様子。

日南町では旧小学校区を単位とした7つの地域それぞれにまちづくり協議会が設置されており、各協議会が災害の際は現地対策本部を設けるなど地域の防災組織の役割も果たす。防災訓練ではそのうち1つの協議会の協力を得て、地域住民に「elgana®」への写真送信を実際に試してもらう試みも併せて実施した。

訓練の結果、「Spectee Pro」の一つの画面上で、多くの現場から報告された情報を写真付きで一覧できた点を佐伯氏は高く評価。「普段使っているチャットツールに投稿するような感覚で利用しやすく、投稿した情報が地図上に反映されていくのが魅力的でした」と話す。従来は集まった情報をまずホワイトボード上にまとめ、のちに紙で記録していたため事後見直すのに手間がかかる部分もあったところ、「デジタル化されればあとから簡単に見直せる点も有用だと感じました」と振り返る。

  • Spectee Pro for elganaのインターフェース

    「Spectee Pro for elgana」のインターフェース。「被害状況を示す写真が地図とセットで表示されるため、避難指示を出す町長も的確な判断を下しやすいように見えました」と岸氏も訓練を振り返る。

渡邊氏は主に避難所での訓練を担当し、現地での情報発信や送信された情報の集約に直接は関わっていなかったものの、避難所で「Spectee Pro」の画面をときどき確認し、進捗状況を把握していたという。

とにかくわかりやすかったですね。紙の地図に書き込むと地図があるテーブルまで行かないと情報を見られませんが、これなら離れた場所で確認できる点も便利に感じました」(渡邊氏)

岸氏もこう語る。
「これまでは住民から口頭で細かな地名を伝えられると、その地域になじみのない職員は瞬時に場所を把握できないケースがありました。その点、地図上に表示されるので位置情報を把握しやすく、写真から状況も具体的にイメージできるので、とてもありがたく感じました。また、従来のように口頭で聞き取った情報を改めて紙の地図上に書き込む必要がなく、情報連携もよりスムーズに進みました」

もちろん従来のホワイトボードにも、誰もが瞬時に記入・消去でき、大勢の人間で同時に見やすいというアナログならではの利点がある。佐伯氏は今回の防災訓練を経て、ホワイトボードの活用は続けつつ、「Spectee Pro for elgana」などのデジタルツールも組み合わせ、それぞれをうまく使い分ける“ハイブリッド”の形が最適解になっていくのではないかと今後を見据える。

  • 防災訓練の様子

    防災訓練の様子。

トライアル導入から防災訓練実施へと至る中で、NTT西日本が提供したサポートについては佐伯氏が次のように評価する。
「こちらの要望をよく聞いてくれたうえ、頻繁に連絡をもらえたこと、さまざまな情報を提供してくれたことで、わからないことはほとんどなくスムーズに仕事が進められました。『Spectee Pro for elgana』の操作に関しても丁寧に教えてもらえたので、手厚いサポートに感謝しています」

地域連携を視野に入れた防災の未来を描き始める

現在、日南町では「Spectee Pro for elgana」導入に向け予算要求している段階だ。岸氏は「Spectee Pro for elgana」導入が実現した際の展望をこう話す。
「職員数が不足する中、防災に関する仕事は増えているため、デジタルを活用しながら業務効率化を図っていかなければ対応はどんどん難しくなります。DXにつながるシステムを積極的に活用し、省力化やスピードアップを進めて、防災をはじめさまざまな課題に取り組んでいきたいと考えています」

  • 岸氏と渡邊氏

佐伯氏は、トライアルと防災訓練で検証した情報集約のメリットに加えて「『Spectee Pro for elgana』が実装された暁には、鳥取県庁や中国電力、NTTといったインフラ事業者、さらに近隣自治体などさまざまな関係者とチャットを介した情報共有が実現する点を、防災担当として非常にありがたく感じます」と期待感を語る。近年は地域連携による防災の取り組みも増加している。佐伯氏の言葉から、日南町が防災DXへの着実な一歩を踏み出し、地域をリードしていく未来の姿を感じることができた。

  • 3名の集合写真

Spectee Pro for elgana
について詳しくはこちら

※「elgana®」は、西日本電信電話株式会社の登録商標です。

~コラム~

豊かな自然と歴史や文化の香りに触れることができる日南町。ここではおすすめ観光スポットを紹介しよう。

<自然>
・聖滝(ひじりだき)

  • 聖滝(ひじりだき)

コノハナサクヤヒメとニニギノミコトが結婚の議を挙げた伝説のある、神々しくもダイナミックな縁結びの滝。散策路を15分ほど歩いていくのでちょっとした森歩きも楽しめる。近くには築100年の登録有形文化財「古民家かつみや」があり、体験型農家民泊を楽しめる。

・菅沢ダム(日南湖)

  • 菅沢ダム(日南湖)

日南湖の湖水と湖畔の木々が織りなす新緑、紅葉、雪模様など季節それぞれの景色が美しい。今後カヤックなどアクティブ派向けプログラムも開催が予定されている。

・ホタルとオオサンショウウオ

  • ホタルとオオサンショウウオ

福万来ホタル乃国は、山のヒメボタルと川のゲンジボタルを一緒に観賞できる全国的に見ても珍しいスポット。また、町には特別天然記念物のオオサンショウウオが多く棲み、町公式キャラクターはなんと「オッサンショウオ」!

<文化・歴史・産業遺産>
・たたら製鉄

  • たたら製鉄

日本古来の製鉄法である「たたら」が行われていた日南町。「印賀鋼(いんがはがね)」の産地として知られ、往時のたたらを偲べる日南町指定史跡の「下谷中山鉄山跡(しもたんなかやまてつざんあと)」が残る。

・若松鉱山

  • 若松鉱山

明治から平成までほぼ100年にわたりクロムが採掘されていた鉱山。一時期は日本最大の産出量を誇った。近代化産業遺産に選ばれており、見学も可能(要予約)。

・“福”のつく神社

  • “福”のつく神社

因幡伯耆国開運八社の「樂樂福神社(ささふくじんじゃ)」「福榮神社(ふくさかえじんじゃ)」「福成神社(ふくなりじんじゃ)」など、社名に”福”を冠した縁起のよい神社が多くある。ほかにも、「大石見神社(おおいわみじんじゃ)」は復活再生のパワースポットとして知られる。

(コラム取材協力・写真提供:一般社団法人 山里Loadにちなん)

Photo:photographer_eringi

[PR]提供:NTT西日本