4月の終わりとともに春ドラマが出そろい、連日さまざまな記事が報じられ、SNSにもさまざまな反響が飛び交っている。

主要作がそろったこのタイミングで、「本当に質が高くて、今後期待できる作品」を日本唯一のドラマ解説者・木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、今回の前編では「2024年春ドラマ主要23作の傾向とおすすめ5作」、次回の後編では「目安の採点付き全作レビュー」を挙げていく。

2024年春ドラマの主な傾向は、【[1]強力主演が生み出した“多彩な品ぞろえ” [2]過去の事件、謎の死、記憶喪失…かぶりまくる春の異変】の2つ。

  • 『Destiny』出演の石原さとみ

傾向[1]強力主演が生み出した“多彩な品ぞろえ”

今春は『Believe -君にかける橋-』(テレビ朝日、木曜21時)の木村拓哉(51)、『イップス』(フジ、金曜21時)の篠原涼子(50)、『アンチヒーロー』(TBS、日曜21時)の長谷川博己(47)、『ダブルチート 偽りの警官 Season1』(テレビ東京、金曜20時)の向井理(42)。

『ブルーモーメント』(フジテレビ、水曜21時)の山下智久(39)、『ミス・ターゲット』(ABC制作・テレ朝、日曜22時)の松本まりか(39)、『Destiny』(テレ朝、火曜21時)の石原さとみ(37)、『ACMA:GAME アクマゲーム』(日本テレビ 日曜22時30分)の間宮祥太朗(30)、『Re:リベンジ-欲望の果てに-』(フジ、木曜22時)の赤楚衛二(30)。

『9ボーダー』(TBS、金曜22時)の川口春奈(29)、『366日』(フジ、月曜21時)の広瀬アリス(29)、『花咲舞が黙ってない』(日テレ、土曜21時)の今田美桜(27)、『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ制作・フジ、月曜22時)の杉咲花(26)、『街並み照らすヤツら』(日テレ、土曜22時)の森本慎太郎(26)、『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS、火曜22時)の生見愛瑠(22)。

こうして並べればわかるように各世代を代表する主演俳優がゴールデン・プライム帯にそろい、民放各局にとって「勝負の春」という様子がうかがえる。さらに強力主演をキャスティングできたからこそ、さまざまなジャンルの作品に思い切って挑み、結果的に春ドラマは“多彩な品ぞろえ”につながった。

刑事、医療、法律、家族、ラブコメ、ラブサスペンス、ヒューマン、企業エンタメ、復讐劇、クライムサスペンス、デスゲーム……「ほぼかぶりなし」と言っていいだろう。いずれにしても、「好きな主演俳優で選ぶか」、それとも「ジャンルで見る作品を選ぶか」、どちらもできるバランスのいいラインナップとなった。

前期は、医療、ファンタジー、続編モノなどでジャンルのかぶりが顕著だっただけに、バラけた今期は「どのジャンルがどれだけコア層の個人視聴率と配信再生数を集められるのか」。今後のマーケティングに向けた参考データになるだろう。

  • 『アンチヒーロー』出演の長谷川博己

傾向[2]過去の事件、謎の死、記憶喪失…かぶりまくる春の異変

今春ドラマは、前述したようにジャンルのかぶりはほぼない一方で、“不穏な設定”はかぶりまくっている。

過去の事件は『アンメット』『Destiny』『ブルーモーメント』『アンチヒーロー』『ACMA:GAME』など、謎の死は『Destiny』『ブルーモーメント』『Believe』『Re:リベンジ』『ACMA:GAME』など、記憶喪失は『366日』『アンメット』『くるり』『9ボーダー』など。ネット上には序盤から「また?」「なぜ?」「安易では」などの戸惑いや疑問の声もあがっている。

これらの不穏な設定はミステリーとして連ドラの1クールを貫く“大テーマ”に直結させられる上に、登場人物の人生を劇的なものに変えられる即効性の高いもの。シンプルな脚本・演出だけに視聴者に理解されやすく、序盤から幅広い世代からの興味を引きつけられる。

いずれの設定も視聴者に「自分にも起こりうることかもしれない」と思わせられるギリギリのライン。振り返ると前期は「ありえない」が前提のファンタジー作が6作も放送されていた。つまり、前期は「ありえない」ファンタジー、今期は「ギリギリありえるかもしれない」不穏な設定という傾向で各局が一致した様子がわかるのではないか。

不穏な設定はクライマックスに近づくほど、事件の核心に迫り、死因の解明が進み、記憶が戻るなど物語が大きく動き出し、盛り上がりを増していく。その意味で中盤から終盤に向けてネット上をにぎわせそうな作品がそろったのは間違いない。


  • 『ブルーモーメント』出演の山下智久

  • 『おいハンサム!!2』出演の吉田鋼太郎

  • 『からかい上手の高木さん』出演の江口洋介

これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『からかい上手の高木さん』『Destiny』の2作。

『からかい上手の高木さん』は、漫画とアニメの世界観を大切にしつつも、甘酸っぱく切ないムードを加速させ、子どもから大人まで万人が楽しめるドラマとして昇華。月島琉衣と黒川想矢のみずみずしい表情を引き出す今泉力哉監督の演出も出色で、「決して永野芽郁と高橋文哉を立てて公開を控える映画版の前座ではない」というクオリティを見せている。

『Destiny』は、「20年の時をめぐるサスペンス×ラブストーリー」という壮大なコンセプトに挑むスタッフの意気込みに俳優たちが呼応し、映像から現場の熱が伝わる作品に。大学時代の長野と現在の横浜を描き分けて飽きさせない脚本・演出は巧みで、「最終回に向けて盛り上がる」という連ドラの醍醐味を最も感じられる作品になりそう。

その他では、『ブルーモーメント』は、原作漫画をテレビドラマ向けにエンタメ化した脚色で大衆に訴えかけられる王道の仕上がり。『おいハンサム!!2』は、続編でもエピソードのセンスと芝居の密度は落ちず高水準をキープ。『アンチヒーロー』は、長谷川博己の法廷シーンだけでも見応え十分で、謎を効果的に生かした脚本やPRも巧み。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。

2024年 春ドラマおすすめ5作

  • No.1 からかい上手の高木さん (TBS 火曜23時56分)
  • No.2 Destiny (テレ朝 火曜21時)
  • No.3 ブルーモーメント(フジ 水曜22時)
  • No.4 おいハンサム!!2 (東海テレビ・フジ 土曜23時40分)
  • No.5 アンチヒーロー (TBS 日曜21時)