新入社員が社会人としてスタートを切る、4月1日の"入社式"。個性的な演出や趣向を凝らした入社式で新入社員を迎える企業もある。

賃貸住宅情報提供会社のCHINTAIもその1社だ。2014年度から実施している"暗闇入社式"を、2019年度以来、5年ぶりに開催した。

  • "暗闇入社式"に挑む前に説明を受ける、CHINTAIの2024年度新入社員

入社式は「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」手法で進む

開催場所は、東京・港区にある、ダイアローグ・ジャパン・ソサエティが運営する「ダイアログ・ダイバーシティ ミュージアム 対話の森」という施設。

2020年8月にオーブンした「アトレ竹芝」の1階に常設の施設内の"ダイアログ・イン・ザ・ダーク"と呼ばれる、完全に光を遮断した照度ゼロの暗闇空間で、アテンドと呼ばれる視覚障碍者の案内のもと、聴覚や触覚など視覚以外の感覚を使って日常生活のさまざまなシーンを体験するソーシャル・エンターテイメントの手法を用いて行われた。

  • 暗闇入社式の最中は、各グループに1名ずつ視覚に障碍のあるスタッフがアテンドを務め、進められる

  • 暗闇の中では1人1本ずつ白杖を携えて進む。何も見えない真っ暗な状態の中、足元を杖で確かめ、壁や人などの障害物を手探りしながら、声を頼りに進んでいく。視覚以外の感覚を研ぎ澄ませる必要がある

2024年度の同社の新入社員は、女性4人、男性3名。

代表取締役社長と副社長、取締役、執行役員各1名、執行役員、人事担当者各2名、広報担当者1名も加わった計15名の社員が2グループに分かれて、お互いの顔も表情も見ることができない真っ暗闇の中、協力し合って複数のアトラクションに挑んだ後、改めて新入社員に向けた激励の言葉や所信表明を行う入社式が行われた。

入社式を暗闇で行う意図

アテンドのガイドのもと、暗闇空間に導かれたそれぞれのグループは、森をイメージしたスロープや入り組んだ道を助け合いながら進んでいき、たどり着いた場所でまずはラジオ体操による準備運動を行った後、ミニ運動会として"玉入れ"を行う。

その後は引退した本物のジーゼル車の車両の向かい合わせのボックスシート席で、"ふるさとへの旅"をイメージして、各々の出身地を紹介し合うなど、交流を深め合う。

その後は"新生活における理想の部屋"をイメージして自分の部屋に置きたいものを紙粘土を用いて創作。それらを言葉や触覚を頼りに紹介し合うことで、さらに個人個人の人となりを理解する交流が図られた。

  • "新生活における理想の部屋に置きたいもの"をテーマに真っ暗な中で創作された紙粘土の作品の一例

そして最後に辿り着いたのが"CHINTAI高原"と名付けられた芝生の広場。目には見えないがその感触を確かめ、およそ90分のアトラクションを通じてすっかり距離が縮まった中で、円座となり、ソフトドリンクで乾杯し、暗闇でのコンテンツは終了となった。

CHINTAI 経営管理室 グループリーダーの浅野由里絵氏によると、暗闇入社式を最初に検討した当時は選考段階で1泊2日の合宿を行うなどユニークなプログラムを採り入れていたとのこと。

「入社式でも会社ならではの独自性を示し、新入社員が自由にアイディアを提案できる企業文化を再確認してもらいたい」と暗闇入社式を企画した当時の経緯を説明。

また、「固定観念に縛られず、自由な発想で仕事に取り組み、新しい挑戦を恐れずに進んでほしい」という新入社員へのメッセージを込めている。五感をフル活用して常に周囲にアンテナを張り巡らせて、新たなサービスや価値を創出してほしい」と意図や思いを語った。

なお、コロナ禍を経て5年ぶりの開催となった「暗闇入社式」は、毎回、ダイアローグ・ジャパン・ソサエティのプロデュースのもと行われているという。

  • 暗闇入社式の会場となった、東京・港区の「ダイアログ・ダイバーシティ ミュージアム 対話の森」の入り口

ダイアローグ・ジャパン・ソサエティのファウンダーで理事の志村真介氏によると、"ダイアログ・イン・ザ・ダーク"は、1988年にドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケの発案によって誕生したワークショップ。

以来、世界47ケ国以上で行われており、日本では1999年に開催されたのが初めて。

  • "ダイアログ・イン・ザ・ダーク"の概要説明のパネル展示

「暗闇の中でお互いが助け合うことで関係がフラットになるのがポイントです。空間では、ただ暗くするのではなく物語性を持たせ、クリアして仲良くなるためのスペシャルコンテンツを用意しています。入社式が終わった後、暗闇から明るいところへ出る出口は、新入社員の皆さんがこれから社会人として入り口に立ち、旅立っていくメタファーの意味もあります」と説明した。

  • 暗闇入社式を終え、明るい世界に戻り、眩しそうに出て来る参加者

新入社員の感想

暗闇の中ではニックネームで呼び合い、普段の肩書きや立場を置いた、フラットなコミュニケーションを実現できるのも本入社式のポイントの1つだ。

実際、入社式を終えた新入社員の宮本崚星さんは「役職のある方とフラットに話せることが貴重な機会でした。これまであった壁がなくなりました」と感想を語り、有意義な機会を感じている様子だった。

  • 暗闇の中、代表取締役社長 奥田倫也氏の「推し」の趣味なども聞けるなど、ざっくばらんに話せたと言う

今年度の新社会人は、学生生活の中でコロナ禍を経験した世代。

CHINTAIの浅野氏は「いろいろできなかったことや、未来に不安を抱えた時期もあったかもしれない。社会人としてのスタートは、まるで暗闇を歩くような不安があるかもしれないが、自ら挑戦をしようと望む新入社員の皆さんを役員や先輩社員がフラットに支え、サポートする企業であることを伝えたい。純度100%の暗闇という非日常を入社初日から役員と共に体験することで、新入社員一人ひとりにさまざまな気づきや発見を感じ取っていただきたいと思います」と言う。

新入社員の寺町真衣さんは「採用活動中に感じていた、積極性や個性を大切にするという会社の印象を今回の入社式を通じて改めて確信しました」と話した。

浅野氏は「固い入社式では出てこない、自分らしさのようなものを出してもらえたのではないか」と、5年ぶりに開催された暗闇入社式の意義と成果への実感を語ってくれた。