東武鉄道「スペーシアX」が好調だ。3月16日のダイヤ改正に合わせ、2編成を増備して4編成体制となった。日光・鬼怒川方面を増強するほか、浅草駅以外の駅から臨時列車や団体貸切列車も設定可能に。臨時列車は埼玉県発の実績があり、今後は千葉県発・群馬県発も設定するという。

  • 特急「スペーシアX」専用車両N100系。ダイヤ改正後は4編成体制に

ダイヤ改正前後を比較してみよう。「スペーシアX」(N100系)は昨年7月に2編成でデビューし、改正前は1日あたり最大4往復設定していたが、このうち2往復(下り「スペーシアX 1・5号」、上り「スペーシアX 2・6号」)は「車両の定期検査」を理由に木・金・土休日のみの運転となっていた。月~水曜日は運休し、代わりに同じ時間帯で「スペーシア」(100系)を使用した特急「けごん」が走った。

「スペーシアX」の最終列車(改正前)は鬼怒川温泉駅を16時台に発車していた。夕方以降にもう1往復設定できそうだが、日没以降は需要がないという判断だろう。「スペーシアX」の最大の魅力といえば、先頭車両の「コックピットスイート」「コックピットラウンジ」であり、夜間に走らせても車窓の眺望を期待できない。

  • ダイヤ改正前の特急「スペーシアX」運行状況(東武鉄道が公開した特急時刻表をもとに、列車ダイヤ描画ソフト「OuDia」で作成)

東武鉄道は6日を超えない期間ごとに列車の「日常検査」、3カ月を超えない期間ごとに「月検査」を実施。ここまでは東武鉄道内で検査している。その上で、4年または走行距離60万kmを超えない期間ごとに「重要部検査」、8年ごとに「全般検査」を行う。「月検査」「重要部検査」「全般検査」は、国土交通省の「施設及び車両の定期検査に関する告示」で定められており、車体の分解組立てを伴う「重要部検査」と「全般検査」は工事用部門の「東武インターテック」が担っている。

つまり、2編成をつねに運用していると、各種検査を行う日程がなくなる。そのため、月~水曜日の3日間、N100系を1編成ずつ交代で運休し、検査に充てていた。「重要部検査」「全般検査」の場合、1日では足りないから長期運休する必要がある。そこで東武鉄道は2編成を追加し、長期間の運休に備えた。

  • ダイヤ改正後の特急「スペーシアX」運行状況(東武鉄道が公開した特急時刻表をもとに、列車ダイヤ描画ソフト「OuDia」で作成)

ダイヤ改正後、2編成増備することで月~水曜日のN100系運休・100系代走は解消され、2往復の増便も達成した。このうち1往復を鬼怒川温泉方面に振り向け、東武日光方面を4往復、鬼怒川温泉方面を2往復とした。改正後の最終列車は上り「スペーシアX 12号」で、東武日光駅を17時台に発車し、浅草駅到着は夜になってしまうが、この列車は下今市駅で「SL大樹」の最終列車(鬼怒川温泉駅16時45分発「SL大樹8号」)から乗り継げる。

鉄道ファンは東武日光駅の11時47分から11時55分までの時間に注目してほしい。下り「スペーシアX 3号」が東武日光駅に到着し、折返しの上り「スペーシアX 4号」として発車する前に「スペーシアX 5号」が到着する。1日のうち、N100系が並んで停車する時間はこの8分間だけ。下今市駅では、1日1回だけ「スペーシアX」同士のすれ違いがある。

ダイヤ改正後の運行状況を見ると、4編成のうち3編成を運行しているとわかる。1編成は使われていない。長期間にわたる「重要部検査」「全般検査」に備えているといえる。ただし、1年中ずっと検査しているわけではない。検査をしないで待機させるにはもったいない。そこで、空いた1編成を使い、「臨時列車・団体貸切列車を柔軟に設定可能」とした。

臨時列車の第1弾は3月12日に運行された。ダイヤ改正が行われる前だったが、火曜日なので2編成のうち1編成が空いていた。臨時列車は東武アーバンパークライン(野田線)の大宮駅から東武日光駅へ運行。大宮駅を10時20分に発車し、春日部駅で東武スカイツリーラインに乗り入れ、東武動物公園駅から東武日光線に入り、東武日光駅到着は12時21分。約3時間の滞在後、東武日光駅を15時26分に発車し、そのまま浅草駅へ向かった。

今後の運行に関して、6月頃に群馬エリア方面、8月頃に千葉エリア方面から臨時列車を予定しているとのこと。詳細は明らかにされていないが、路線図を見ながら予想しても楽しい。

  • 東武鉄道の路線図。赤線はN100系の運行実績がある路線、青線は東武鉄道の特急車両を運行した実績がある路線

群馬エリアのおもな路線として、伊勢崎線、桐生線、小泉線が挙げられる。主要駅は赤城駅、伊勢崎駅、太田駅、館林駅など。赤城駅や伊勢崎駅の場合、日光方面は東武鉄道だと遠回りになってしまうから、最有力は館林駅だろうか。あるいは遠回りを承知で、伊勢崎発または赤城発の「スペーシアX」を楽しむツアーになるか。

千葉方面の路線といえば東武アーバンパークライン(野田線)だろう。柏発になるか、それとも柏駅のスイッチバックを通って船橋発になるか。船橋発のほうが多くの人々に喜ばれそうに思える。その他の可能性を考えれば、いままでに東武特急が乗り入れた路線はすべて対象となるかもしれない。東武宇都宮発東武日光行も、JR日光線と比べて遠回りになってしまうが、車内を楽しむ時間が増えると考えればアリだろう。

もうひとつ気になることといえば、JR線に乗り入れる新宿発があるかどうか。「スペーシア」(100系)はJR新宿駅発着の列車が運転されるだけでなく、新宿駅以遠に乗り入れた実績があり、今年の春も中央線八王子駅発着の臨時特急「スペーシア八王子日光」「スペーシア八王子きぬ」が設定されていた。

東武鉄道とJR東日本は保安装置(ATS)の方式が異なるため、直通運転を行うために両方の装置を搭載する必要がある。いまのところN100系には搭載されていないため、「スペーシアX」はJR東日本の路線に直通できない。

ただし、「スペーシアX」の報道試乗会で筆者が東武鉄道の担当者に聞いたところ、「東武鉄道としてはJR乗入れを否定するつもりはない。将来的にはあるかもしれない。JR東日本の意向次第」とのことだった。N100系1編成が長時間待機できる状況になったので、その間にJR東日本の保安装置を整備できる可能性がある。こちらも楽しみだ。

臨時運行だけでなく、団体列車を設定することで、個人やグループ客と団体客を分離しても良いだろう。筆者が最近閲覧したブログによると、ある観光列車において、団体客の一部の酔客が騒いでおり、困惑したという。鉄道事業者としては、団体客も大事にしたいだろう。一方で、リゾート列車の雰囲気も大切にしたい。酔客を混乗させるくらいなら、団体専用列車を仕立てて、乗客を分離させたほうがいい。

「スペーシアX」の4編成化でうまれた1編成分のゆとり。今後、どのようなルートや企画のツアーが生まれるだろうか。楽しみになってきた。