東武鉄道は6・7日、新型特急車両N100系「スペーシアX」の報道関係者向け試乗会を実施した。筆者は6月6日に浅草駅から東武日光駅まで「スペーシアX」に試乗し、その乗り心地を体験。あわせてカフェ営業の概要が発表され、試食・試飲の場も設けられた。

  • 東武鉄道が「スペーシアX」の報道関係者向け試乗会を開催。東武日光駅まで運転された

■走行中に「スタンダードシート」「プレミアムシート」など体験

試乗会の当日、「スペーシアX」は10時16分に浅草駅4・5番線へ入線。先頭車両は丸みを帯びた流線形としつつも、より洗練されたフォルムになっている。前照灯が点灯する際、東武鉄道の頭文字「T」のように見えるなど、遊び心も感じられる。外観のカラーリングは、日光東照宮陽明門に塗られた「胡粉」をほうふつとさせる白色を採用。若干青みがかったようにも見える。

先頭車両の側面窓には、鹿沼市の伝統工芸である組子にも用いられる幾何学模様の意匠が取り入れられ、六角形の形状に。窓の周囲にデザインされた黒い三角形も含め、「X」を表しているようにも見える。中間車両の窓は四角形となっている。

  • 先頭車両の外観。六角形の客室窓が特徴。1号車と6号車で配置パターンが異なる

現在、浅草駅5番線には仮囲いが置かれ、立入禁止となっているが、「スペーシアX」専用ホームとしてリニューアルした上で、7月15日から供用開始する予定。リニューアル後の5番線では、日光の自然の荘厳さを感じさせる木目調の装飾や光の演出を施すという。社有林の間伐材を使用したベンチも設置される。

報道関係者らを乗せた「スペーシアX」試乗列車は、10時30分に浅草駅を発車。東武日光駅までの走行中、1号車「コックピットラウンジ」と6号車「コックピットスイート」の取材時間も設けられた。「スペーシアX」のシートバリエーションは全6種類。筆者は「コックピットラウンジ」「コックピットスイート」の取材時間を待つ間に、他の4種類の座席も体験し、各座席の特徴だけでなく、座り心地も確かめていった。

まずは3~5号車の「スタンダードシート」。横4列(2列+2列)の配置で、各席にインアームテーブル、大型背面テーブル、ドリンクホルダー、電源コンセントを設置している。5号車の一部座席はバリアフリーにも対応。「スペーシアX」の中では一般的なタイプの座席だが、シートピッチは現行「スペーシア」と同じく1,100mmで、前後の間隔が広い。実際に座ってみても、ちょうど良い快適さを感じられる座り心地だった。窓は横1列ごとに割り振られ、上下に広く取られているため、どの席からも平等に車窓風景を楽しめる。

「スタンダードシート」の料金は、今回の行程と同じ浅草~東武日光間を例にすると1,940円。一方、浅草~東武日光間の運賃はICカード利用で1,393円、きっぷ利用で1,400円のため、きっぷで購入する場合の合計は3,340円となる。

  • 3~5号車「スタンダードシート」。インアームテーブルも用意している

  • 半個室「ボックスシート」は5号車に2室のみ。テレワーク等にも便利

  • 客室扉上のディスプレイは4カ国語で案内される

5号車の4号車寄りにある2室は「ボックスシート」。2つの座席が向かい合う半個室となっている。各席の窓側にテーブル、電源コンセントを設置。6号車「コンパートメント」ほどプライベート性は高くないものの、仕切られた空間をリーズナブルに利用できる点で、こちらが有利かもしれない。

「ボックスシート」の座り心地はしっかりしており、背もたれもリクライニングしない。ゆっくりくつろぐというより、テレワーク等の作業に向いているのではないかと感じた。「ボックスシート」を利用する場合、乗車区間の運賃と「スタンダードシート」料金に加え、特別座席料金として400円が別途必要になる。

続いて2号車「プレミアムシート」を体験。座席は横3列(1列+2列)の配置で、1席あたりの幅が広い。東武特急では初というバックシェル構造を採用したため、後ろの席を気にせずリクライニングできる。可動式の枕のもとに読書灯、ドリンクホルダー側の肘掛けに電源コンセントを設置したほか、電動リクライニング操作ボタン側の肘掛けに折畳み式のインアームテーブルを収納している。

  • 2号車「プレミアムシート」。ドリンクホルダーの下に電源コンセントも

  • 背もたれを倒し、インアームテーブルを展開した状態。枕も動かせる

  • 2号車を含む車内5カ所に大型荷物置場を設置。交通系ICカードをカードキーとして使用する

筆者も「プレミアムシート」に着席してみた。やはり3列であるがゆえにシート幅が広く、ゆったり背中を預けられる。座席幅を広く取っているためか、座り心地も「スタンダードシート」より一段と快適に感じた。ただし、バックシェル構造なので背面テーブルがない。インアームテーブルは出し入れする際、手を挟まないように気をつけたいところ。可動式の枕はV字型に折れ曲がり、首の部分を支えることができる。より快適に過ごしたいときに役立つだろう。

「プレミアムシート」は「スタンダードシート」と異なる料金を適用しており、浅草~東武日光間の「プレミアムシート」料金は2,520円。きっぷ購入時の運賃1,400円を合計すると3,920円になる。

客室内のディスプレイは多言語対応で、日本語・英語・中国語・韓国語による案内表示が行われる。2号車デッキを含め、車内の5カ所に大型荷物置場も用意している。手持ちの交通系ICカードをカードキーとして使用し、ロックもできるので、荷物が大きい、または多い場合は試してみてほしい。

■1号車「コックピットラウンジ」、日光と「ご縁」深めるカフェも

3種類のシートを体験したところで、1号車「コックピットラウンジ」とカフェ実演の取材時間となった。「コックピットラウンジ」は「時を超えるラウンジ」をコンセプトに、国内最古のリゾートホテル「日光金谷ホテル」や大使館別荘をモチーフとした空間になっている。座席は1人用・2人用・4人用のソファを用意し、ローテーブルを挟んで向かい合って座ることができる。テーブル付近の側壁に電源コンセントも。1人用ソファは硬すぎず柔らかすぎずちょうど良い座り心地。2人用ソファは、腰掛けると座面が沈み込むほどゆったりしていた。備え付けられたクッションも非常に柔らかく、十分快適に過ごせるだろう。

東武日光・鬼怒川温泉方面へ走行する際、「コックピットラウンジ」のある1号車が先頭になる。客室と乗務員室の仕切りがガラス張りになっているので、これまでの東武特急では体験できなかった前面展望も楽しめる。コーヒーやビールを片手に、車窓風景の移り変わりをより体感しやすくなるに違いない。

「コックピットラウンジ」を利用する場合、通常運賃と「スタンダードシート」料金に加え、特別座席料金として1人用は200円、2人用は400円、4人用は800円が必要。4人用座席は2名以上から利用できる。

  • 1号車「コックピットラウンジ」。1人用・2人用・4人用ソファで過ごせる

  • ゆったり腰掛け、六角形の窓から車窓風景を眺められる

  • 東武日光・鬼怒川温泉方面への走行時、前面展望も楽しめる

  • デッキ寄りに設置されたカフェカウンター。軽食・スイーツとともに日光のクラフトビール・クラフトコーヒーも提供

カフェカウンターは「コックピットラウンジ」のデッキ側に設置されており、その名も「GOEN CAFE SPACIA X(ゴエンカフェ スペーシアエックス)」。「GOEN」の名前に「五猿」と「ご縁」の意味が込められ、立ち寄るだけで日光との「ご縁」が深まるだけでなく、五感で日光とつながる体験を通して、利用者に忘れられない旅の思い出を提供したいとの思いが込められているという。

メニューには、栃木の食材を知り尽くしたマイスターと共同開発した「スペーシアX」限定のクラフトビール・クラフトコーヒーをはじめ、同車限定(または限定パッケージ)の軽食・スイーツを提供。日光・鬼怒川まで約2時間の乗車時間で旅の期待感を醸成するため、現地到着までにお腹一杯とならないようなメニューを設定したとのこと。日光・鬼怒川から東京に帰るときも、現地の食と合わせ、旅の余韻に浸れるようなメニューを設定している。

■6号車は個室空間、上質なくつろぎを提供

その後、6号車「コンパートメント」を見学。6号車のデッキ側に4室(1室最大4名)設置され、通路側の窓も含め、各室に六角形の窓が配置されている。室内の中央に設置されたテーブルは可変式で、折り畳んである部分を展開することで、幅を広く取って使用できる。個室での過ごし方はグループによってさまざまだが、プライベート性を確保しつつ、コの字型の座席を活用して存分にくつろぎ、家族・友人らで談笑しながら、ゆったり過ごせるのではないかと思う。

「コンパートメント」を利用する場合、通常運賃と「スタンダードシート」料金に加え、特別座席料金として1室6,040円かかる。

  • 6号車の4室が「コンパートメント」

  • 室内の中央に置かれたテーブルは展開できる

  • ソファでくつろぎつつ、六角形の窓から車窓風景を眺められる

最後に6号車「コックピットスイート」を見学した。6号車の乗務員室側に1室のみ設置され、7名まで利用できる「スペーシアX」の最上級シートとなっている。室内面積は11平方メートル。プライベートジェットをイメージした「走るスイートルーム」をコンセプトとしており、ベージュ色の重厚なソファと人工大理石のテーブルで極上の空間を体感できる。1人用のソファは自由に移動可能としつつ、列車が急停止した場合でも動かないように設計されている。

座席自体は「コックピットラウンジ」と大きく変わらないが、「コックピットスイート」は3人掛けのソファを設置していることに加え、7名までのグループでたった1室を独占できる点で、どの座席よりも特別な空間といえる。浅草方面へ走行する際、6号車が先頭となり、乗務員室との仕切りもガラス張りのため、他の乗客を気にすることなく前面・側面展望を満喫できる。

  • 「スペーシアX」の最上級シートとなる6号車「コックピットスイート」

  • 最大7名で、特別な空間を満喫できる

  • 浅草方面へ走行する際に前面展望も楽しめる

「コックピットスイート」の利用にあたり、運賃と「スタンダードシート」料金に加え、特別座席料金として1室1万2,180円が別途必要。料金は「コンパートメント」の2倍だが、他の乗客を気にせず、ソファでゆったりくつろぎながら極上のひとときを過ごせるものと思われる。機会があれば、ぜひ体験してみてほしい。

ひと通り車内を見学・取材し終えたところで撮影時間が終了。12時21分、「スペーシアX」試乗列車は東武日光駅に到着した。

■カフェカウンター提供メニューの一部を体験

到着後、筆者を含む報道関係者らは東武日光駅を離れ、レストラン「Girouette(ジルエット)」へ移動。「スペーシアX」のカフェカウンターで提供されるメニューの試食会が行われた。まずは「Nikko Brewing」のクラフトビール「NIKKO LAGAR」を試飲。ビール特有の苦みが少なく、飲みやすい。

ビールと一緒に楽しむアペタイザー・スナックも試食した。「Girouette」が提供する「あさのポークのジャーキー」と「頂鱒(いただきます)のスモーク」は、どちらも弾力があり、噛むほどに旨味が引き出される。同じく「Girouette」による「頂鱒とらっきょうのリエット」は、頂鱒のスモークとらっきょうをパテ状にしたおつまみ。パテ状だが、らっきょうのシャキシャキ感が残り、鱒の味と相まって美味しくいただけた。

「伊澤いちご園」による「酒粕と米粉のクラッカービスケット」、「ザ・スタンダード・ベイカーズ」による「オニオンコンソメラスク」も、ザクザクの食感が癖になる。アペタイザーはどれもビールとの相性が良く、合わせることでビールをさらに楽しめる。

  • クラフトビールとアペタイザー・スナック

  • クラフトコーヒーとスイーツ

  • 試食会では、「スペーシアX」のカフェカウンターで提供される各メニューを試食できた

続いて2種類のクラフトコーヒーとスイーツを試食。日光珈琲が手がけた「NIKKO BLEND ~調和~」は、最初の口当たりこそコーヒー独特の苦味・酸味があるものの、すぐに喉奥へ抜けていき、心地良い余韻が口に残る。もうひとつのコーヒー「NIKKO BLEND ~気品~」は酸味のきいたブレンドで、注意深く味わってみると、「NIKKO BLEND ~調和~」との違いがよくわかる。

コーヒーと一緒に試食したスイーツの1品目は、「伊澤いちご園」による「酒粕のバターサンド」。たっぷりのバタークリームがしっとりめのクッキーに挟まり、見た目に違わず濃厚なバターの香りと甘味を感じられる。コーヒーとの組み合わせも非常によく合っている。2品目は「三ツ山羊羹本舗」の「一口羊羹」。こちらも甘味の濃いスイーツだが、バターサンドとは違った上品さがある。一般的には緑茶と一緒に味わいたくなるが、「NIKKO BLEND」との相性も良かった。

他にも日光のクラフトコーラ「ニッコーラ」、酒粕のジェラート、「スペーシアX」限定缶「プティ シガール オゥ ショコラ」など、日光ならではのドリンク・軽食が「スペーシアX」のカフェカウンターで提供される。なお、運行開始後のカフェカウンターでは、「コックピットラウンジ」座席指定券を持っている利用者に優先して販売を行うとのこと。それ以外の利用者はオンライン整理券方式となり、時間内に注文・購入を行う。クレジットカードまたは交通系ICカードでの決済となる。

「スペーシアX」は7月15日デビュー。これに合わせ、浅草駅5番線も「スペーシアX」専用ホームとしてリニューアルオープンする。「スタンダードシート」だけでも現行「スペーシア」より高額だが、今回の試乗会を通して、料金に見合った上質な時間を過ごせることを体感できた。現行「スペーシア」で営業していた当時と方式や価格帯が異なるとはいえ、「スペーシアX」のカフェカウンターで車内販売が復活することもうれしい。引き続き、運行開始を楽しみに待ちたい。