住宅ローン比較サイト『モゲチェック』を運営する株式会社MFSが、今後の金利情報についてお伝えします。解説は、塩澤アナリストと堀江アナリストです。

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日本銀行は3月18〜19日に開催した金融政策決定会合の結果、マイナス金利政策を解除することを決定しました。2016年1月以来およそ8年ぶりに、日本の政策金利がマイナス金利から実質的なゼロ金利政策へと移行することになります。

マイナス金利解除を受け、今後住宅ローン金利はどうなるのでしょうか。結論、モゲチェックでは今後も変動金利は極めて低金利の状態が続くと予想します。

1.日銀の金融政策とマイナス金利解除

住宅ローンや不動産投資ローンの借入条件は、元を辿れば「日銀の金融政策」がベースとなっています。そして日銀の金融政策は短期金利と長期金利、2本立ての金利操作で成り立ってきました。概要は下図の通りですが、このうち短期金利については2016年1月以降、各金融機関が日銀に資金を預ける際の金利である「日本銀行当座預金金利」に▲0.1%のマイナス金利を適用しています。

今回、日銀は金融緩和政策を修正し、短期金利の誘導目標をマイナス金利から実質的なゼロ金利に変更することを決定しました。短期金利を0.0%〜0.1%に誘導する措置は2010年から2016年のマイナス金利導入直前まで実施されていたものであり、マイナス金利導入前の姿に戻したということになります。

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    (MFS作成)

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    (日本銀行より)

マイナス金利からゼロ金利への変更は、金融引き締めを目的としたものではなく「異次元の金融緩和から通常の金融緩和への正常化」と解釈するのが正確でしょう。

2022年以降、脱コロナやロシア・ウクライナ問題などの影響から世界的な資源高・物価高が進行し、米国や欧州といった先進国では物価高・インフレ抑制のために政策金利の引き上げ、いわゆる「利上げ」を行ってきました。なお、日本同様にマイナス金利を導入していたECB(欧州中央銀行)も2022年7月にマイナス金利を終了した後、本格的な利上げ局面に突入しました。

日本でもさまざまな物価が上がったことは身に染みて感じている人が多いと思いますが、今まで日本で起きていたのは日銀が「良いインフレ」と判断する「需要牽引型インフレ」ではなく、生産・流通コストの高騰による「コストプッシュ型インフレ」でした(下図)。

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しかし日本でも2023年以降じわじわと物価高を起点とした賃上げの動きが広がり、3月13日に集中回答日を迎えた2024年度「春闘」では製造業や運輸、外食、小売など幅広い業界で労働組合の要求に対して満額回答、または要求以上の賃上げが相次ぎました。

これまで植田総裁は金融政策を転換する上で「賃金が上昇しているかどうか」を重視していると度々言及してきたことから、今回の春闘の結果を見て「良いインフレの循環が日本経済に生まれつつある」⇨「マイナス金利という過度な金融緩和の解除」というストーリーを実現したものと考えています。

2.解除後の変動金利はどうなる?

では、住宅ローン変動金利は今後どうなるのでしょうか。マイナス金利解除発表後の会見では植田総裁が「当面緩和的な金融環境が継続する。金融機関の貸出金利が大幅に上がる事態は想定していない」との発言したことも踏まえ、モゲチェックでは「ゼロ金利が続くため、変動金利は低い金利が続く」と考えています。

まず変動金利の仕組みからおさらいすると、変動金利は「適用金利 = 基準金利 - 引き下げ幅(優遇幅)」の計算式で成り立ち、このうち引き下げ幅は住宅ローン契約書で定められていて完済まで変わらないため、基準金利が上がらない限り、いま住宅ローンを借りている人の変動金利は上がりません。

そして一般的に変動金利の基準金利は「短プラ(短期プライムレート)」がベースとなっていますが、短プラは2009年1月に1.475%になって以降、2010年に誘導目標を"0.1%前後"から"0.0%〜0.1%"に変更した際も、2016年に日銀が▲0.1%のマイナス金利を導入した際も、下がることはありませんでした。本来短プラは企業向け貸出金利に使われるレートなので、金融機関の利益確保の観点から、政策金利が一定水準以下になっても短プラを下げる余地がなかったのだと考えられます。

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となると、「金融機関はマイナス金利解除を受けて即座に短プラを引き上げる合理的な理由を持っていない」ということになります。となると、これから変動金利に起こる変化は、大きく2つのフェーズに分けられるでしょう。

<フェーズ1>
・マイナス金利からゼロ金利に移行
・これから新規に住宅ローンを利用する人の変動金利が上昇
・変動金利を利用中の人は返済に変化なし
 
<フェーズ2>
・政策金利がゼロ金利から0.1%以上に利上げ
・変動金利を利用中の人の金利も上昇(本格的な金利上昇)

<フェーズ1>がまさに現在です。すぐに短プラも基準金利も上がらないとみられ、すでに変動金利を利用中の人の返済には変化がないでしょう。しかし、これまで変動金利の引き下げ競争の中心であった「引き下げ幅」が縮小され始め、これから新規に変動金利で借りる人の適用金利は上がる可能性があります。

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なお、注意すべきはネット銀行住宅ローンです。下図のように楽天銀行やauじぶん銀行はマイナス金利導入時に変動金利の基準金利を引き下げているため、こうした短プラ連動ではないネット銀行はマイナス金利の解除をもって基準金利を引き上げる可能性があります。
(もちろんネット銀行も他行と住宅ローンの顧客獲得競争を行う関係上、むやみに金利を上げられるとは限りません)

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そして、将来的に金融引き締めが本格的なものとなり<フェーズ2>に移行すると、ようやく基準金利が上昇し、すでに利用中の人の変動金利も上がり始めるという流れになると考えられます。

しかし、1月に開いた記者会見で植田総裁は「(マイナス金利解除後も)極めて緩和的な金融環境が当面続く」との見通しを示しており、マイナス金利解除後、次の利上げまでには相応に時間がかかるものとみられます。

そもそも今回の決定は「マイナス金利」という異常とも言えるほどの異次元金融緩和を脱却し、通常の金融緩和に戻すという側面が強いと考えられます。米国など他の先進国では現在、すでに利上げではなく利下げ局面へ移行しつつあることも踏まえると、日銀が矢継ぎ早に利上げを行うとまでは考えにくく、<フェーズ2>の到来はまだ先になるでしょう。

ただ、安定的な2%の物価目標を達成した場合には、緩和の度合いを縮小する可能性があるため、将来的な金利上昇リスクに備える必要があるとも考えています。

3.中長期的な金利環境と変動金利の見通し

それでは、10年先・20年先を見据えたときに日本の金利環境、ひいては住宅ローン変動金利はどうなるのでしょうか。モゲチェックとしては日本が米国のように高金利環境になるとは考えておらず、低金利が当面続くと考えています。

現在の日本は少子高齢化の中にあり、今後労働人口はどんどん減少していきます。人手不足に陥らないよう賃金を上げて労働力を確保しようとする動きがインフレ圧力となる一方で、人口減少によってあらゆるモノ・サービスへの需要が減少するというデフレ圧力もあり、その綱引きが日本の慢性的な悩みとなり続けるでしょう。

なお、人手不足はAIやロボットによって解消される可能性もあります。また、日本は労働者の解雇要件が他国と比べて厳しく、いくら労働力確保のためとは言え、賃金上昇が青天井に上がっていくとは考えづらく、他国と比べて上昇カーブが緩やかになる可能性があります。

金融引き締め=政策金利の引き上げは過度なインフレを抑制するために行われるものなので、現在の物価上昇率が2%を超えて大幅に高くならない限り、日銀が金融引き締めに政策転換することはないと考えます。

一方で、日本では毎年約0.7%の人口減となっており、少子高齢化に歯止めがかかっていません。人口動態に起因するデフレ圧力は相当高く、日銀は今後もデフレ阻止のための緩和的な金融政策を取らざるを得ないでしょう。

デフレが進むとモノ・サービスの値段は下がり、企業は儲からないので賃金を抑制し消費が停滞、そしてさらにモノ・サービスの値段が下がるという風に、どんどん経済が縮小してしまいます。日本が人口減少という本質的な問題を解決できない以上、日銀は金利を高く据え置くような政策を取ることができないでしょう。

忘れてはならないのは金利が上がること自体がリスクなのではなく、「賃金が上がらないのに金利が上がることがリスク」という点です。金利は経済の体温計と呼ばれ、好景気になって賃金が上がる局面で金利も上がることは、ごく自然なことです。住宅ローンの返済が増えても賃金が同様に上がっているのであれば、金利コストを支払う原資はあるため、金利上昇リスクを過度に恐れることはないと考えられます。

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4.変動vs固定!モゲチェックのオススメは

これから変動金利が上がる可能性があるとしたときに、「変動金利と固定金利どっちを選べばいいの?」と疑問を持つ方もいるかもしれません。モゲチェックとしては、それでもやはり変動金利が優位だと考えています。

理由は、
 
(1)住宅ローンは最初の10年をより低金利で通過することが大事であること
(2)固定の方が有利になるためには、7回以上の利上げが必要になるため現実的ではないこと  
の2点です。それぞれ解説していきます。

(1)住宅ローンは最初の10年を低金利で通過すべき

住宅ローン利用者の多くは月々の返済額が一定になる「元利均等返済」を利用しますが、この性質上、35年の住宅ローンを組む場合は最初の10年で利息総額の半分を支払うことになります。

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例えば【元本が3,500万円、35年払い、金利が0.5%(元利均等返済)】の場合、毎月の返済額は90,856円です。そのうち、初回の返済では利息が14,584円ですが、ちょうど10年後にあたる120回目では10,708円、最終回ではなんと38円にまで減ります。そして、35年間で支払う利息総額が316万円であるのに対し、最初の10年間で支払う金利はほぼ半分(48%)の152万円です。

住宅ローンは文字通りローンなので利息をつけて返済することになりますが、利用者からすれば支払う利息は少ない方が良いでしょう。となると、より利息総額を抑えるためには最初10年に少しでも低金利のローンを使うことが肝心であり、低金利が提供されている変動金利が理にかなっていると言えます。

(2)固定が有利になるには7回以上の利上げが必要

以下は2024年3月時点での変動金利・固定金利の相場です。変動金利はネット銀行だと約0.4%、固定金利はフラット35で約1.8%です。変動・固定の金利差は1.4%ですので、「変動金利が1.4%以上上昇するのであれば固定金利を使う方が有利」ということになります。

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中央銀行による利上げは通常は0.25%ずつですが、日本では+0.1%⇨0%(ゼロ金利)⇨▲0.1%(マイナス金利)と変遷してきているため、その逆のことが起こると仮定すると、0.25%ずつの利上げで現在の変動金利0.4%が固定金利の1.8%と同水準に達するまでにはさらに7回の利上げが必要となります。

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マイナス金利を解除しゼロ金利にするのでさえこれだけ騒ぎになっているのに、日銀が拙速に7回もの利上げを行うことは非現実的でしょう。そのため、固定金利が優位になる局面が来る可能性は極めて低く、変動金利を使う方が優位であると考えています。

5.まとめ:これからも変動がオススメ! 万が一に備えた資産運用も

ここまでマイナス金利解除後の住宅ローン金利について解説してきました。いかがだったでしょうか。

モゲチェックでは中長期的な金利環境も見据え、引き続き変動金利をオススメしています。

しかし将来のことを言い当てられる人はどこにもおらず、日本経済に急速な変化が起こる可能性もゼロではありません。万が一の金利上昇局面にも備えておくことも大切です。ここで皆さんにオススメしたいのが「変動・固定の返済の差分を資産運用する」ことです。

【元本が3,500万円・35年払い・元利均等返済】の住宅ローンを変動金利0.4%と固定金利1.8%で返済額を比較すると、返済額は変動金利なら89,316円、固定金利なら112,381円です。固定金利を使っていたら月々の返済で消えていた差額の約23,000円を積立投資などで資産運用しておけば、将来的に変動金利が上昇した際に取り崩したり繰り上げ返済の原資に活用したりと、家計の助けになるでしょう。

2024年から大幅拡充された新NISAやiDeCoといった税制優遇も活用しながら、賢く住宅ローンと付き合うことをオススメします。

著者: 塩澤・堀江
株式会社MFS 住宅ローン金利分析チーム
「モゲ澤」でおなじみの住宅ローンアナリスト・塩澤崇とチーフアナリスト・堀江勇介より、グローバル景気や金融政策を踏まえた住宅ローン金利予想・最新動向をお届けします。