フリーランスのサポートを行う税理士の廣岡実氏は、会社員からフリーランスに転身したばかりのときほど「お金のことに注意が必要」だと言いまます。

というのも、サラリーマン時代と比べて、特に税金などのお金のルールの違いに戸惑う人が非常に多く、失敗もしやすいというのです。

そこで本記事では「脱サラしてフリーランスになる時に注意しておきたいこと」を廣岡氏より解説してもらいます。

はじめの第一歩は、お金の管理能力を身につけること

サラリーマンから働き方をフリーランスに変える際、はじめの第一歩として、お金の管理能力をつけることが重要になってきます。

どんなにフリーランスとして仕事のスキルが高く、仕事をたくさんこなせる人でも、どんぶり勘定で自分がいくら稼いで、いくら使っているのかも分からなければお金の不安はなくなりません。

フリーランスであれば、仕事の進行スケジュールはしっかり把握していると思いますが、それと同じぐらいに入金と出金のスケジュールを頭に入れておくことが大事です。

お金の管理能力がグンと上がる4ステップでできる「資金繰り表」のつくり方

お金の管理能力をあげるためにも、ぜひ「資金繰り表」を作成していただきたいと思います。

といっても難しい話ではなく、要するに家計簿のビジネス版だと思っていただければ大丈夫です。

詳しいやり方は拙著『お金の管理が苦手なフリーランスのための お金と税金のことが90分でわかる本』(アスコム)に譲りますが、ざっくり4つのステップで完成します。

ステップ1:毎月の予測(目標)売上高を記入

フリーランスは月々の収入が安定しないケースが多いでしょう。とはいえ進行中の仕事の進捗などを踏まえて考えれば、何月にいくら、その翌月にはいくら、といったような大まかなめどを立てることができるでしょう。

まずはざっくりでいいので月々の売上(目標)を記入します。

ステップ2:その売上にかかるであろう、直接経費を記入

仕入れ金額・外注費・仕事関係の飲食代など月々かかるであろう経費を記入します。経費についても月によって変動することはありますが、おおよその予測として算出しておきます。

ステップ3:生活費の予算を記入

生活費にかかるおおよその合算額を記入します。

ステップ4:今年度かかる納税予定表を記入

確定申告が終われば、おおよその税金額もわかります。それぞれの金額を記入しておきましょう。

「資金繰り表」があれば今までに実績がなくても銀行融資はゲットできる

この「資金繰り表」を作っていくと、自分のビジネスのお金の流れが分かるだけでなく、将来融資を受けたい時にとても役に立ちます。

私のお客さんでこんな例がありました。

都心でバーを経営しているKさんは、もともと異業種の会社員からの転職組。社交的で仕事や趣味のほか、異業種交流会などにも積極的に参加していたこともあり、しっかりした人脈はありました。

ただし開業資金には多少の不安がありました。会社員時代の貯金や退職金もありましたが、全額を開業資金に充ててしまうわけにもいきません。そこで頼ったのが金融機関からの融資。とりあえず日本政策金融公庫の扉をたたき、いろいろとお話を聞いてきました。

当初の反応は決して芳しいものではありませんでした。バーの業務経験は、Kさん自身も学生時代のアルバイトがありましたが、経営者としての実績は全くない状態でした。

それなりの自己資金があるとはいえ、最初の感触は、希望額の融資はなかなか難しそうだったと言います。

そこで、なるべく実現可能な予測を立ててしっかりとした事業計画を作ることをアドバイスしました。

慣れない人が事業計画を作ると、「思い」や「コンセプト」ばかりの起業家が多いのですが、事業計画で最も大事なのは「数字」です。

どれくらいの売上がたてられて、どれくらいの経費がかかって、儲けはいくらになり、その結果、資金はどれくらい残るのか?

特に融資を受ける場合はこの利益から返済原資をひねり出すので、利益とその裏付けとなる資金残高はとても大事になります。

事業計画の作成に当たっては、まずは売上計画を作成します。

売上というのは基本的に「単価×個数」。バーの場合は「単価×人数×営業日数」ですから、まずは一人当たりいくら使ってもらうか、お店には何人収容できて、滞在時間は何時間くらいで、何回転できるか、そして営業日数はどれくらいにするのかを考えて、現実的な売上計画を練ってもらいました。

そのうえで必要な仕入れ金額や家賃、人件費を想定してもらって、詳細な月ごとの事業計画書が出来上がりました。

これをもとにして月ごとと日ごとの入金と出金をまとめた資金繰り表も作り、分厚い事業計画書にして提出したところ、融資担当の態度は好転するようになりました。

結果的に、Kさんは希望額の融資を手にすることができ、自己資金をすべて開業資金につぎ込まずに店のオープンにこぎつけることができたのです。

後からあわてる前にやっておきたい事務手続きのあれこれ

ほかにも注意しておきたい事務手続きがあります。

フリーランスになって仕事をするようになったら、目の前の仕事や営業に忙しく、事務的な作業は後回しになりがちです。ここでは忘れずにやっておきたいことを厳選し、ピックアップします。

開業届を提出する

この本では個人事業主も自営業者もまとめて「フリーランス」と表現していますが、厳密にいうと、「フリーランス」とは特定の組織に属さず取引先から報酬を受ける「働き方」を指しています。

税法上で個人事業主として業務を始めるには、個人事業開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)の提出が必要です。

原則として事業開始日から1ヶ月以内に提出することが義務付けられていますが、提出し忘れてもとくに罰則はないので、そのままになっているフリーランスも少なくはないでしょう。

ですが、次に説明する「青色申告承認申請書」と一緒に提出すれば、「青色申告特別控除」を受けることができますし、法人での銀行口座も作りやすくなるなどのメリットもあります。

青色申告承認申請書を提出する

青色申告を希望する場合は税務署に申請書を提出します。新たに開業する場合、事業開始から2ヶ月以内の提出が求められますが、前に紹介した開業届と一緒に提出するのがおすすめ。

すでに事業を始めている場合は、青色申告をしようとする年の3月15日までに提出します。確定申告の際に一緒に提出すればいいでしょう。

ただし、その適用は来年からとなります。提出書類は税務署に置いてあるほか、パソコンからe-Taxのソフトを使って作成することができます。

会社を辞めることになったら、健康保険・国民年金の加入も忘れずに!

さらに会社を辞めてフリーランス一本で勝負することになったとします。そうなった場合に注意していただきたいのが、「健康保険・国民年金」です。1つずつ解説していきましょう。

健康保険に加入する

会社に勤めているかどうかにかかわらず、必要不可欠なものの一つが健康保険。基本的に、会社員時代に加入していた社会保険は、退職すると原則として保険証を返却して脱退することになります。

転職などでほかの社会保険にすぐ加入するのでなければ、退職した翌日から14日以内に国民健康保険に加入しなければなりません。選択肢は4つ。

●国民健康保険に入る
●勤めていた会社の健康保険を任意継続する(2年間)
●家族の健康保険組合に扶養に入る
●各業界で運営している国民健康保険組合に入る

一般的に、会社を辞めてフリーランスとして働く場合には、国民健康保険に加入するケースが多くなります。

もしも以前の健康保険を脱退したままであれば、医者にかかった場合の治療費は全額負担となります。

万が一のことを考え、退職後はなるべく早く国民健康保険に加入するのがいいでしょう。

国民年金に加入する

健康保険と同様に、会社を辞めると同時に、会社が入っていた厚生年金は脱退し、国民年金に加入することになります。

加入手続きは原則として、健康保険と同様に退職した翌日から14日以内。なお、フリーランスの場合、年金保険料は経費として認められるので、確定申告の際の還付の対象となります。

国民年金は厚生年金に比べて支給される年金額が低くなってしまいます。その差額を埋めるには、国民年金に加え、国民年金基金や付加年金、iDeCo(個人型確定拠出年金)、小規模企業共済などを利用することがおすすめです。

著者プロフィール:廣岡実(ひろおか・みのる)

1959年生まれ。1995年、税理士資格取得と同時に「税理士廣岡事務所」を設立。
2024年1月に税理士法人TOTALのパートナーとして合流、神田事務所所長となる。
きめ細かいアドバイスが人気で「先生のおかげで起業できた」「事業が拡大した」という声も多い。