最近では昭和だけでなく、平成も「レトロ」といわれるようになってしまった。平成ド真ん中の1990年代を彩った名車は、令和に乗ると古くさいのか、それとも変わらぬときめきがあるのか。トヨタ自動車「80型スープラ」をKINTOの「特選旧車レンタカー」で借りて乗ってみた。
本格的なスポーツカーとして登場した80スープラ
「スープラ」はトヨタが「セリカ」を北米で販売するときに使った車名だ。日本国内では1986年登場の「70型スープラ」からこの名前を使い始めた。80スープラは日本では2代目(海外向けでは4代目)ということになる。このクルマの源流にあるのは、前に試乗記を掲載した「セリカXX」だ。
80スープラの初公開は1993年。キャッチコピーは「THE SPORTS OF TOYOTA」だった。ボディは初代スープラ(海外向けでは3代目)と比べると全体的に丸みを帯び、全長とホイールベースは短く、トレッド(クルマを真正面から見たときの左右のタイヤの接地面の距離)は広くなっている。ド迫力の大型リアスポイラーを採用するなど、大幅なフルモデルチェンジだった。
80スープラは、これまでのようなスペシャリティカーとしてではなく、本格スポーツカーとして展開していくという意気込みにあふれている。個人的な話にはなるが、筆者が中学生だった当時、なぜか突然、担任の男性教諭がホームルームで80スープラの良さを語りだしたことがある。クルマにさほど興味がありそうな担任ではなかったのだが、80スープラがほしいという思いがあふれてのことだったようだ。それくらい、80スープラの登場はインパクトがあったのだろう。
80スープラは6気筒3Lツインカムターボエンジンを搭載。トランスミッションは6速MTだ。サスペンションは新設計(当時)の4輪ダブルウィッシュボーンサスペンション。ビルシュタイン製のショックアブソーバや超扁平タイヤなども装備していて走行性能が高い。
クラッチは硬いけど…
運転席に乗り込むとRECARO製シートが体をがっしりとホールドしてくれる。座り心地は硬く、体をブレさせないという本気度が伝わってくる。ところがエンジンを始動して走り始めると、路面からの突き上げがあまりなく、楽に運転できた。
クラッチを踏み込んだときの硬さには正直驚いたが、硬いがゆえに半クラッチはやりやすかった。一時停止や右左折、低速走行時など、半クラッチが必要な場面で硬さはいい方向に働いてくれた。マニュアル車に久しぶりに乗る人、あるいは初めて乗るという人には驚くほどの硬さかもしれないが、慣れればむしろ快適に感じるだろう。
80スープラを堪能するには、ある程度の加速が欠かせない。そこで、交通量が極端に少なく道幅の広い片側2車線の道路で、赤信号で停止した状態から一気に加速してみた。もちろん、前後左右と対向にクルマがいないことを確認し、制限速度を厳守してのことだ。
すると、2速からの加速力が半端ないほど強烈で、体がシートに強く押し付けられた。それでもRECARO製シートのおかげで安定感があり、ハンドルやシフトレバーの操作にもまったく支障がなかった。よく考え抜かれたシートポジションだということがわかる。
シフトレバーはかなり高い位置にある。これがシフトチェンジのしやすさにつながっていて、とっさのシフトアップ、シフトダウンにも素早く対応できた。インパネ周りはドライバー側にせり出し、丸いメーター類がどこか航空機のコックピットを思わせ、気分が高揚した。
80スープラはセリカXXが源流にあるというのは先に述べた通りだが、あらためてじっくりと試乗してみて、まったく別のクルマに仕上がっていることがわかった。
80スープラの使い勝手を確認!
クルマとしての使い勝手も確認してみた。
まず後席への乗り込みだが、クーペスタイルの2ドアなので、やはり乗り降りはしづらい。この点は仕方ないが、乗り込んでしまえば広くはないものの、座り心地はいい。ラゲッジスペースは当然ながら狭い。荷室は浅く、あまり多くの荷物は積み込めない。むしろ、ラゲッジスペースがあるだけありがたいと思うべきなのだろう。1人もしくは2人だけで、荷物を最小限に抑え、ひたすら走りを楽しむべきクルマなのだと実感した。
80スープラは2002年8月に生産を終了し、すでに22年が経過しているが、今なお熱狂的なファンがいる。生産終了後にも数多くのレースに参戦し、活躍を続けた。その後、しばらくは後継モデルが登場しなかったが、17年ぶりとなる2019年に国内では3代目(通算5代目)となる「DB型スープラ」(GRスープラ)がデビュー。ファンならずとも喜んだ人は多かったはずだ。
なおKINTOでは、このDB型スープラを含めたセリカXX、80スープラなど4台を一気に乗り比べられる「スープラ 一気乗り」プランを期間限定で開催中(2024年5月31日まで)。新旧4世代のスープラを乗り比べられる貴重な機会だ。