「旧車」と一口に言っても、クラシックカーからちょっとだけ古い平成レトロなクルマまで選択肢は多岐にわたる。今回は「Vintage Club by KINTO」の「特選旧車レンタカー」にラインアップされている「ネオクラシックカー」のトヨタ「MR2」に試乗し、魅力を探ってみた。「常識では考えられないクルマを作ろう」というコンセプトのもと作られたといわれるMR2。はたしてどんなクルマ?

  • トヨタ「MR2 G-Limited 」

    現代の都市にもよくなじむ「MR2」の「G-Limited」。白とシルバーの2トーンがシブい!

日本車初のミッドシップは意外に静か?

MR2はトヨタ自動車が1984年から1999年まで製造、販売していた2ドアクーペスタイルのスポーツカーだ。日本車として初めて市販された「ミッドシップ」として話題を呼んだクルマである。ミッドシップとは、エンジンをフロントとリアの中間(MR2の場合はシートのすぐ後ろ付近)に積むタイプのクルマを指す。

  • トヨタ「MR2 G-Limited」

    大型のリアウイングを備える「MR2」。「Vintage Club by KINTO」の「特選旧車レンタカー」はトヨタ自動車と新明工業がレストアした車両を使っているので安心感が高い

  • こちらが同じ個体のレストア前の状態。エンジンがけっこう傷んでいるように見えるが、今では都内を快調に走れる状態にまで復活している

一般的な乗用車の多くはエンジンを前方のボンネットに搭載している(フロントエンジン)。一方、レースでも使われるようなスーパーカーは、エンジンを後方のトランクに置いていることが多い(リアエンジン)。リアエンジンのクルマとしては、F1のマシンを想像していただければわかりやすいだろう。

それでは、ミッドシップのメリットとは何か。

クルマのエンジンは、かなり重い。その重いエンジンをフロントとリアの中間に置くことで、クルマは旋回しやすくなり、走行性能が高まる。さらに、車体全体の重量バランスもよくなり、安定性向上にもつながるといわれている。「走りを突き詰めるならミッドシップ」といわれるゆえんだ。

一方で、ミッドシップには車内空間が狭くなるというデメリットがある。人が乗るはずのところにエンジンが載っているのだから、当然といえば当然だ。

MR2は始めから2人乗りとして設計することで、車内が狭くなるミッドシップの弱点を解消している。そもそも4人ないし5人で乗れないこと自体がデメリットともいえるのだが、2人乗りのクルマと割り切れば、車内の空間は十分に広い。実際に乗っても、そこまで窮屈な感じはしなかった。

  • トヨタ「MR2 G-Limited」

    レッドとブラックのカラーが印象的なシート。適度にカラダをホールドしてくれて座り心地も良好だ

  • トヨタ「MR2 G-Limited」

    メーターまわりが大きく張り出していて、どこか近未来的なコックピット

試乗したのは1988年式のMR2 G-Limited スーパーチャージャー。5速のマニュアル(MT)車だ。今から35年も前のクルマではあるが、乗り込んだ印象はそこまで古さを感じない。質感が高いわけではないものの、どこか懐かしさを感じるインテリアだ。

点灯させるとライトがパカッ! 旧車ならではの魅力

「リトラクタブルヘッドライト」もこのクルマの特徴だ。ヘッドライトの点灯部分がボンネットに格納される仕組みを採用したヘッドライトで、最近のクルマではほぼ見かけなくなった。

  • トヨタ「MR2 G-Limited」

    最近ではすっかり見かけなくなった「リトラクタブルヘッドライト」

スポーツカーには、やはりリトラクタブルヘッドライトがよく似合う。ハンドル右脇にあるレバーを操作すれば、すぐにヘッドライトが顔を出す。その際の反応もとてもよく、何度もオンとオフを試してしまったほどだ。

  • トヨタ「MR2 G-Limited」

    ハンドル右側のヘッドライト操作レバー。点灯させるとヘッドライトがパカッと立ち上がる

  • トヨタ「MR2 G-Limited」

    シフトレバーは太くて大きい。握りやすいが少し硬めの操作感だ

街乗りにちょうどいいスポーツカー

走り出して意外に感じたのは、エンジン音の静かさだ。ミッドシップは運転席のすぐ後ろでエンジンが回転するため、どうしても回転音が耳に届きやすく、大きく聞こえてしまうもの。ところがMR2は、全くうるさく感じなかったから不思議だ。むしろ、アクセルを踏み込んだときに徐々に高まっていくスーパーチャージャーの音(モーターの回転音のような音)が、耳に心地いい。

スーパーチャージャー(スーチャーと呼ぶクルマ好きもいる)独特の音、空気を圧縮するためにコンプレッサーが稼働する何ともいえない音色は、現代のクルマでは聞くことが難しくなっている。MR2が、いつまでもエンジン音を楽しめる稀有なクルマであることは確かだろう。

“ミッドシップ”に“スーパーチャージャー”と聞くと、とてつもなく飛ばせてしまうと勘違いしてしまいそうだ。しかし、この時代(1980~90年代)のクルマに共通している点は、速すぎないスポーツカーが多いということ。MR2もまさにそうで、1速から徐々にアクセルを踏み込みシフトアップしていっても、決して「速すぎる」という感じがしない。かといって、エンジンが無理をしている感じもない。

操作のさじ加減だろうといわれそうだが、実際に試したところでは、シフトアップをしてアクセルを踏み込んでいっても、法定速度に達するまでに(慌てなければ)10秒くらいかかる。その時間的な余裕が、実にちょうどいい。ほんの数秒であっという間に100km/hに到達できるクルマももちろん魅力的だが、ゆっくりと加速できるMR2にも十分に価値がある。クルマの能力を使いきれている感じがして、運転が楽しい。

MR2は街乗りにちょうどいいスポーツカーだ。こうしたゆとりある速度感は現代のクルマ、とりわけ速さのみを追求しているスポーツカーや強力なトルクとパワーを持つ電気自動車(EV)に欠けている点だろう。

ミッドシップのMR2で旅行は無謀か?

外観や中身は本格的なスポーツカーでありながら、乗り心地に優れる点もMR2が支持されている理由。シートには適度な柔らかさがあり、それなりにカラダをホールドしてくれるため安定性が高い。ハンドルこそ重いが、走り出してしまえばさほど気にならない。

車内で快適に過ごせたのには他にもワケがある。

古いかどうかにかかわらず、クルマには空調設備のトラブルがつきものだが、Vintage Club by KINTOのMR2は整備が行き届いていて、特に冷房の効きが完璧だった。きちんと整備されている旧車であればこそ、快適にドライブが楽しめるのだ。

  • トヨタ「MR2 G-Limited」

    猛禽類が描かれた「MR2 G-Limited」のエンブレム。七宝で作られている

2人乗りのクルマは後席シートに荷物を置けないと悲観する向きもあるが、心配はいらない。リアのウイング部分を開ければ、小さめのキャリーケース2個くらいは積み込めるだけのスペースがある。広くはないが、ボンネットにも一泊分のボストンバッグくらいなら余裕で積み込める。

MR2は本格ミッドシップカーでありながら、一泊旅行くらいであれば対応できるクルマだ。「特選旧車レンタカー」でのレンタル料金は8時間2.5万円、24時間3万円。最長で5日間までレンタルできる。大人数での家族旅行は不可能だが、夫婦やカップルで出かける相棒としてMR2を選んでみるのは面白いかもしれない。

  • トヨタ「MR2 G-Limited」

    ボンネットを開けるとスペアタイヤが。このスペース、ボストンバッグくらいなら余裕で積み込めそうだ

  • トヨタ「MR2 G-Limited」

    リアウイングを開けると荷室が現れる。写真はボディカバーが入った状態だが、けっこう深さがあって十分に使えそうなスペースだった

  • トヨタ「MR2 G-Limited」
  • トヨタ「MR2 G-Limited」
  • トヨタ「MR2 G-Limited」
  • 「MR2 G-Limited」のボディサイズは全長3,950mm、全幅1,665mm、全高1,250mm、ホイールベースは2,320mm。エンジンは直列4気筒DOHC、排気量は1,587ccだ