TOEIC(トーイック)の成績優秀者は、どんな学習をしているのだろう? また、どんな経験をしてきたのだろう? 本稿では、TOEICで優秀な成績を収めた人に贈られる「IIBC AWARD OF EXCELLENCE(以下IIBC AWARD)」の2022年受賞者の金澤良太さんに話を聞いた。

  • TOEICの成績優秀者ってどんな人?

そもそもIIBC AWARDは、TOEIC Listening & Reading Test (以下、TOEIC L&R)で800点以上、かつ同じ年にTOEIC Speaking & Writing Tests(以下、TOEIC S&W)で、スピーキング160点以上かつ、ライティング170点以上を獲得した人に送られる賞だ。ちなみに、リスニング・リーディングは各495点が満点、スピーキング・ライティングは各200点が満点なので、いずれも8割以上の得点率が必要になる。

金澤さんもIIBC AWARD受賞者の一人で、TOEIC L&R、TOEIC S&Wともに約9割の得点率を誇るという。きっと留学や海外暮らしを経験し、筆者とは違う世界の人なのだろう……と思っていたら、なんとそれらの経験はないとのこと。では、どんな人生を彼は歩んできたのか。一緒にみていこう。

  • 「IIBC AWARD OF EXCELLENCE 2022」受賞者 金澤良太さん

■どこで英語を身につけた?

金澤さんは、国内の電機メーカー「アンリツ」社に勤める30代男性。同社は情報通信に必要な電子計測器を開発・製造・販売しており、売上高のうち7割以上を海外での売上が占める。そのため、金澤さんは、ほぼ毎日海外の同僚とコミュニケーションを取っているという。

そんな彼に英語の勉強を始めた時期について聞くと、公立中学校の頃からと話す。

「中学3年生の秋に、アメリカからALT(英語指導補助:Assistant Language Teacher)の先生がきました。そこで休み時間や放課後に、生徒数人と先生で雑談する時間をもうけてもらえたんです。1年生のときは1往復だった会話が、3年生の頃には何往復も会話できるようになって。英語って楽しいな、と思ったのが最初の体験でした」と笑顔になる。

その後、英語教育に熱心な公立高校に進学。3人のALTを相手に英会話の練習を続けた。外国の文化を知ることが何よりも楽しかったという。「16歳のときにTOEIC L&Rで6割以上の得点率を獲得でき、卒業までに日常生活レベルの英語力を習得できました」と金澤さん。

大学では国際法を専攻。第3言語も勉強して視野を広げたものの、海外に留学することはなかった。

だが、大学生時代には、国際政治の仕組みを理解し、国際問題の解決策を考える過程を体験できる「模擬国連(MUN)」に参加した。その中で、世界の約60カ国から学生が集まり、英語を使い意見の一致を図る国際会議にも出席。意見の異なる相手と合意形成に向け、折衝や譲歩をしながら、より良い結果を求めることに難しさとやりがいを感じたという。そんな面白くも苦労した経験は今の仕事にも生きている、と話す。

卒業後は、現在の電機メーカーに就職。2022年に初めてTOEIC S&Wを受験し、IIBC AWARDを獲得。「客観的な評価を得られたのが嬉しかったです」と金澤さん。では、どんな学習方法でTOEICにのぞんだのだろう?

■英語学習法を聞く

「TOEIC L&Rは、比較的その人にあった問題集が本屋さんで手に入ります。一方でTOEIC S&Wは参考書が少ないんですね。そこで、私は『公式TOEIC Speaking & Writing ワークブック』で学習しました」。

TOEIC L&RとS&Wどちらの学習においても、たくさんの問題にあたるよりは、精選された設問を何度も解き直すことを心がけたと話す。最終的に「間違いがなぜ間違いなのか」「なぜそうなるのか」と、人に解説できるところまで勉強した、と振り返る。

  • 身につけた語学力を仕事にも生かしている

そのほかにもTOEIC S&Wの回答のコツについて、「自分が知らない単語をわざわざ使う必要がないのがメリットです。TOEIC L&Rだと、この単語がわからないということがよくあると思うんです。ただ、S&Wの場合は、自信がない単語を使う必要がないんです」と、ポイントを解説。

ちなみに、英会話の練習方法として、シャドーイングは15歳のときから続けているという。シャドーイングとは、聞き取った英語をすぐにそのままマネして発音しつつ、その間に続けて聞こえてくる英語も聞き取り、発音する練習のこと。その有用性は教育現場でも言われているが、これについては「頭のなかで、聞き取った英会話の文章を覚えておく領域を広げる効果もあると感じています」と話す。

その上で「TOEIC L&RのListening問題においても、解き終わったものをもう1度シャドーイングしてみるとListeningにとどまらずSpeakingの練習にもなります。口に出してみると『あぁ、こういうことだったのか』と改めて会話の意図に気づくこともあるんです」と金澤さん。これに関連して、Reading問題も音読すると頭のなかが整理されてスッキリします、と続ける。

■日々の生活で心がけていることは?

現在、会社では海外向けのデジタルマーケティングを企画するチームでリーダーを務める金澤さん。チームのメンバーが書いた英語の文章に対して添削する機会も多い。そのとき「どうしてこの表現ではダメなのか」を説明する必要があり、自身としても、より深く英語を理解しようと努めるようになったそう。

英会話をする上で実践してきたのは、英語の問いかけに英語のまま理解して英語で返答すること。「相手の言語の文化的な背景をくみ取り、また相手が選んだ単語のセンスを感じ取るためにも、なるべく日本語を挟みたくないんです。その練習も兼ねて、わからない単語が出てきたときは英英辞典で調べるようにしています」と、日々の取り組みについても教えてくれた。

■英語を勉強する人へ

最後に、これから英語の勉強に取り組もうと思っているマイナビニュース読者に向けて、メッセージをもらった。

「生成AIや翻訳ツールがあるから、"外国語の勉強はしなくてもいいかな"と考える方が増えてきているかもしれません。ですが、言語文化や社会感性の理解は、"自分で受け取って考える"という生のプロセスを経験してこそできると考えています。また、相手の気持ちに寄り添ったり、共感を示したりする際、自分のことばで伝えることが人間関係の面でも大切だと思っています」。

続けて、「自分が楽しいと思えることに、自分が楽しめるアプローチで取り組んでもらえたら良いと思います。例えばレストランで食べた外国料理について海外のサイトまで飛んでいって調べて、英語のレシピのまま再現してみる。スポーツやファッション、音楽、海外旅行など日頃から趣味にしていることがあれば、同じ趣味をYouTubeで紹介している外国語のチャンネルをチェックしてみるのも良いかもしれません」。

一方で、英語へのモチベーションが薄れてしまったときはどうするかを尋ねると、「一時的に離れてみても構わないと思いますよ。そのとき、また再開したいと思えるような動機付け(例えば海外旅行など)を数か月先に用意しておくと良いでしょう。あるいは、別の言語に触れてみるのもアリだと思います」とアドバイスする。

もともと人前で話すことは得意ではなかったものの、高校で英語のスピーチコンテストに出場したことをきっかけに、その後はいろんな人とコミュニケーションをとること自体が面白くなった、と話していた金澤さん。

インタビュー中も、自身の過去の体験エピソードについて楽しそうに語り、こちらの問いかけにも熱心に耳を傾けていた。日本語にしろ英語にしろ、何よりもまずは相手との会話を楽しめる性格になること―――。語学の習得スピードを速めるコツは案外、そんなところにも隠れているのかもしれない。