呆気ない幕切れだったが、那須川天心(帝拳)がプロボクシング3連勝を飾った。1月23日、エディオンアリーナ大阪でWBA&WBO世界バンタム級14位のルイス・ロブレス(メキシコ)を3ラウンド終了時TKOで下したのだ。

  • プロボクシング3連勝を果たした那須川天心。今回の勝利で世界ランキング15位以内が確定となった(写真:藤村ノゾミ)

これで那須川の世界ランキング入りはほぼ確実で、試合後には「今後はバンタムに階級を定めて闘っていく」とも明言。これで「日本人バンタム級戦線」は、さらに熱を帯びることとなった。那須川の次戦の相手が日本人世界ランカーなら面白い─。

■プロ戦績50戦全勝

「えっ、マジ? 終わり?」
場内がざわつく中、リング上で那須川天心は、そう呟いた。
4ラウンドが始まる前にレフェリーが両手を振って試合終了を告げる。対戦相手のロブレスが右足首を傷めたことを理由に棄権したのだ。

「不完全燃焼。『ここから!』という時に終わった感じ」
試合直後、那須川はそう話し続ける。
「それでも自分の成長をファンに伝える闘いはできたと思う。相手の心を折れた。あと1、2ラウンドあれば倒せた」

その言葉通りの試合だったと思う。
右のジャブから左ボディの組み立てで積極的に攻め込んでいた。これまでの2試合は、スピードで相手を上回る闘いだったが、今回はそれに加え近い距離での攻防にも挑んでいた。
3ラウンドで相手を完全制圧。ロブレスはボディを効かされダウン寸前だった。
足首を負傷したのではなく、本当はボディに多大なダメージを負い4ラウンド目を闘えなかったのではないかと疑うほどの展開だったのである。

スカッとする結末にはならなかったが完勝。那須川にとってはプロボクシング転向後、初のKO(TKO)勝ち。そして、キックボクシング、総合格闘技、ボクシング合わせてのプロ戦績を50戦50勝無敗(2018年大晦日のフロイド・メイウェザー戦TKO負けはエキシビションマッチのため除く)とした。

  • 試合直後、プレスルームに設けられたインタビュースペースでメディアからの質問に答える那須川天心。左は元世界王者の粟生隆寛トレーナー(写真:SLAM JAM)

■「早く次の試合がしたい!」

「前回の試合では左手を傷めが、今回はほぼノーダメージ。できるだけ早く次の試合をしたい」
そう願う那須川は、試合後に2月24日、有明アリーナ『Prime Video Presents LIVE BOXING 7』でも試合を組んで欲しいと所属する帝拳ジムに打診したようだ。さすがにそれは受け入れられなかったが、春に試合を行う可能性はある。
6月か7月に開かれる『Prime Video Presents LIVE BOXING』で那須川の試合は計画されている。今回同様、寺地拳四朗(WBA&WBC世界ライトフライ級王者/BMB)世界戦とセットでの参戦だ。

だが「その前に1試合挟むことになるかもしれない」と帝拳プロモーションの本田明彦会長は言う。
「もっと試合経験を積みたいというのが本人の希望だから。ただ、いま会場を押さえるのが大変。土日だけじゃなくて平日でも大きな会場はイベントで埋まっている。海外、後楽園ホールという選択肢も残して、これから考えていきたい」
那須川の今後の試合は6月か7月で内定、その前に1試合できるかどうかの状況にある。

  • 決戦翌日にホテル日航大阪で開かれた一夜明け会見。多くの報道陣の前で写真撮影に応じる那須川天心(写真:SLAM JAM)

■あるか!?日本人世界ランカーとの対戦

さて、試合の時期以上に気になるのは次の対戦相手だ。
「バンタム級で世界を狙う」
そう那須川陣営は決めたようだが、この階級がいま熱い。
世界チャンピオン、世界ランカー(15位以内)に8人の日本人選手が名を連ねている。

井上拓真(WBA王者/大橋)
中谷潤人(WBC1位/M.T)
石田 匠(WBA1位、IBF&WBO3位/井岡)
西田凌佑(IBF1位、WBO2位/六島)
堤 聖也(WBA3位、IBF4位/角海老宝石)
比嘉大吾(WBO4位、WBA5位/志成)
武居由樹(WBA&WBO10位/大橋)
栗原慶太(WBC13位/一力)

次戦、この中の誰かと那須川が闘うなら観る者は俄然ヒートアップする。
王者である井上拓真、2月に世界挑戦し3階級制覇を目指す中谷は除くとしても残る6選手の誰かが那須川と闘うことを望みたい。

前戦、前々戦とメキシコ人の国内王者、世界ランカーと闘ってきた。しかし海外ファイターの場合、必ずしも肩書きと実力が見合っているとは限らない。そのため那須川の現時点での実力が測定しづらいが日本人世界ランカーと闘ったなら、その辺りが明確になる。緊迫感溢れる対峙になるのではないか。

「那須川は、まだ次がデビュー4戦目。その勝負は早すぎる」
そんな風に言う関係者もいる。
だが今回、ロブレスに勝ったことで那須川の世界ランキング15位以内は確定した。時期尚早でもなかろう。
「何も日本人同士で潰し合わなくても」
そんな声も聞こえる。
これはジム側の論理だ。ファンは予定調和の『那須川天心・成長物語』が見たいわけではない。キックボクシングで圧倒的な強さを誇り”神童“と呼ばれた男には、それに見合ったもっと高いハードルが用意されてもいいだろう。
(此奴に勝てるのか?)
そう思う相手に神童が挑み、突破していく姿にこそ観る者はカタルシスを得られるのだ。那須川天心は、そこまで評価すべきファイターである。

もし次戦で元K-1王者・武居由樹との一騎打ち、王者・西田凌佑に挑むWBO・APタイトルマッチが実現したなら、日本ボクシング界は熱く燃え上がると思うのだが─。

▼那須川天心、寺地拳四朗やユーリ阿久井政悟の“激闘”から刺激を受ける 世界戦へのイメージを膨らませるも「あんま激闘したくない」と持論を展開

文/近藤隆夫