1月になり、いよいよ本格的な受験シーズンに突入しました。これまで頑張ってきた成果を発揮するために何よりも大切なのが体調管理。当日に体調を崩さないよう、保護者が家庭でできる対策を上場企業産業医の甲斐沼孟(かいぬま まさや)先生にお伺いしました。

  • 受験シーズンを健康に乗り切るためのコツを医師が解説

■体調管理の基本を見直そう

――まず、体調管理の基本となることを教えてください。

甲斐沼先生:体調管理の基本は、規則正しい生活リズムをつくることであり、基本的には「早寝」「早起き」「朝ごはん」が推奨されています。

バランスのよい食事を摂取することが重要であり、特に主・主菜・副菜など3つのお皿をそろえて免疫力向上を図ることが大切です。

今より10分多く体を動かして、適度に運動習慣を持つことも重要ですし、睡眠の質を高めて日中の活動を充実させることも必要なことです。

時には、笑いや自分の趣味などを実施することでストレスを解消して発散することも認識しておきましょう。

――「睡眠」が大切な理由は? どのくらいの睡眠時間を確保すればよいでしょうか。

甲斐沼先生:睡眠中は、ただ体を休めるだけではなく、心身の修復や記憶の整理をしていますし、体は、眠っている間に成長ホルモンを分泌し、疲れを癒して、傷んだ部分を修復しますので睡眠は重要な要素となっています。

睡眠で大事なことは、睡眠時間の確保と体内リズムを整えることであり、睡眠でまず大事になるのは睡眠時間をきちんと確保することです。

厚生労働省は、複数の調査研究から、7時間前後の睡眠時間の人が、生活習慣病やうつ病の発症および死亡に至る危険性が最も低いと発表しています。

これより長い睡眠、短い睡眠のいずれもこれらの危険性を増加させることから、成人においてはおよそ6~8時間が適正な睡眠時間と考えられています。

■受験期の感染症対策

――「感染症対策」のために気を付けたいポイントを教えてください

甲斐沼先生:冬場など受験シーズンにおける感染症予防には、3密(密閉・密集・密接)を避けることや、こまめな手洗い・手指消毒などを中心として、自分自身の体調を整えることがなによりも大切です。

厚生労働省も公表している感染症対策の基本は、「手洗い」や「マスクの着用を含む咳エチケット」であり、手洗い・マスクの着用などを含む感染予防対策を、日常的に習慣づけておきましょう。

一般的に、ウイルスの感染経路としては、飛沫感染のほかに接触感染にも注意が必要ですので、特に手指消毒は適切に行う必要があります。

また、風邪や季節性インフルエンザが流行する受験シーズンには、予防接種を受けて、免疫力をあらかじめつけておくなどのワクチン対策も大切ですので、ひとりひとりが感染症対策に努めていただくことが大切なポイントです。

■勉強に集中できる「環境作り」のコツ

――集中できる「学習環境」を整えるために必要なことは?

甲斐沼先生:学習環境をより効果的にするには、室内の温度や湿度など、室内環境も重要な要素となります。

室温と生産性の関連性についてのある研究では、室温が21~22℃になるまでは生産性が上昇し、23~24℃以上になると生産性が下がりはじめるという結果が出ています。

文部科学省が学校保健安全法に基づいて定めた「学校環境衛生管理マニュアル」によると、教室等の室内環境では温度が17℃以上28℃以下、相対湿度が30%以上80%以下であることが望ましいとされています。

人が快適と感じる相対湿度は40~70%と言われており、受験生の子どもたちが勉強に集中できる環境を整えるには、乾燥しすぎることも、じめじめすることもない適切な湿度を保って定期的に換気することが重要です。

■食事で免疫力アップするポイント

――「食事」で気を付けたいポイントを教えてください

甲斐沼先生:免疫細胞や免疫物質の主要な成分はたんぱく質であり、たんぱく質が足りないと免疫力が落ちるもとになりますので、バランスよく肉や魚、卵、大豆製品、乳製品をしっかり摂りましょう。

また、活性酸素は老化や喫煙や紫外線、様々な物質への暴露などによって体内に増え、免疫能の低下をもたらすと言われていて、ビタミン類を積極的に摂ることは抗酸化作用を高め、免疫力アップの助けになります。

さらに、腸内環境を整える発酵食品(ヨーグルト、チーズ、納豆、みそ、漬物など)や食物繊維(海藻類、キノコ類など)をうまく取り入れることで免疫力向上が期待できます。

――「免疫力」はなぜ大切なのでしょうか、免疫力を高める方法と合わせて教えてください

甲斐沼先生:免疫システムとは、私たちのカラダの組織をあらゆる害敵から守る能力であり、自然免疫とは、からだにもともと備わる防御力で、病原体や異物に立ち向かうアビリティーです。

免疫力は、日中の活動中に高まり、夜になると低下する傾向がありますので、免疫力を高めるためには、決まった時刻に起きて食事を摂り、しっかりとからだを動かすことが重要であり、活動と休養という一定のリズムを保つことが大切です。

免疫細胞を活性化し、免疫物質の産生を促すためには、特に日常的にバランスよく様々な食品を食べる事が大切です。

■子どものカフェイン摂取には要注意!

――子どもが眠気覚ましにコーヒーを飲んでいますが、カフェインを摂取しても大丈夫でしょうか?

甲斐沼先生:受験シーズンを迎え、子どもが眠気覚ましのためカフェインをとり過ぎる場合には、中毒症状が出ることもあるので注意する必要があります。

小中学生などが受験シーズンに眠気覚ましのためエナジードリンクやコーヒーを飲み過ぎて、動悸や胸部不快感などカフェイン中毒になって夜間救急を受診する場合があります。 子どものカフェイン摂取について国内の明確な安全基準はありませんが、10歳から12歳までは85ミリグラム以下、13歳以上は体重1キロあたり2.5ミリグラム以下が一つの目安となります。

■医師からの受験アドバイス

――最後に、受験生がいる家族全体で心がけることを教えてください。

甲斐沼先生:ウイルスの一番多い感染経路は家庭内感染です。

ご家族や受験生にウイルス感染が疑われる人(あるいは感染者)がいる場合、同居のご家族は、徹底した感染対策が重要です。感染者と他の同居者の部屋を可能な限り分けて、食事や寝るときも別室にしましょう。

感染者は極力部屋から出ず、共有スペース(トイレ、バスルームなど)の利用を最小限とし、入浴の順番は家族の中で最後にしましょう。

感染者から距離を保つことや仕切りやカーテンなどを設置する、あるいは感染者の滞在は換気の良い個室を選び、窓をしばらく開けたままにするなど定期的に十分な換気をしましょう。

感染者の世話をする人は、できるだけ限られた方にするとともに、感染者と接する際は十分な距離を保ちながら、できるだけ家族全員がマスクを使用しましょう。

また、受験とは「つらい勉強をして乗り越えるもの」ではなく、「より相性のいい居心地のいい場所を選ぶための選択肢を得るもの」という共通認識を親子で持つことを推奨します。

本人が受験に前向きかどうかは、最も重要な判断基準ですし、子どもは少ない情報や一時の感情で瞬発的に判断して意見がその都度変わったりもしますので、繰り返して対話を重ねて、子供の真剣さや価値観、目指したい方向性を感じ取ることを期待しましょう。

子ども自身の「興味がある」、「やってみたい」という気持ちが受験の出発点になっていることが大切であり、親の押し付けや周囲のプレッシャーで受験を選択することは絶対に避けるべきであると考えています。

今回の情報が参考になれば幸いです。

――ありがとうございました

監修者 : 甲斐沼 孟(かいぬま まさや)先生


甲斐沼 孟

国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期総合医療センター 外科後期臨床研修医/大阪労災病院 心臓血管外科後期臨床研修医 /国立病院機構大阪医療センター 心臓血管外科医員 /大阪大学医学部附属病院 心臓血管外科非常勤医師 / 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医員

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