第73期ALSOK杯王将戦七番勝負(毎日新聞、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟主催)の第1局が行われ、今年も熱き戦いの火蓋が切って落とされましたが、本稿では2023年12月28日に発売された、『将棋世界2024年2月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)掲載の「先崎学九段と木村一基九段が振り返る、2023年の将棋界10大ニュース」より、棋界でも大きなトピックであるAIに関するコメントより、一部抜粋してお送りいたします。

  • 『将棋世界2024年2月号』より

AI研究の影響で、午前中に終局!?

木村一基九段(以下、敬称略):しかし、最近のタイトル戦はすごい勢いで手が進むようになりましたよね。今年は特に際立ったんじゃないかと思います。

先崎学九段(以下、敬称略):あれはAIの影響ですよね。AIが教えてくれたことは、囲碁とか将棋とかって、序盤はあまり関係ないんだなって(笑)。中盤以降で人は簡単に間違えるから。それにいまは、戦型によっては教わった手を指せばいい。

木村:最近は午前中に終わりそうになっちゃうじゃないですか。2日制なのに1日目で終わるときがいつか来るんじゃないかと。

先崎:そしたら観光でもして。

木村:観光はしないと思いますよ(笑)。すぐ帰るんだと思いますよ、そしたら。それで次の日の研究会の準備とかするんじゃないですか。

先崎:あー、そういう風に考える人がタイトル戦出るもんなあ(笑)。俺なんかもう、ラッキーって観光にいっちゃう。

木村:それはたぶん立会人の発想(笑)。でも本当に1日で終わるということがありうるかもしれないですね。いまのところ、2日目に大長考が続いて、終わる時間は一緒なんですよね。それは均衡が取れていて難しいのでそうなると思うんですが、1日目にどちらかが悪い手をやったら、すぐ終わっちゃうって可能性もありますよね。

先崎:いままでの勉強だったら、考えた手が正しいかどうかわからないけど、AIで事前に調べた手だったら正しいから。正しいことがわかっているなら指したほうが得っていうことなんですよね。それにしてももうちょっと考えてもいいと思うけれど。

木村:2、3分考えただけでも、序盤のアイデアとしては残るんですよ。それが何年か後に、このときこう考えたなっていうのを思い出して指したりすることもあって、無駄にはならないんですよ。

先崎:だんだんそういうアイデアというのを重要視しなくなってきているから。振り飛車のほうが自分の頭で考えている感じはあるよね。

AIとのつき合い方

―AIのお話に関連して、角換わり腰掛け銀の先後同型局面が先手必勝だという将棋ソフト開発者の見解が出されて話題を呼びました。

先崎:まあ棋士はAIを使っていろいろと調べざるをえないでしょう。それでもファンが見たいのは棋士がいい手を指して勝つ瞬間ですよ。

木村:いい手が表現されにくくなったということもあるんですよ。勝率の%とかが出ていますよね。いい手を指したところでその数字は変わらないですもの。

先崎:なぜそれがいい手なのか、すばらしい手なのかということはAIは教えてくれないから。AIは将棋の変化は教えてくれるけど将棋の魅力は伝えてくれないです。棋士は勝つためにAIを使いますけど、もうひとつ、棋士には将棋の魅力を伝えるという仕事があるから、それをどうやってやるかというのが課題ですね。

木村:プロは伝え方を工夫しないといけないかもしれませんね。AIはずいぶん振り飛車を低く評価するでしょう。それで菅井さんが勝っているのは面白いと思う。飛車を振った瞬間に評価値が下がっちゃうじゃないですか。そんなのどうでもいいと思って振ってるんですよね。俺の力で何とかしてやるって人がああやって勝っていくっていうのは、見ていてすごいものだなと思わされますよね。現代においてとても魅力的だと思います。そのことはどうしても言っておきたい。

(「先崎学、木村一基の2023年将棋界10大ニュース」より 記/會場健大)

『将棋世界2024年2月号』
発売日:2023年12月28日
特別定価:920円(本体価格836円+税10%)
判型:A5判244ページ
発行:日本将棋連盟