大分県が東九州新幹線「日豊本線ルート」「久大本線ルート」の調査結果を出した。一方、宮崎県は新八代~宮崎間を結ぶ新たな新幹線ルートの調査研究を開始するという。しかし、このルートはもはや「東九州新幹線」ではない。実現には国の方針変更を伴う。前途多難である。

  • 宮崎県は新八代~宮崎間の新幹線を検討する(点線は筆者予想)

11月29日の宮崎県議会で、自民党の坂口博美議員が「新八代と宮崎駅を結ぶルート」を提案し、宮崎県の河野俊嗣知事が調査研究を進めると答弁した。その動画がインターネットで公開されている。その要旨は次の通り。

坂口議員 : 新幹線整備について、県を挙げて長期にわたり取り組み続けているにもかかわらず、いまだ1歩の前身すら見ることなく現在に至る。直近の知事選で河野知事と票を2分した候補者(東国原英夫氏)は日豊本線を使うミニ新幹線構想を打ち上げ、相当数の県民がこれを高く評価し、大きな関心を見せた。私は工事実施上の問題、あるいは現在通行中の列車の問題(運休期間)などを考えると、現実性に欠けると考える。この構想にかかる知事のご見解を伺う。

河野知事 : ミニ新幹線は、平成4年開業の山形新幹線および平成9年開業の秋田新幹線の2例にとどまっており、導入が進んでいない。線路の曲線改良、橋梁補強、トンネル改修など、大規模な線路の改良工事が必要となる。予算の大幅な削減が期待できない。工事期間中における在来線の運休や減便、ミニ新幹線導入後の既存ダイヤの利便性低下といった問題がある。最高速度の上限が特急と同程度にとどまるなど、多額の投資に見合う効果が得られない。県は、引き続きフル規格による新幹線の実現に向けて取り組む。

坂口議員 : 知事が必要性を強く主張する東九州新幹線はどうか。基本計画では大分・宮崎・鹿児島ルートとなっている。これとは別に、鹿児島新幹線(九州新幹線)を宮崎まで延長させるほうが実現可能性は高くなるという話もある。私は、いずれについても、投資費用や隣県の負担金などの調整がきわめて高いハードルになると推察する。大分県では、従来の日豊本線ルートに加えて、日田市や由布を通る久大本線メートの調査にも着手し結果を公表した。知事が本気で新幹線の宮崎乗入れをかなえようとするなら、本県もこの熊本県の新八代からの九州横断ルートを調査検討されることが是非とも必要と考える。

河野知事 : 大都市圏から遠隔地にある本県にとって、速達性、大量輸送性に優れた新幹線の乗入れは、産業や人材を地方に呼び込み、地方創生を加速させ、本県が将来世代にわたって繁栄するための重要な交通インフラになる。東九州新幹線は昭和48年に基本計画路線に位置づけられて以降、進展のない状況にある。毎年これを要望しているが状況は打開しない状況だ。本年6月に国は基本計画路線等について、地域の実情に応じて今後の方向性を調査検討する方針を示した。熊本県新八代と本県とを結ぶルートは、今後の実現可能性などを踏まえると有力な選択肢のひとつである。県民の新幹線実現に向けた夢や期待に応えるため、新幹線をめぐるさまざまな動向を注視し、提言、提案のあったルートを含め、調査研究にしっかりと取り組んでいく。

■宮崎県は東九州新幹線に消極的だった?

坂口議員も河野知事も「実現に向けて要望活動をしている」という。宮崎県知事は「東九州新幹線鉄道建設促進期成会」の会長でもある。しかし、表立った活動は年に1回、国土交通省鉄道局長をお参りする程度。四国新幹線整備促進期成会は国土交通省政務官に要望し、都内で国会議員を巻き込んで600人規模の期成会大会を開催しており、これに比べると熱量が低い。隣県の大分県と比べても発信が少なかった。

宮崎県にとって、東九州新幹線は魅力的ではないかもしれない。だから積極的になりにくい。福岡へ行くためには、大分経由・鹿児島経由のどちらも遠回りだ。大阪・東京へ行くなら航空便があり、東京は成田空港を含めて19往復、大阪は伊丹・関空合わせて13往復ある。宮崎は昭和40年代に新婚旅行ブームが起きたところで、早期から空港や航空便が発展したという背景がある。

宮崎空港と福岡空港を結ぶ航空便は大阪より多く、14往復ある。お財布にやさしい高速バスは21往復もある。JR九州と宮交バスは新八代~宮崎間を結ぶ高速バス「B&Sみやざき」を15往復運行し、九州新幹線と接続して福岡~宮崎間ルートを提供している。セットで割引きっぷもある。

このような背景を考えると、新八代~宮崎間を結び、博多駅まで直通できる新幹線ルートは、宮崎県にとってかなり魅力的だろう。ただし、新八代~宮崎間を結ぶルートを想定すると、一直線とはいかない。地形としても人口分布としても、熊本県人吉市を経由したい。そうでなければ熊本県の理解を得られないはずだ。さかのぼると、2020年に県民から宮崎県に提言があった。宮崎県公式サイトで公開されている。

提言 : 大雨、河川の氾濫によりJR肥薩線が甚大な被害を受け、復旧に時間がかかっている。そこで宮崎~都城~人吉~新八代間に新幹線の誘致をしてほしい。県は公共交通機関をもっと重要視してほしい。

回答 : 新幹線整備は、主要都市圏から遠隔地にある本県にとりまして、長い時間軸で取り組むべき重要な課題です。本県におきましては、現在のところ、福岡県・大分県・鹿児島県・北九州市とともに基本計画路線に位置づけられている「東九州新幹線」の実現に向け活動しているところでありますのでご理解をいただきたいと存じます。

熊本県としては人吉市を経由してほしい。宮崎県としても県下第2の都市である都城市を無視できない。鉄道のネットワーク性を考慮すれば、都城駅に直結したいところだろう。一方で、八代~人吉~都城~宮崎間は九州縦貫自動車道と宮崎自動車道で結ばれている。こちらは都城市の北部をかすめていく。新幹線を建設する場合も、都城市の北部に「新都城駅」を設置したほうが最短ルートになるし、市街地を経由しないので用地買収など事業費も安くなる。この部分は知事の言う「調査研究」によって決まるだろう。

坂口議員もこのルートを念頭において議会に提案したと思われる。ちなみに坂口議員の出身地は児湯郡新富町で、最寄り駅は日豊本線の日向新富駅。宮崎駅より25kmほど北側にある。だから坂口議員の我田引水ならぬ「我田引鉄」ではなさそうだ。

提言されたルートと周辺の地図を見ると、福岡市への最短ルートだとわかる。熊本県と宮崎県を直結すると、鹿児島県をないがしろにするのかと思いがちだが、宮崎県は熊本県よりも福岡県を志向している。東九州新幹線の大分~宮崎~鹿児島中央間は、対福岡で見れば遠回りのルートになり、魅力は薄い。

■そのルートは「基本計画にはない」

宮崎県にとって「新八代~宮崎ルート」は魅力的。JR九州にとっても航空便に勝てる路線になるだろう。県民の提言にあるように、災害不通となっている肥薩線の復旧をあきらめるなら、その代替ルートにもなる。ネット上で「肥薩新幹線」とも呼ばれているようだが、この新幹線は薩摩(鹿児島県)を通らないから、肥後(熊本県)と日向(宮崎県)を結ぶ「肥日新幹線」になるだろうか。「宮崎新幹線」のほうが通じやすそうに思える。

  • 「新八代~宮崎ルート」は「昭和48年認定組」(東九州新幹線、九州横断新幹線など)ではない

しかし、このルートの実現は難しい。なぜなら「全国新幹線整備法」にもとづく「基本計画」に認定されていないからだ。新幹線建設の第1段階に満たない。東九州新幹線は「福岡市~大分市~宮崎市~鹿児島市」の計画であって、大分県は裏技的に「久大本線ルート」を検討している。「熊本市(八代市)~宮崎市」のルートは裏技も効かない。

これから国土交通大臣が基本計画に認定したとして、建設されるとしたら、東九州新幹線を含む「昭和48年認定組」の11路線の後になる。スピード感を重視するなら、東九州新幹線の鹿児島中央~宮崎間を先行開業させるほうが現実的だろう。

そこで注目すべきは、河野知事の「本年6月に国は基本計画路線等について、地域の実情に応じて今後の方向性を調査検討する方針を示した」という答弁になる。これは何か。

2023年6月16日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義 ~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」を閣議決定した。2001年に小泉内閣が決議し、「骨太の改革」と呼ばれ、歴代内閣が更新している。その最新版である。この中で、次の記述がある。

中枢中核都市等を核とした広域圏の自立的発展と「全国的な回廊ネットワーク」の形成を通じた交流・連携の強化、国際競争力の強化のため、高規格道路、整備新幹線、リニア中央新幹線、港湾等の物流・人流ネットワークの早期整備・活用、航空ネットワークの維持・活性化131、モーダルコネクトの強化、造船・海運業等の競争力強化132等に取り組む。加えて、基本計画路線及び幹線鉄道ネットワーク等の高機能化等の地域の実情に応じた今後の方向性について調査検討を行う。

この中の「基本計画路線及び幹線鉄道ネットワーク等の高機能化等の地域の実情に応じた今後の方向性について調査検討を行う」が、新幹線基本計画の見直しを予感させる。基本計画路線で「昭和48年組」が決定されてから50年が経過し、これまで新たな基本計画路線は認定されていない。「昭和48年組」のうち、整備新幹線への格上げに期待する自治体は多い。あるいは要望の低い路線の取下げ、要望の強い路線の基本計画認定、ルートの変更等が行われるかもしれない。そこに期待している自治体は宮崎県だけではないだろう。

新八代~宮崎間の新幹線が基本計画となり、あるいはひと足飛びに整備決定となるかもしれない。一方で東九州新幹線や九州横断新幹線の意義が薄れていく。また、整備手法の見直しによって、建設費の属地主義負担から応益主義負担の転換等も期待できる。九州新幹線西九州ルートの佐賀県区間問題や、北陸新幹線新大阪延伸における京都府や滋賀県の負担問題も決着するだろう。

新八代~宮崎間の建設機運の盛り上がりが、新幹線政策を変えるカギになるかもしれない。