“大衆”から“個”への時代の変化に伴い、テレビ発の流行語が減少している。特に顕著なのは、テレビCMの言葉だ。かつては毎年のようにCMのコピーが選ばれていたが、近年ほとんどノミネートされないのは、テレビの影響力低下だけでなく、企業が広告効果を重視し、「クリエイティブで遊べなくなってきているのではないか」と見ている。

そうした中でも、91年に受賞した「ダダーン ボヨヨン ボヨヨン」(ピップフジモト)を、今年なかやまきんに君でリバイバルさせた日清食品は、他にもクリエイティブに振り切ったCMを多数制作しており、新たな流行語の発信に期待がかかる。

一方、テレビ発で健闘しているのは、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)。第1回で「オシンドローム」(『おしん』)が新語部門・金賞に輝いたが、その後も「ゲゲゲの~」(10年『ゲゲゲの女房』)、「じぇじぇじぇ」(13年『あまちゃん』)、「びっくりぽん」(16年『あさが来た』)などコンスタントにノミネートされ、今年も「スエコザサ」(『らんまん』)が30語に入っている。流行語のサイクルが速くなった中で、半年にわたり平日毎朝放送されて習慣化しやすいことが、強さにつながっているようだ。

■2023年は豊作、コロナ後の明るい気持ちを反映

『現代用語の基礎知識2024』

今年の傾向を聞くと、「3月にWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)があって一気に盛り上がって、5月に新型コロナウイルスが感染症法で5類移行して様々なイベントが復活したことで、世の中が明るい気持ちになって、それが言葉にも反映されていると思います。昨年はコロナも3年目に入ってコロナ関連の言葉も定着して新しい言葉が生まれるわけでもないし、世の中が完全に動き出したわけではないのもあって、なかなか苦しかったのですが、その点、今年はわりと言葉が豊富にありました」と解説。

その反面で、「物価高や増税などがあって、防衛費も増えるということになって、タモリさんが昨年末の番組で言った『新しい戦前』という言葉が、今振り返ったときにとても印象に残るものと感じます。この言葉について、タモリさんがその後何か語っているわけではないですが、取り上げる人が多かったと思いますね」と印象を語る。

昨年は、サッカーのワールドカップ開催期間中に表彰式が重なり、「三笘の1ミリ」「ブラボー!」といった圧倒的な流行語や、10月クールに大ヒットしたドラマ『silent』(フジテレビ)が対象外に。今年の『現代用語の基礎知識』にはどれも掲載されているが、やはり年間を通してパワーを保ち続けることはできず、ノミネート入りを逃した。21年には、プロ野球・北海道日本ハムの新庄剛志監督の就任会見と、ノミネート30語の発表が同日ということで、新庄監督が発表した愛称「BIGBOSS」が漏れるという事態も。

こうした状況について、「“取りこぼし”は本当に残念で、1月1日から12月31日を対象期間にして、1月に発表という形が良いのかもしれませんが、年末に言葉を振り返るというのが定着しているので、難しいところですね。『現代用語の基礎知識』の校了が終わっても、“この言葉を入れたい!”とギリギリまで差し替えることが結構あるのですが…」と、悩ましい宿命のようだ。

■「『現代用語の基礎知識』選 2023ユーキャン新語・流行語大賞」ノミネート30語

・I'm wearing pants!(アイム・ウェアリング・パンツ)
・憧れるのをやめましょう
・新しい学校のリーダーズ/首振りダンス
・新しい戦前
・アレ(A.R.E.)
・頂き女子
・X(エックス)
・エッフェル姉さん
・NGリスト/ジャニーズ問題
・オーバーツーリズム
・推しの子/アイドル
・OSO18/アーバンベア
・蛙化現象
・5類
・10円パン
・スエコザサ
・性加害
・生成AI
・地球沸騰化
・チャットGPT
・電動キックボード
・2024年問題/ライドシェア
・ひき肉です/ちょんまげ小僧
・藤井八冠
・ペッパーミル・パフォーマンス/ラーズ・ヌートバー
・別班/VIVANT(ヴィヴァン)
・観る将
・闇バイト
・4年ぶり/声出し応援
・Y2K