■脚本は平尾さんのファンである吉田紀子氏が担当

――脚本を読んだときの印象を教えてください。

本木:脚本を書かれた吉田紀子さんはもともとラグビーと平尾さんのファンで、30年近く前にご一緒させていただいたドラマ『君と出会ってから』(96年・TBS系)で私の役名に平尾さんからとった“誠二”という名前をつけていただいた縁があります。平尾さんに思い入れがあるからこそ、凝縮して書くのは難しかったと思いますが、どう削ぎ落として、どう含みを持たせて書かれるかということには期待していました。山中教授は平尾さんのことをよく「レジリエンスの塊だ」と、つまり対応力があってしなやかさのある方だと仰っていたのですが、長く友情を育んできた2人を、昨日今日会ったばかりの僕と滝藤さんが演じるには、正に相当のレジリエンスが必要だと感じました。滝藤さんはいい意味で余白を残して現場に来てくれて、私が迷いながらどこにボールを投げてもちゃんと受け取りますよ、というスタンス。今回はベテランの演出家・藤田(明二)さんが現場を担当してくださって、僕は初めてだったんですけど、本番のテイクを1、2回ぐらい、多くても3回しか撮ってくれないんです。大変でしょ!?

滝藤:(笑)。

  • 左から滝藤賢一、本木雅弘

本木:僕はどちらかというと不器用で、何度も何度も繰り返していく中で密度を高めて、そこからまた最後に引き算していいところに持っていくという時間のかかるスタイルなんです。でも今回は平尾さんがよく口にしていた「創造的破壊」という言葉に則って、自分の弱みを壊して新しくしていくために“チャレンジをエンジョイ”しようと、藤田さんの手法に乗ることにしました。このドラマの中で平尾さんに“なりきる”つもりはないんです。あの2人が教えてくれるものを伝えるフィルターになるつもりで臨みたいなと。藤田さんが仰っていましたが、役者には欲があるから何十回、何百回とテイクを重ねたくなりがちだけど、あとから映像で比べると、「最初に撮ったのがいいね」と落ち着くこともある。フィルターとして機能するためには、役者として思いを込めたという我が強く出すぎていない、どこか肩の力が抜けているようなテイクが正しいのかなと、藤田さんを信じて進みました。滝藤さんはどう?

滝藤:同じです。「今本番だったんだ。今ので良かったんだ」の連続でしたよ。気がついたら終わっていて、夕方には帰る、みたいな(笑)。

本木:それが重いテーマのドラマを作るうえで、いい方向に作用していた気がします。70年以上生きておられる藤田さんからは、自分では気づかない部分へのアドバイスをたくさんいただけました。

  • 本木雅弘

■2人が人生で大切にしていること

――平尾さんと山中教授の生き方に考えさせられる今作ですが、お二人が人生で大切にされていることがあれば教えてください。

本木:平尾さんも山中さんも、ある意味で選ばれた者としての人生を歩みながら、自分が世の中に何かもたらすことができるならと、与えられた役割を全うしているような感謝と謙虚さがあると感じます。2人に比べると僕はまだまだヤワで、役者なんて実は地味な作業の繰り返しだし、労力を使った割には本番でカットされていたりするし、様々な意見につぶれることもありますし……。

滝藤:分かります。

  • 滝藤賢一

本木:自分は役者に向いていないと卑下することもあるのですが、それでも社会と関わるために役者という仕事が必要で、そこに自分にも与えられた役割があるはずだから、頑張ろうと奮い立たせています。平尾さんは本当はシャイで、あまり表舞台に出たくない方だったとも言われていて。それでもラグビー界のアイコンとして自らが広告塔になり、残された人生の中で闘病生活のさなかにも表に出ることで最後までラグビーに奉仕したんだなと思います。欧米には、社会的に地位のある者は何らかの形で世の中に果たす責任があるという「ノブレス・オブリージュ」といった考え方があるのですが、平尾さんは正にそれを全うした方。がんになったことに対しても、「僕は友達にも家族にも社会的にも恵まれていたから、こんなことぐらいしゃあないと思うんよ」なんて普通は言えないですよね。平尾さんのそんな生き方に、自分にも何か役目があるのなら、全うすべきなんじゃないかと改めて思わされました。

――滝藤さんが大切にされていることは。

滝藤:僕は健康で元気に生きているだけで幸せ、こんなラッキーなことはないと思っているので、「楽しんで生きようぜ」ということですね。子どもにも「誰かが楽しくしてくれるわけじゃから、自分で面白いことを見つけて楽しい人生にしろよ」と言っています。

本木:さすがです。やっぱり滝藤さんのほうが平尾さんっぽいでしょ!?(笑)

――最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。

本木:平尾さんは、「こんな男は二度と現れない。皆で平尾誠二を分けるしかない」と言われるくらいの方。今作が、平尾さんを知らない若い方々にも、平尾さんの魅力を知っていただくきっかけになればうれしいです。

滝藤:平尾さんなくして、日本ラグビーは語れません。平尾さんがラグビー界にどれだけの影響を与えたのか、このドラマをきっかけに多くの方に知っていただきたいです。

  • 左から滝藤賢一、本木雅弘
■本木雅弘
1965年12月21日生まれ、埼玉県出身。元シブがき隊のメンバーで、1988年に解散した後、本格的に俳優活動を開始。1998年、映画『シコふんじゃった。』では日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。2008年には、自らが発案し、主演を務めた映画『おくりびと』が日本映画史上初となる米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。そのほか、ドラマ『西遊記』(日本テレビ)、『水曜日の情事』(フジテレビ)、NHK大河ドラマ『徳川慶喜』、『麒麟がくる』、NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』、映画『トキワ荘の青春』、『永い言い訳』などに出演。
■滝藤賢一
1976年11月2日生まれ、愛知県出身。98年から舞台を中心に活動。 映画『クライマーズ・ハイ』(08)で一躍脚光を浴び、以降数々のドラマ、映画、CMなどで幅広く活躍。主な出演作に、ドラマ『半沢直樹』(TBS)、『俺のダンディズム』(テレビ東京)、『探偵が早すぎる』(読売テレビ)、『グレースの履歴』(NHK)など、映画『踊る大捜査線THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』『はなちゃんのみそ汁』『関ヶ原』『孤狼の血LEVEL2』『ひみつのなっちゃん。』『ミステリーと言う勿れ』など多数。